奈落の果て、旗は揺れる
夜が終わらぬまま朝を迎えた。
闇は薄れず、風は血の匂いを運んでいた。
ヴァレオンは立っていた。
足元には無数の屍。
名を呼ぶことも、埋めることもできぬほどの数だった。
甲冑は割れ、血は乾き、剣は折れ、旗は泥に沈む。
焚き火の跡は冷えきり、空は灰のように曇っている。
ヴァレオンは剣を突き立てたまま、何も言わない。
呼吸の音だけが、死の海の中にかすかに残っていた。
彼は、ひとつずつ拾い上げていく。
レインズの懐にあった銀の指輪――
磨き跡が残るほど整然とした円。冷たい光がまだ残っていた。
ドルクの手元に転がった鉄製のボルト――
盾の内側に打ち込まれていたもの。握るとまだ温もりがあった。
サラの胸元に結ばれていた小さな青いリボン――
誰かに贈られたのか、それとも子供の髪飾りだったのか。
ティクの腰から外れた木製の笛――
音は出なかったが、風が通るたびに微かに鳴いた。
ロカの手の中に残っていた黒い紐の切れ端――
何を結んでいたのか、もうわからない。ただ強く握られていた。
ヴァレオンはそれらを懐に収めた。
重くはなかったが、息をするたびに胸が沈んだ。
彼は膝を折らない。
涙も流さない。
ただ、ひとつの確信だけが残っていた。
――ここから始める。
それは祈りではなく、命令でもなかった。
滅びの上に立つ者の、無言の決意だった。
風が吹いた。
死臭の中で、旗の切れ端が微かに揺れた。
その布の端が、のちにヴィヴィアの旗となることを、まだ誰も知らなかった。




