第3章 第3回 転生者戦略会議:『欠けた十人目』
異世界鎌倉幕府編:第3回 転生者戦略会議:『欠けた十人目』
1.明治維新の達成
狙い通りの成功を収め、諸侯たちはフリーダの用意した
「利権という名の首輪」を自ら嵌め、満足げに帰路につきました。
フリーダも満足しています。
「終わったわね。個別交渉も全て完了。
表立って反抗する勢力はこの国から一掃されたわ。完璧な中央集権の完成よ」
2. 消えた「十人目」
しかし、円卓の席は一つ、亜智(結)が空席です。
ゾディークが椅子を見て言います。
「真面目なアイツが欠席?」
レギーナが窓の外を眺めたまま、言います。
「……さあ? 」
ゾディークが尋ねます。
「何か知っているのか?」
レギーナが窓の外を眺めたまま、言います。
「……別に?」
3. 方針:グループ名の改称「クラウドナイン」
フリーダが言います。
「これから忙しくなるの。空手形にするわけにはいかない、今後の計画の発表よ」
レギーナは言います。
「ねえ、名前を変えましょう。ベストテン(仮)なんて、ダサい。
私たちは九人。雲上の支配者『クラウドナイン』、これでどう?」
特に反対はない、ベストテン(仮)は実際ダサいから。
フリーダが咳払いをします。
「1.まず諸侯について。
領地の経営権を回収し、私たちのシステムに組み込むわよ。
物分かりの良い諸侯には、名誉職を与えるわ。
領主という泥臭い仕事の代わりに、王都の『工廠の名誉顧問』や
『国営農場の名誉局長』という肩書を与えるの。
2.次は武力について。
家名や名誉のために戦う『騎士』なんていらない。必要なのは、
たちが給料を払って動かす職業軍人よ」
ナノハが引き継ぎます。
「軍人には制式装備を工場で大量生産して、全員に配る。
壊れたらパーツ単位で交換する。
高品質で安価で交換可能な装備がコンセプト。個人の武勇は不要。
C9が到着するまで、遅滞戦闘をしてくれれば十分」
ゾディークが当然の疑問を口にします。
「でも、われわれには武器防具の知識はないぞ」
フリーダが答えを読み上げるように答えます。
「職人ギルドは解体せず、私たちの『指定協力企業』とする。
制式装備の開発は、複数のギルドに競わせる。
コンペ(トライアル)を勝ち抜いた設計を私たちが買い上げ、
国営工廠で大量生産する。職人たちは『国の標準』
を作る名誉と特許料のために、必死に開発する。
富裕層相手のオーダーメイド市場も用意する、レギーナ、お願いね」
フリーダがウルフギャングのほうを見ます。
「3.インフラ建築。フル稼働してもらうわよ」
ウルフギャングが胸を張ります。
「任せろ。俺のチートで事故が起きる直前に時間を止めて修正できる。
労災ゼロの突貫工事だ。都市全体を巨大な水力機械に変える」
設計図を提示する。
水網、都市中に張り巡らされた水路。
自動牽引システム、水路沿いに設置された水車が、絶えず牽引ロープを回し続ける。
荷船はロープにつなぐだけで、馬も動力もなしに目的地へ自動移動する。
荷役の機械化、船着き場には、水力を動力とした巨大な「巻き上げ機」
を配置。資材の積み下ろしから人力(コストと事故の源)を排除する。
「工場内は巨大水車から伸びる長いシャフト(回転軸)が、建物全体に動力を分配する。
ベルトをつなぎ変えるだけで、旋盤も、圧延機も、機織り機も、すべてが自動で回り出す。
そして工業都市と王都の間の高低差を利用する運河による自動輸送。
王都に届いた荷物は裏門の船着き場から、水害対策で台地の上の倉庫に集積する。
地下階を作り、温度を保つ。台地への引き上げはローラーを使い、ロープを引くだけ。
ラチェット(逆回転防止)を仕込む」
フリーダが引き継いだ。
「物流を自動化したら、次は出口、つまり消費の現場をデザインするわ。
王都のメインストリートを、ガラスと鉄の屋根で覆ったパサージュ(アーケード)に作り替える」
レギーナの目が輝く。
「いいわね! 雨の日でも、靴もドレスも汚さずに買い物が楽しめる」
フリーダは少し笑う。
「目的は美観だけじゃないわ。
気候に左右されない商業空間を作ることで、経済活動を365日、止まらせないこと。
そのアーケード内に並ぶ店はすべて許可制の高級ブランド。
見張り塔は全面改修してスカイラウンジにするわ。
あるいは最高級の観光・パーティ会場にする」
ウルフギャングが設計図を広げた。
「塔の中央には、俺が設計したカウンターウェイト(平衡重り)式のエレベーターを設置する。
魔法を使わずとも『箱』が空へ昇っていく。
これが、諸侯に対する技術デモンストレーションになる」
フリーダは不敵に笑う。
「4.王権の発行権を使うわ。金貨を回収し、C9紙幣を発行する」
アルベルトが疑問を口にする。
「ただの紙切れを金貨の代わりか? さすがに反発が出るだろ」
フリーダは不敵に笑う。
「だから、最初は『金本位制』を装うの。
王立銀行に金貨を預ければ、
いつでも引き換え可能な『預かり証(紙幣)』を発行する。
交換レートに少し工夫を加える。金貨を10枚で11枚の紙幣と交換してあげる。
手元の金貨を紙幣に変えるだけで1割得をすることになる。
一度紙幣が社会に浸透すれば、後で金との交換を停止する。
そうなれば、経済は私たちの発行する信用だけで回り続ける」
「5.税金についても変えるわ。
これまでの徴税は、力のある者が弱者から奪う『略奪』の延長線上、だから反発が出るのよ。
これからは、税を公共サービスの対価として再定義。
つまり、税金は国というシステムのサブスクリプション料金」
アルベルトが疑問を口にした。
「サブスク? 払わない奴はどうなるんだ?」
フリーダが当然のように答える。
「簡単よ。サービスの提供を停止するだけ。
私たちの作った運河、ナノハの管理する治安維持など。
すべてから除外される。受益者負担の原則よ。
でも税を払えない人は救済するわ。
6.セーフティネットについて。
失業者が増えることは、治安維持における最大のリスクよ。
彼らを放置すれば、自暴自棄になって、いわゆる『無敵の人』になってしまう。
だから、私たちは彼らを社会の遊休資産と定義する。
国営事業による受け皿を提供するの。
7.国営事業について
工業都市に『中央国営工廠』を建設する。ここで制式装備の製造を一手に担う。
分業化、自動化で生産性を引き上げる。
国営農業会社を諸侯から回収した土地、あるいは未開の遊休地をベースに、
『王立国営農業会社』を設立する。
これからの農業は、小作農が神に祈って種を蒔く博打じゃない。
天気予報(オラクルの啓示)と、灌漑システムに基づいた食糧工場。スカイラウンジ専用品も生産する
8.価値観について。
富は労働の成果である、
神との契約は尊い。人(国家)との契約もまた同じように尊い、とコントロール」
ウルフギャングが口を開いた。
「『これで融通を利かせてくれ』っていう金塊や、先祖伝来の家宝の剣とか、
どうしたらいい?」
フリーダが答える。
「でも正直、現代人の感覚からすれば、あれを受け取るのって
『博物館の展示品』のようなものよね。重いし、管理は大変だし、ただの骨董品」
ゾディークが同意した。
「俺たちが帰れたとしても、この世界の金貨をあっちに持ち帰れるかどうかも怪しいもんだ」
フリーダが指を2本立てた。
「だから、彼らからの付け届け(賄賂)を拒否はしないけれど、受け取る対象を絞るわ。
私たちが価値を認めるのは、以下の2点だけ。
消費財、その場で楽しんで終わる酒、珍味、香料、衣料。
美術品・工芸品で格を誇示する」
この会議でC9のグランドデザインは示された。後の冷たい善政である。
3章完結、1章に続きます。




