第2章 短編:ブリーフィング、あるいはトレーニング
短編:ブリーフィング、あるいはトレーニング
場所:王宮指揮所
1.開演:冷徹な元帥の「噛み」
ナノハが冷徹な声で会議を開始する。
「定刻だ。ブリーフィングを開始する。まずジェ、前提条件を共有する」
前提条件で、少し噛んだ。
その瞬間、指揮所に緊張が走る。
笑えば不敬である。
2.トレーニングルーム
指揮所は一変して、地獄の表情筋トレーニングルームと化す。
幹部たちは必死に頬を噛み、奥歯を鳴らし、文字通り顔面を硬直させる。
そこへ、音もなく忍び寄る影。セレスが耳元でささやく。
「閣下のお話中です。緊張感が足りないようですね。表情を引き締めてください」
3.波状攻撃
説明を終えたナノハは、幹部たちの引き締まった、あるいは引き攣った表情を見て、満足げに椅子に座る。
ナノハは(少し噛んじゃったけど、誰も気づいてないみたいね)と思う。
ナノハの表情が、フニャリと緩む。
だが、その「可愛さ」という不意打ちこそが、
必死に耐えていた周囲への波状攻撃となる。
幹部たちは崩れそうになる表情筋を死守する。
蒸気と合理
1.エスプレッソメーカー
会議室の一角で、銀色の直火式エスプレッソメーカーが
小気味よい蒸気音を立てている。
ナノハが将来の動力源として研究している趣味と実益の結晶だ。
セレスがデミタスカップを差し出す。
「閣下、抽出が完了いたしました」
ナノハが受けとる。
「ありがとう。ちょうど脳の糖分が枯渇しかけていたところよ」
ナノハは砂糖を多めに投入する。
スプーンでかき混ぜる音が、カチカチと規律正しく響く。
2.ナノハの「イタリアン・エナジー」論
ナノハはキリッとした表情で、説明を開始した。
「私もブラックコーヒーは嗜むわ。
でも、コーヒーはブラックでなければならない、なんていうのは狭い価値観よ?
私がいた世界のイタリアという国では、これがスタンダードなの」
セレスが感心したように答える。
「さようでございますか。さすがは閣下、異文化に対しても深い造詣をお持ちです」
ナノハが得意そうに続ける。
「それに、これは単なる嗜好品じゃない。高濃度のカフェインと糖分を同時に
摂取する。元の世界の『エナジードリンク』と同等の合理性を持った飲み方なのよ」
3.セレスの「ご馳走様」
ナノハは満足げにうなずくと、クイッとエスプレッソを飲み干した。
その直後、砂糖の甘さとカフェインの刺激に、わずかに頬が緩む。
だが、カップの縁に残った茶色の泡が、
彼女の小さな唇の端に、ちょこんと付いてしまった。
セレスが至近距離まで顔を近づける。
セレス:「お口元、失礼いたします」
セレスは絹のハンカチで、その汚れを「回収」した。
セレス:(……ああ、閣下。必死に『大人な合理性』を語りながら、
お口を汚しているその無防備さ……。
本日もご馳走様でした)
甘い戦略と、シリアル0番
1.マネタイズの天啓
フリーダが一連のやり取りを見て、宣言する。
「……決まりね。ナノハ、そのエスプレッソと砂糖の組み合わせ、
『元帥の知的飲料』として展開するわ」
ナノハは驚くが、嬉しそうだ。
「えっ、私の飲み方をブランド!?
そうか、冷徹な元帥っていうのは近寄りがたいけど、知的で憧れの対象にもなるものね」
2.ターゲット層の分析
フリーダは語った。
「マーケットは広いわ。学生や、膨大な書類に追われる官僚たち
……つまり『頭を使う層』へのブースト飲料として。
そして何より、あなたのファンクラブね。彼らはあなたのグッズなら金を払うわ」
ナノハは驚いた顔をしたが、即座に元帥らしく答えた。
「さすが、効率的な資金調達」
3.悪魔のディテール・デミタスカップ
フリーダは次に、ナノハの背後に控えるセレスへと視線を向けた。
「セレス。デミタスカップのデザインを詰めましょう。
一般向けのスタンダード版は『交差した元帥杖』。
そして、ファンクラブ向け、限定生産のプレミアム版は『背伸びポーズ』のシルエットよ」
セレスが返事をした。
「……詳しく」
フリーダは語る。
「カスタマーの『熱量』によって、供給するデザインを分けるの。
ナノハの『必死さ(尊さ)』を理解できる層には、それ相応の価値(価格)を提示」
4.シリアル0番の対価
セレスは静かに、言い放った。
セレス:「……いいでしょう。フリーダ様。
ただし、今後全シリーズにおける『シリアルナンバー0』を私に譲渡すると、
今ここで契約書にサインを。
さもなければ、このプロジェクトは『閣下のプライバシー保護』の観点から、
物理的に凍結いたします」
フリーダは手を差し出した。
「商談成立ね。あなたの独占欲も、初期投資として認めてあげるわ」




