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弱き者の国
医者の手は静かだった。
布を外し、血の固まった傷に薬を塗り込む。
痛みはあったが、ヴァレオンは声を漏らさなかった。
「思ったより深いな」
医者は淡々と言い、縫い針を通した。
手つきは正確で、ためらいがない。
「腕がいい」
ヴァレオンは短く言った。
医者は肩をすくめた。
「戦のあとに残ったのは、斬る者よりも、繕う者だ」
その言葉に、ヴァレオンの目がわずかに揺れた。
焔のような痛みが腕を走る。
だが、その痛みよりも、心に刺さるものがあった。
戦場には、剣を持つ者しか立てなかった。
だが、生き残ったのは剣を持たぬ者たち――
医者、鍛冶師、農夫、そして祈る者たち。
ヴァレオンは深く息をついた。
「これからは、強い者だけでなく……」
言葉が空気を震わせる。
「あらゆる者を仲間に迎えよう。弱き者も、脆き者も。
技と心を持つ者たちを。」
医者は手を止めずに頷いた。
「そういう者の血も、戦士と同じ赤さだ」
縫い終えた傷口から、淡く蒸気が立ち上がる。
痛みの奥に、確かな温もりがあった。
ヴァレオンはゆっくりと立ち上がる。
外の空にはまだ灰が舞っていた。
その灰の中に、新しい国の種が眠っていることを、彼はもう知っていた。




