表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/16

第8話:アンチチート

第8話:アンチチート

帰りの馬車の中。

「セレス。私の実績と立場なら、

制服を特注することくらい許されるのではないかしら?」

対面に座るセレスは、慈愛に満ちたほほ笑みを浮かべた。


「ナノハ様、人が装備に合わせるのが軍です。指揮官自らが規則を破れば、

末端の兵たちは規律を軽視する。閣下は、常に兵の模範であらねばなりません」

「私が我慢すれば、兵士たちの規律が保たれる、か。

身長が伸びることを期待することにするわ」

ナノハは諦めたようだ。


「左様でございます。心より、期待しております(どうかそのままで)」

セレスは恭しく深く頭を下げ、心の中で固く祈る。

ナノハの持つ「徹底した合理性」という名の呪縛が、

いつまでもこの愛らしいサイズに留めてくれることを。


窓の外の景色を眺めながら、ナノハは自問自答する。

「都市部にアンノウンが侵入した場合、ディープブルーがバグるなら識別できる。

なら素早く発見する。巡回の密度を上げる?どうやって?」


ナノハの思考が日本での風景を思い出す。

「徒歩より早く、馬より手軽な乗り物。

あと都市内に一定間隔で兵士が常駐する小さな拠点」


これが後に、彼女がこの世界に持ち込み、インフラを根本から塗り替えることになる

『バランスバイク』と『交番(KOBAN)システム』。

「アンノウン」というバグを検知し、即座に現場へ急行する。

ナノハの敗北は、奇しくもこの世界の近代化を加速させる「種」となる。


場所:隠れ里

廃坑で助けてくれた老人、ゲンゾウの案内で里についた。

パチパチと弾けるたき火の音だけが響く。

「……私は亜智アチ。『C9』と同じ転移者よ」

亜智がポツリと言う。


「ーーC9記念館のベストテン(仮)の名簿は、本物だったんだな。

案内係は贋作って言ってたけど」

劉斗が思い出しながら答える。


「贋作師の名前が載った名簿が贋作とは気が利いてる。

レギーナが『転移者は9人』と同調圧力を高めた、

だから私はこの世界から忘れられた」

亜智がため息をつく。


「私はアルベルトの、元仲間。これでもあんたはまだ私の隣に立つ?」

劉斗は断言した。

「村を焼いたのはアルベルト、あなたは俺の復讐を手伝った。

それで十分だ。ところで贋作師ってどういう意味なんだ?」


「私のチートは魔法やチートの劣化コピーを作る能力。

アルベルトの『神のサイコロ』の贋作は『確率操作』になる。

100%じゃなくて、劣化するの」

亜智が自嘲的に笑う、劉斗が初めて見せた表情だった。


「……劉斗。C9について、どう思っとる?」

ゲンゾウの問いに、劉斗は炎を見つめながら語り始めた。

「……最初は、本気で英雄だと思ってたんだ。俺たちから見れば、

あいつらは文字通り雲の上の住人だった」

劉斗が思い出すように語る。


「伊織の朝稽古を遠くから見たことがある。美しさすら感じる強さに憧れた」

彼は一度言葉を切り、夜空を見上げた。

「スカイラウンジの支配人をしてたフリーダ、街や世界が動き豊かになる。

希望に見えた」

「オラクルと少しだけ話した時は、違和感しかなかった。

言葉が届かない感じが怖かった」

劉斗の拳に力がはいる。


「それが、アルベルトのせいで全部ぶち壊れた。あいつにとって、

俺たちの人生や故郷はーー」

劉斗は、右手のひらを見つめた。


「あいつらは神でも英雄でもない。ただの、理不尽だ」

亜智はただ静かに焚き火を見ていた。

「……劉斗。わしが見たあいつらは、神でも英雄でもなかった」

ゲンゾウが語る記憶。

「召喚された直後のあいつらはな、ただの震えているだけの子供。

関係ない人間をこっちの戦いに巻き込もうとしたんじゃ」

ゲンゾウの言葉を受け、亜智が静かに語る。


「劉斗、誤解しないで。……クラウドナインの全員が人殺しの集団じゃない。

最初の会議で決めた方針は『現地人の虐殺禁止』」

彼女はたき火に薪をくべ、火の粉が舞うのを見つめている。

「露見を恐れて、証人の劉斗と私を消そうとした。だから、ルールは変わってない」

亜智の視線は、劉斗を見つめる。


「一つ勘違いしてるわね。チートは私たち転移者だけの専売特許じゃない。

現地人の中にもチート持ちは存在しているの」

劉斗が目を見開く。

「劉斗、あなたがそう。他人のチートの精度を低下させる。名付けて『アンチチート』?」

ゲンゾウが軽く肘で劉斗をつつく。

「……ゲンゾウさん、あなたもよ?」

亜智の不意打ちの指摘に、ゲンゾウは目を丸くした。

「ゲンゾウさん、暗い坑道の中でも北がわかるでしょう?それもチートよ」


「……ははっ!参ったな。わしゃあ、

道に迷ったことがないのが自慢じゃったんだが」

重い空気を振り払うように、亜智がわざとらしく大きなため息をつき、劉斗の顔をのぞき込んだ。


「それにね、C9の中身はただの人よ。特にあのオラクルなんて、ひどいものよ?」

「……ひどい?」

劉斗は身構えた。

「ええ。あの子、完全な恋愛脳なんだから。言葉が届かないのは、

勝手に全部ロマンチックな方向に解釈しちゃうせいよ。

……信じられる?今の私たちが『恋仲』だって、本気で思い込んでるくらいなんだから」


「ぶっ……!げほっ、げほっ!」

劉斗は飲みかけていた水を盛大に吹き出した。

隣で、ゲンゾウが膝を叩いて豪快に笑い声を上げる。


「そりゃあ前途多難だ!」

「……冗談だろ?俺とアンタが、恋仲?」

「あら、私が相手じゃご不満?」

亜智はたき火の明かりに照らされながら、少し首を傾けて悪戯っぽく微笑んだ。

あまりにも人間らしく、茶目っ気のある少女の姿だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ