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『滅亡寸前の小国王、戦争史オタクにつき逆転を狙う』番外編  作者: 膝栗毛


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番外編② 技術革新の代償

引き継ぎお楽しみください

番外編② 技術革新の代償

平和な時代から五年後。

リヒテンブルク王国王立技術研究所。

ブライテンハーフェンの郊外に建てられた、大陸最先端の研究施設。

エドヴァルト王(二十八歳)は、白衣を着た技術者たちに囲まれていた。

「陛下、ついに完成しました」

グスタフ(七十歳)が、誇らしげに言った。

彼の横には、若き技術者ヴィルヘルム・シュミット(三十二歳)がいる。

二人が指し示したのは――

小型の、精巧な火縄銃だった。

「これは……?」

「新型火縄銃です。従来型より三十パーセント軽量化し、命中精度は五十パーセント向上しました」

ヴィルヘルムが、熱く語る。

「銃身内部に螺旋状の溝を掘ることで、弾丸に回転を与え――」

「ライフリングか」

エドヴァルトは、感嘆の声を上げた。

前世の知識にあった技術が、ついにこの世界でも実現した。

「さらに」グスタフが続けた。「こちらを」

別の試作品が運ばれてきた。

それは、火縄ではなく、小さな火打石のような機構がついている。

「これは……まさか」

「フリントロック式です」

ヴィルヘルムが説明する。

「火縄を使わず、火打石の火花で発火させます。雨天でも使用可能、暗闇でも火縄の明かりで位置がばれません」

エドヴァルトは、試作品を手に取った。

(ついに、ここまで来たか……)

(フリントロック銃が実用化されれば、軍事バランスが完全に変わる)

「量産は可能か?」

「それが……」グスタフは渋い顔をした。

「機構が複雑で、熟練工でないと作れません。現状では月産十挺が限界です」

「なるほど」

エドヴァルトは考えた。

「まずは特殊部隊用に少数生産。量産技術を確立してから、全軍配備だな」

「賢明な判断です」


その日の午後。

エドヴァルトは、研究所の別棟を訪れた。

そこには、巨大な蒸気機関が設置されていた。

シュー、シュー、と蒸気の音。

ゴトゴト、と機械が動く音。

「陛下、こちらです!」

若き発明家、カール・ベンツ(二十五歳)が、興奮した様子で迎えた。

「蒸気機関、ついに実用レベルに達しました!」

エドヴァルトは、その機械を見た。

巨大なボイラー、ピストン、歯車――

「これで、何ができる?」

「現在は、水のくみ上げに使っています。十人分の仕事を、この機械一台で」

「素晴らしい」

「さらに!」カールは、別の図面を広げた。

「この機関を小型化すれば、船に搭載できます。帆がなくても、蒸気の力で進む船――蒸気船です!」

エドヴァルトの目が、輝いた。

「蒸気船……」

(産業革命が、始まろうとしている)

(だが――)

彼は、ふと不安を感じた。

(これは、諸刃の剣だ)


その夜、王宮。

エドヴァルトは、妻のマリア王妃(二十三歳)と夕食を取っていた。

そう、五年前の出会いから三年後、二人は結婚していた。

「今日も、研究所に?」

マリアが、微笑みながら尋ねた。

「ああ。新しい技術が次々と……」

「楽しそうですね」

「まあな」

エドヴァルトは、ワインを飲んだ。

「でも……少し、怖くもある」

「怖い?」

「技術が進歩しすぎると、制御できなくなる気がするんだ」

マリアは、夫の手を取った。

「大丈夫です。あなたなら、きっと正しく導けます」

「そうだといいんだが……」

その時、侍従が慌てて入ってきた。

「陛下! 緊急の報告です!」

「何事だ?」

「王立造船所で、火災が発生しました!」

「何!?」


ブライテンハーフェン、王立造船所。

到着したエドヴァルトが見たのは、炎に包まれた建物だった。

「消火を! 早く!」

人々が、バケツリレーで消火活動をしている。

だが、火の勢いは強い。

「何が起きた!?」

造船所長のマルクス(六十歳)が、すすだらけの顔で答えた。

「蒸気機関の試験中に、ボイラーが爆発しました……」

「負傷者は!?」

「三名が重傷、五名が軽傷……そして……」

マルクスは、唇を震わせた。

「カール・ベンツが、中に取り残されています」

エドヴァルトは、炎上する建物を見た。

「馬鹿な! 誰か助けに!」

「無理です! 中は火の海で!」

「くそっ……!」

エドヴァルトは、水を被って建物に飛び込もうとした。

「陛下!」

フランツが、止めた。

「危険です! 陛下が死ねば、王国が!」

「だが、カールが!」

その時――

建物の一部が、崩れ落ちた。


翌朝。

火は鎮火した。

そして、瓦礫の中から――

カール・ベンツの遺体が見つかった。

エドヴァルトは、その場に膝をついた。

「カール……すまない……」

若き天才発明家は、二十五歳でその生涯を閉じた。

葬儀には、王国中の技術者が集まった。

エドヴァルトは、弔辞を述べた。

「カール・ベンツは、未来を見ていた。蒸気の力で、世界を変えようとしていた」

「彼の死は……我々に教えてくれた。技術は、諸刃の剣だということを」

「我々は、彼の遺志を継ぐ。だが、同時に――安全を最優先にする」

エドヴァルトは、集まった技術者たちを見た。

「今日から、すべての実験に安全基準を設ける。どんなに革新的な技術でも、人命を危険にさらすものは許可しない」


一ヶ月後。

王立技術研究所に、新しい部署が設立された。

「安全管理局」

すべての実験、すべての新技術は、この部署の審査を通過しなければならない。

初代局長には、ヴィルヘルム・シュミットが任命された。

「陛下、これは……技術の進歩を遅らせるのでは?」

ヴィルヘルムが、懸念を示した。

「遅らせてもいい」

エドヴァルトは、きっぱりと言った。

「速く進んで人が死ぬより、遅くても安全に進む方がいい」

「……わかりました」


同じ頃。

リヒテンブルク王国の南部、炭鉱町アイゼンベルク。

ここでは、石炭の採掘が大規模に行われていた。

リヒテンブルク王国の産業を支える、重要な資源。

だが――

「おい、また崩落だ!」

「誰か埋まってないか!?」

坑道の崩落事故が、頻発していた。

安全対策より、生産量が優先されていたのだ。

ある日、大規模な崩落が起きた。

三十名の炭鉱労働者が、生き埋めになった。


王宮。

エドヴァルトは、報告を聞いて顔を曇らせた。

「三十名……」

「救出作業を続けていますが……」

ハインリヒが、暗い表情で言った。

「生存は、難しいかと」

エドヴァルトは、拳を握りしめた。

「すぐに、アイゼンベルクに行く」

「陛下が、ですか?」

「ああ。これは、俺の責任だ」


アイゼンベルク。

エドヴァルトが到着した時、救出作業は続いていた。

だが、希望は薄かった。

崩落から二日。

地下深くに埋まった人々は――

炭鉱夫たちの家族が、泣き崩れていた。

「夫が……夫が中に……!」

「息子を返して……!」

エドヴァルトは、彼らの前に立った。

「すまない……」

彼は、深く頭を下げた。

「これは、俺の責任だ。安全対策を怠った、俺の責任だ」

「陛下……」

一人の老婆が、エドヴァルトの前に来た。

「陛下のせいじゃありません」

「いや、俺が――」

「いいえ」老婆は首を振った。

「鉱山の経営者が、利益ばかり追って、安全を無視したんです」

エドヴァルトは、鉱山の経営者を睨んだ。

太った、強欲そうな男。

「本当か?」

「い、いえ、そんなことは……」

経営者が言い訳を始めたが、労働者たちが証言した。

「本当です! 坑道の補強を求めても、無視されました!」

「休憩時間も削られました!」

「利益、利益、利益――それしか言わなかった!」

エドヴァルトは、決断した。

「この鉱山を、国有化する」

「な、何ですと!?」

経営者が驚愕した。

「不当です! これは私の財産で!」

「労働者の命より、金が大事か?」

エドヴァルトは、冷たく言った。

「この鉱山は、今日から王国が直接管理する。そして、安全基準を満たすまで、操業停止だ」


一年後。

リヒテンブルク王国で、画期的な法律が制定された。

「労働者保護法」

・労働時間は一日十時間まで

・週に一日の休日を義務化

・危険な職場には安全設備を義務化

・違反した経営者には罰金、悪質な場合は投獄

さらに――

「工場安全基準法」

・すべての工場、鉱山に安全監督官を配置

・事故が起きた場合、経営者の責任を追及

・労働者への補償を義務化

これらの法律は、大陸で初めてのものだった。

貴族や商人からは、反発の声が上がった。

「これでは、利益が出ない!」

「他国との競争に負ける!」

だが、エドヴァルトは譲らなかった。

「利益より、命だ」

「民が幸せでなければ、国の繁栄に意味はない」


五年後。

リヒテンブルク王国の労働環境は、大陸で最も進んだものとなった。

その結果――

他国から、労働者が移住してくるようになった。

「リヒテンブルクに行けば、まともな扱いを受けられる」

「給料は少し安くても、安全に働ける」

人口が増え、技術者が集まり、産業が発展した。


現在。

エドヴァルト王(三十三歳)は、完成したばかりの蒸気船を見ていた。

カール・ベンツの夢が、ついに実現した。

「カール……見ているか? お前の夢が、形になったぞ」

船首には、プレートが掲げられている。

『蒸気船カール・ベンツ号』

エドヴァルトの隣には、マリア王妃と、五歳になる息子フリードリヒがいた。

「父上、この船、本当に動くの?」

「ああ。見ていろ」

蒸気機関が動き始める。

シュー、シュー。

そして――

船が、ゆっくりと動き出した。

帆もないのに。

風もないのに。

蒸気の力だけで。

「うわあ! 動いた!」

フリードリヒが、目を輝かせた。

民衆からも、歓声が上がった。

エドヴァルトは、息子の頭を撫でた。

「フリードリヒ。よく覚えておけ」

「何を?」

「技術は、人を幸せにするためにある。人を傷つけるためじゃない」

「うん!」

エドヴァルトは、空を見上げた。

(カール、お前の死は無駄じゃなかった)

(お前が教えてくれたんだ。技術と倫理は、一緒に進まなければならないと)

蒸気船は、静かに港を出た。

新しい時代の、象徴として。

だが、その新しい時代を導くのは――

技術だけではない。

技術を正しく使う、人間の心だ。

エドヴァルトは、それを忘れない。


その夜、執務室。

エドヴァルトは、次の法案を書いていた。

「教育基本法」

すべての子供に、基礎教育を受ける権利を保障する法律。

読み書き、計算、そして――

倫理。

技術がどれだけ進歩しても、それを使う人間が正しくなければ意味がない。

(次の世代のために)

(フリードリヒの世代のために)

(より良い国を、残さなければ)

エドヴァルトは、羽根ペンを走らせ続けた。

外では、蒸気船の汽笛が響いていた。

新しい時代の音。

だが、エドヴァルトの心には――

カール・ベンツの、そして炭鉱で亡くなった三十名の顔が、忘れられることはなかった。

次回もお楽しみに

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