夜に滲む色
作戦決行の夜。
湿った空気の中、ヴァレオンは小隊の隠れ拠点で愛用の刃を磨いていた。手入れの音が、仲間たちの沈黙を切り裂くように響く。
「……この匂い、やっぱり好きだな。戦いの前にしか味わえない、研ぎ澄まされた時間の香りだ」
隣ではレインズがライフルを整備し、ドレクは手袋を何度も握りしめている。ティクは緊張からか、水筒を口に運んでは戻し、また運ぶ。
ヴァレオンは静かに微笑む。
(こいつらとなら、どこまでも行ける。死の淵でも笑っていられる。……いや、死なせない。誰一人、絶対に)
刃を最後に一拭きし、彼は腰を上げる。
「さあ、最高の舞台の始まりだ。俺たちの物語に、幕を上げようぜ」
その頃、暗い路地の奥。敵の迎撃部隊が静かに展開していた。
その中心に、一人の男が立っていた。
粗野な風貌に似合わぬ、どこか柔らかな目。分厚いコートの内側から小型の銃器を取り出し、静かに呟く。
「……色は、ただ目に映るもんじゃない。風の音、血の温度、仲間の声――全部、色だ」
月を見上げながら笑う。
「この夜もまた、美しいじゃないか。どうだ、お前にも見えるか?」
誰に語っているのかはわからない。けれど、その言葉は遠く離れたヴァレオンの胸に、不思議なざわめきを生んでいた。
「妙な夜だ……空の色が、やけに鮮やかに見える」
彼はまだ知らない。
あの路地に立つ男が、この夜を境に、自らの運命を深く染め上げていく存在となることを――。