第2章 第6話:永遠のモラトリアム
第6話:永遠のモラトリアム
ついにその日が訪れた。
龍脈の核、魔法陣には力が満ちる。
元の世界に戻る「帰還の門」が開かれたのだ。
約一年前、絶望とともにこの地に引きずり込まれた彼らにとって、
これは唯一のゴールだった。
「チャージ完了。全員、帰れる」
魔法陣の向こうには、サービスエリアが陽炎のように見える。
転移者と、見送りの現地人が集合している。
セレスが涙を堪えて言う。
「ナノハ様、どうかお元気で」
ナノハは涙声で、セレスの手を握る。
「今までありがとう」
とナノハが握り返す。
劉斗と伊織はいつかのように、無言で握手を交わした。
伊織が一同を見回して言う。
「一つ質問だ。日本に帰ったら、チートはどうなる?」
結が答えた。
「おそらく、無くなるでしょうね。龍脈との関連がありそう」
伊織が苦い顔をした。
「なら、全身チートのユゴスはどうなる?」
沈黙が訪れた。
オラクルが明るい声で、爆弾を投下した。
「結さん、こちらに残られます?それとも劉斗さんを連れて帰ります?
推しの結末を見届けませんと」
オラクルが扇で口元を隠しながら言う。結の目が魔女に戻る。
レギーナが明るく言う。
フリーダが独り言のように言う。
「日本で経営していた会社と、今のポジション、どちらが価値があるか算定してなかったわ」
ウルフギャングが遠くを見た。
「リアルシムシティの工業都市、エンディングはまだ見てない。
時よ止まれ、汝は美しい」
ウルフギャングのチート『事象の未確定』が、帰還の門を「静止」させた。
「ゆっくりと考えるとしよう」
帰還はいつでも可能なまま、確定されない。
合理で答えが出ないなら、ゆっくり考えるとしよう。
最終話:劉斗と結のモラトリアム
結が買い物に、荷物持ちとしてついていく劉斗。
周囲からヒソヒソ自分たちについて話しているのが聞こえる。
最初は新体制に現地人の自分が加わったからだと思っていた。
だが様子がおかしい。
「尊い」
「お幸せに」
と聞こえる。
スカイラウンジで食事しようと入ると、
過去に座った席が「愛の成就席(予約済み)」
ふと、壁のポスターが目に入る。『運命を越えた逃避行、完結編制作中!』
「なぁ、あれ」
劉斗がポスターを指さすと、結が魔女に戻った。
「急用ができた。王宮に戻る」
王宮の会議室でオラクルとフリーダを見つけた。
「このポスターについて聞かせてくれる?」
オラクルは涼しい顔で答えます。
「王宮も身分を捨てたヒロインと勇敢な村人。
追手を振り払い、逃避行を続けていたのが前編。
王宮に戻り2人の仲を認めさせる。
これぞ皆の求めるハッピーエンド!完結編!ですわ」
「フリーダ、あのスカイラウンジの席について聞かせてくれる?」
「作品のモデルになった場所を売り出す、聖地ビジネスです。
スカイラウンジでプロポーズ、パッサージュの見える宿でロマンチックな一夜。
結さん、ご結婚の予定はありませんか?ウエディングの費用は出させていただきます」
その会議室の様子を窺っていた劉斗は、ゲンゾウのもとに逃げ込む。
ゲンゾウは穏やかに答えます。
「セブンスヘブンは転移者と現地人が手を取り合う体制、つまりは縁組。
若者には夢、保守派には血縁による融和。新体制の安定の妙手よ」
劉斗は反論を試みます。
「いや、じゃなくて!」
「お主の命の恩人、結が望むようにしてやれ」
劉斗は俯く。
「結は賢い、器量よし。ワシがあと40歳若ければ、立候補するんじゃが?」
とゲンゾウが愉快そうに笑った。
「勘弁してくれ。転移者ってヤッカイだと思っていた。でもオセッカイなんだな」
と劉斗はため息をつく。結を迎えにいこう。
永遠のモラトリアム、もう答えは急がなくていい。
2章完結、3章に続きます。




