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奈落 ー 転落

「――零」


奈落の門が開いた。

光は消え、咆哮と闇が世界を覆う。

大地は裂け、火焔と黒き兵が溢れ出した。


ヴァレオンが剣を掲げる。

その一閃が火花を散らし、闇の刃を弾き返す。

ドルクが敵を斬り払い、レインズが戦列を整え、サラが後陣を守る。

ティクは必死に剣を振り、ロカは刃を返し続ける。


苛烈な攻防の中、均衡はまだ保たれていた。

誰も倒れない。

誓いの残響が、その場を確かに支えていた。


――一瞬、勝てるかもしれないと思えた。

それこそが、奈落の罠だった。



一分二十秒、先陣の盾兵、胸を貫かれ倒れる。

二分十五秒、後列の弓兵、喉を射抜かれる。

三分四十秒、サラ、左肩を裂かれる。なお戦線に残存。

四分二十八秒、ティク、左脚に深手。なお剣を振るう。

五分三秒、ロカ、腕に傷を負い、血を引きずる。

五分四十秒、ドルク、槍を折り返すも胸甲を割られる。それでも立つ。

六分十二秒、サラ、背を斬られ地に沈む。反応なし。

七分八秒、ティク、敵に囲まれ沈黙。

七分三十五秒、ロカ、影の群れに消える。生死不明。

八分二十秒、ドルク、全身を貫かれ絶命。

八分五十五秒、レインズ、背を見せぬまま姿を断つ。血煙に消失。


残存者、ヴァレオンただ一人。




奈落の王が現れた。

巨影はただ一歩で戦場を支配し、槍を振るうたびに闇そのものが揺らいだ。


一分目


刃と刃が交わる。

衝撃は大地を裂き、火花が奈落を照らした。

ヴァレオンの腕は痺れ、筋が裂けても退かない。


二分目


槍が振り下ろされ、岩盤が砕ける。

砂塵の中でヴァレオンは踏み込み、剣先を闇の胸へ突き立てた。

だが傷は黒に呑まれ、塞がる。


三分目


呼吸は乱れ、視界が赤に揺れる。

それでも耳には仲間の残響があった。

「勝利を」「守護を」「帰還を」「生を」「信を」――

幻聴か祈りか、確かに剣を押していた。


四分目


巨影の腕が振り抜かれ、ヴァレオンは吹き飛ぶ。

岩に叩きつけられ背が軋む。

だが剣は落とさない。


五分目


十度の交錯。

血が散り、骨が裂け、槍が頬を裂いた。

片目が潰れ、世界は半分を失った。


六分目


膝が崩れかける。

それでも沈黙の巨人は立ち上がる。

声ではなく姿で、誓いを繋ぐ。


七分目


闇が笑った。

音ではなく、世界そのものが嘲笑った。

ヴァレオンの血が降り注ぎ、大地を染める。


八分目


剣が折れかける。

柄にひびが走り、握る手が砕けそうになる。

それでも退かない。


九分目


最後の一撃。

ヴァレオンの剣が闇を裂き、奈落の王の胸を貫いた。

同時に槍が彼の腹を貫いた。


火花が散り、闇が揺らぐ。

光も歓声もない。

ただ、血と沈黙だけが残った。



剣を突き立て、ヴァレオンは荒い息を吐いた。

仲間の影はなく、誓いの声も遠い。

未来は血に沈み、奈落はただ静かに口を閉ざしていた。

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