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第2章 短編:セレスのメイド服

短編:セレスのメイド服


C9ではレギーナの同調圧力操作で、疑問に思わなかったこと。

7thHでは同調圧力操作が弱体化し、疑問に思うこともある。

ナノハが背伸びしていること、ナノハがメイドを連れていること。

伊織がビスクドールを持ち歩いていること。


1.指揮所の異物

緊迫した空気の流れる指揮所の中に異彩を放つ人物がいます。

ナノハの背後に控え、完璧な所作で仕える女性、セレス。

彼女はどこからどう見ても、「メイド」です。

セレスを見て、ナノハは満足そうです。

指揮所にメイドを同席させているのは、当然ナノハだけなのだから。


2.新人参謀の正義感

しかし、その光景を苦々しく見つめる者がいました。

配属されたばかりの生真面目な新人参謀です。

彼はついに声を荒げました。

「失礼ながら、閣下!指揮所に民間人であるメイドを同席させるのは軍規違反です!

即刻、彼女を退室させてください!」

指揮所が凍りつきます。

ナノハも困惑した顔を浮かべたその時、セレスが静かに一歩前へ出ました。

その目は、冷徹な「武官」のそれでした。

「新人さん。表へ出ましょうか。耳を貸しなさい」


3.軍規の死角

指揮所の外の廊下へと引きずり出された新人参謀。

セレスは無機質な声で質問します。

「軍規には指揮所内では『制服』を着用する、ですよね?」

「そ、そうだ!だから貴女のようなメイド服は!」

「いいえ。このメイド服は『王宮の制服』です。

軍規には『制服着用』とありますが、『軍服着用』とは一言も書かれていません。

私の身分は王宮の武官。したがって、これは正当な勤務服です」

セレスはメイド服のエプロンを整え、詰め寄ります。

「異議がおありですか?では、スタンプラリーに行かれては?」

そこには「官僚機構」という絶望的な壁が立ちはだかっています。

現在の軍規にある『制服着用』という項目。

これを『軍服着用』に書き換えるためには、以下の手順が必要でした。

各部署の承認印(計12カ所)

法務官による「メイド服と軍服の定義」の査定書

いわゆる、地獄のスタンプラリーです。


4.メイド服の真実

誰が「たった一人のメイド服を禁止するため」だけに駆けずり回るでしょうか?

セレスは、冷徹な武官の顔で「メイド服」の真実を語り始めました。

「勘違いしないでください。私がこの格好でいるのは、純粋な警護上の理由です。

軍服を着ていれば、襲撃者は私を『女性武官の警護』として警戒する。

しかし、メイド服なら?襲撃側は私を背景の一部と見なし、警護の数に入れない」

セレスはハタキを手にします。

「これはデザインされたトラップです。

私もか弱い乙女、正面から腕力で殿方に勝てません。

ただし、相手が油断していれば話は別です」

新人参謀が瞬きをした次の瞬間。

セレスが持っていたハタキの柄から、細く鋭い銀色の輝きが伸び、

彼の頬を撫でました。

「安心してください、これは刃がありませんから『切れません』。

鋭く尖っているだけですので、ただ『刺さる』だけです」

ハタキに偽装された刺突剣エストック

セレスは表情を変えず、恐怖で硬直する参謀を見つめます。

「人は見た目に騙される。あなたが先ほど指揮所に『メイドがいる』と言ったように。

……敵もまた同じ。これ以上に効率的な防衛があるとお思いですか?」

セレスは刺突剣をハタキの鞘へ戻すと、いつもの「完璧なメイド」の微笑みに戻りました。

「閣下には、事情を話したら理解していただけたと、私の方から報告しておきます。お仕事に戻りなさい」

「……は、はい!失礼しました!!」


5.メイドの真実

そもそも、なぜ武官であるセレスが、フリルとエプロンの「メイド服」

に身を包んでいるのか。

その理由は、召喚直後の混乱期の頃。

当時、セレスは、風邪による病欠でたまたま掃除の「手伝い」でメイド服を着ていました。

それを見たナノハは、彼女を「有能そうなメイド」と認識。

「……その、メイド服。……似合ってるわ。

……なんだか、見てるだけで癒されるというか。

メイドさん。私の側仕え(そばづかえ)になってくれない?」

セレスは、ナノハの態度に「使用人を見下さない人だ」と好感を抱きます。

同時に、「不敗の指揮官」として名高いナノハの側で、

武官として何かを学べるのではないかという期待を抱きました。


6.「英雄」の正体

しかし、実際に指揮所で目にしたナノハの指揮は、セレスが想像していた

「天才的な閃き」や「英雄的なバクチ」とは正反対のものでした。

徹底した合理性で、地形、補給、兵の疲労度を計算する。

徹底した消耗抑制主義、華々しい勝利よりも、誰も死なないを優先する。

セレスは気づきます。

ナノハが不敗なのは英雄ではなく、

「自分の指揮で誰かが死ぬことに、誰よりも怯えているから」なのだと。

まだ幼い少女の肩には、あまりにも重すぎる数万の命。

震える指先を、机の下で握りしめているナノハの「背伸び」を見た瞬間、

セレスの心は決まりました。

(この方は、私が守らなければ、いつか優しさで壊れてしまう。

一生メイドのフリをしてでも、私があなたの盾になりましょう)

ナノハは、セレスを武官ではなく「メイド」だと信じています。

ナノハは、自分の特権で指揮所にいると信じています。

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