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夫に浮気されたので、慰謝料代わりに夫がコレクションしていた家宝の魔剣を全部リサイクルショップに売ったら叩き出されたので死にたい~売ったはずの魔剣、全員イケメン化して帰ってきたんですが!?~

作者: 西野和歌

思い付き書いた短編です。軽いお気持ちでどうぞ。ちなみに、ほぼ恋愛要素はありません(笑)

 かつて、この世界には「魔剣」があった。

  世界を滅ぼす力を宿しながらも、魔を断ち、人を守る誇り高き武器たち。

  だが、時代は変わった。

 魔王軍が台頭し、世界中の都市を焼き、森を汚し、空さえも毒気に染めた。

  ――誰もが願った。「英雄よ、いまこそ剣を振るえ」と。

 ……けれど。 肝心の魔剣たちは――すでに“狂っていた”。

  過剰な魔力、高まりすぎた感情、あるいは、人の手による無理な扱い。

 その多くは理性を失い、暴走した。 国家は決断した。

 “封印せよ。神話の剣も、禁忌の刃も、もはや味方とは言えぬ” こうして、魔剣は沈黙した。

  地下施設に、保管塔に、錆びるままに――そして、忘れ去られた。

 それでもなお、誰かが信じていた。

 剣に宿る意志と、心の記憶と、“愛されたい”という小さな願いを。

  そして――物語は始まる。


 一人の女と、リサイクルショップで売り払われた“国家の封印”から。


 *****


 夫が浮気した。

  よりにもよって、聖女(を名乗る天然KY女)と、だ。

  私は怒った。悲しかった。むしゃくしゃした。だから――やった。

「これが! 慰謝料ですッ!」

 そう叫びながら、夫の愛してやまなかったコレクションをまとめて、近所のリサイクルショップに売り飛ばしてやった。

  結婚生活五年間、親の決めた結婚とはいえ愛もなく、ただの惰性で過ごした日々。

 仕事にばかり没頭する夫の趣味が、謎の剣のコレクションだ。

  妻として与えられた仕事は、屋敷の地下に収納された剣を磨く事。

  時には剣に向かって愚痴ったり、飾りの宝石だけとれないか試したりもした。

  けれど、そんなこの子たちともお別れだ。 ガシャンガシャと止める使用人たちに強引に手伝わせ、私は馬車で剣と共にリサイクルショップに飛び込んだ。


 結果:銀貨2枚。 感想:安すぎィ!!


 しかも帰宅した直後、魔剣が消えていることに気づいた夫・セシルが顔面蒼白で叫んだ。

「リネア……貴様、あれらが何かわかっていたのか……ッ!」

「はい、剣ですわ」

「ッッそれは伝説級の封印神器で――国家機密だァーーーッ!!」


 3秒後、私は屋敷から叩き出された。

 剣売っただけでなにこの仕打ち。詰んだ。人生、詰んだ。

 野宿で枕にしたのは木の根っこ、毛布代わりに羽織ったのは落ち葉、涙は塩味で……死にたい。

  既に両親はいないし、このまま森で朽ち果てるのか。 思い詰めた私は銀貨で買ったパンと水を消費して、3日目にして死を覚悟した。


 でも――その夜。 焚き火を囲む私の元に、何かが降ってきた。


「よっす、久しぶりー主ぃー!」

「あなたに売られたあの日から、ボクは覚醒しました」

「すまぬ、捨てられたショックで主への恋心に気づいてしまった……」

「……どなた?」

 三人は口を揃えて言った。

「魔剣です」

 ……なんで魔剣がイケメン化して帰ってきてんの!?!? いや、おかしくない!?

 私が売ったよね!? 君たち、分解されてないの!? ていうかなんでみんな、キラキラした笑顔で私を“主”とか呼んでるわけ!?

「それは…あなたが“魔剣感応スキル持ち”だったからです」 「魔剣の95%があなたに恋しました」 「主、結婚しよ」

 ……ちょっと待て、急展開すぎるだろ。

「とりあえず自己紹介しなさい」

「ははっ、そう来ると思ってました!」

 と、一歩前に出てきたのはやたら軽薄そうな銀髪の青年。

 腰にゆらゆら下げた鞘から黒い光が洩れている。


「俺の名は《カレル・アルマス》。元・封印指定SS級の魔剣。属性は闇と混沌とちょっと寂しがり屋。主への愛は永遠保証つき。君が売っ払ったおかげで人間になれたから、まじ感謝してるよ? まあ、売られたときの衝撃で2日寝込んだけどね!」


 続いて出てきたのはスーツのような黒い服を着こなした真面目系青年。眼鏡までかけている。

「私は《ゲルト・エルヴィン》。元・対竜種特化型の魔剣です。清潔感と几帳面さには自信があります。主への忠誠は形式的ではなく心から。……主の枕元に毎朝紅茶を運びたい。それが夢です」

「……気持ち悪っ」

 と、つぶやいたのは背丈の小さい青年。

 フードを深く被り、手にはぬいぐるみのクロネコを抱えている。


「《ネフェル》。……毒と呪詛の刃。なのに主が笑ってくれた。それだけで、俺の生存価値。……主の影として生きる。……ベッドの下に常駐していい?」

 やばい、個性の爆弾が次々と爆発してる。

「私の人生、ややこしくなってきたわね」

カレル「それが、俺たちの主になったってことだよ。今さら逃がさないしね?」

ゲルト「主の洗濯物、畳んでおきました。」

ネフェル「寝床、敷物詰めて……作った。ここに添い寝していい?」

 どこにツッコめばいいか分からない。

 いつしか私の荷物の整理とか色々と世話を始めてるし。

 でもなぜだろう――ほんの少しだけ、寂しくなくなった。

 なぜかスルリと彼らが魔剣だと、リネアは受け入れていた。

  これも、彼らの言う自分の知らなかった『魔剣感応スキル』とやらのせいだろうか?


 *****


 朝を迎え、リネアは少し生きる気力を取り戻す。

「とりあえず、資金がないと生きていけませんので、ギルドで依頼を受けます」

 しっかり者の顔でそう宣言したリネアに、魔剣たちは即座に反応した。

「え、主が働くの?え、俺たちいるよね?」

「いやまあ……自立は尊いけど……無理では?」


 ともかく、善は急げと近くの村に立ち寄った。 ギルドカウンターの職員が、妙に丁寧な口調で差し出した依頼書。

「こちらなど、おすすめですよ。森の掃除ついでに魔物を一掃する、ちょっとした討伐任務でして……あ、依頼報酬もそこそこ……」

「とりあえず、そこそこなら引き受けようかな」

「あはは、すいません。意地悪が過ぎました。あなた方のような新米には無理ですよ」

 職員が意地悪く笑うが、リネアは真剣に訴えた。

「いえ、お金が欲しいので、そこそこレベルのそれを引き受けます」

 リネアは気付いてない。 それは討伐ランク【特A】の超危険任務。出現魔物:爆音を纏う突進型魔獣ブラストベア×3。通常、冒険者パーティ3組を動員するクラスだ。 だが。

「いってきまーす♪」

 カレルが片手一本で魔獣をぐにゃり。ゲルトが証拠の牙をボキボキと採取し、ネフェルが地味に木陰のモンスターを呪殺していた。正味15分で依頼完了。 即座に戻ったギルド内、静まり返る受付。

「えっと、帰りましたけど……」

「ひょ、評価特A……金貨300枚です! あと称号『魔王でも敵じゃなかった人々』差し上げます!!」

「え、そんなに報酬っていいんです? 討伐って意外と楽なんですね~。やっぱり冒険向いてるかも! 称号は意味わかんないんでいらないです」

 主婦より、冒険者が向いてるかもと、浮かれるリネア。


  魔剣たち(いや主、違う。主以外の俺たちがやったんだ)


 こうして15分で300金貨を手に入れたリネア達は、一旦は宿を借りつつ、その後も何回か討伐で報酬を追加していった。


 *****


 3日もあれば、5000金貨は軽く手に入れ、既にギルド内だけでなく、村でも噂になっていた。

  リネアとしては、目立つより静かに暮らしたいと、金貨を元手に家を検討する。

 森の奥に一戸建て(庭付き!)を現金購入し、家具はゲルトが設計、ネフェルが盗み聞きした世間の流行に合わせた配色で内装も完成。 その趣味の良さと手早さに、リネアは謎に感動していた。

「魔剣ってすごい…! なんだか、もう一生贅沢に暮らせそう! お金もまだ2000金貨もあるし!」

 魔剣たちは顔を見合わせた。

「……主、絶対お金の価値とか分かってないよね」

「あと税金の概念もあやしい」

「でも、そんなとこも…主だよね」

 こうして、“売られた魔剣たちによる逆ハーレム保護者会”は、主のマイペースな冒険生活を全力で支えることを決意するのだった。 彼らの懸念通り、リネアの金銭感覚は銀貨の計算でストップしていたのだ。

 それから彼らとの新生活が始まった。 男性たちと生活すると思えば緊張するが、なんせ剣だ魔剣だ、私は元・人妻だ。


 *****


「今日は魔物が出たらしいけど、夕飯までに帰ってきてね」

「任された」

「雑魚なら俺一人で十分」

「……主の靴を汚すものは絶滅させる」

 魔王軍? そんなの知らない。世間の情勢にまったくリネアは興味がなかった。

 悪意を持つものや魔物など、 森の奥のリネア邸の半径3km以内に侵入した者は、世界の理ごと粉砕されるだけである。

 新居の食料が尽きたので、今日の任務は「近場の街までお買い物」 リネアが皆に声をかけた。

「パスタと卵と……あと猫用ちゅ~るっぽいのもお願いねネフェル」

「承知。主の愛猫、命に代えても守る」

 まあ、以前のダンジョンで拾った猫ちゃんを飼育しているんだか、確か幸運のケットシーとか言う種族らしい。 たまに二本足で立って、可愛いんだよね。

 そんな雑談をしながら平和に街道を歩いていたら――

「きゃああっ!討伐軍全滅ーッ! 逃げてえええ!!」

 突如、空から巨大な翼の竜が降ってきた。周囲パニック。

「ん? なんか騒がしいわね……あらやだ、あの竜、ちょっと目つき悪くない?」

「主、下がってて。――やるぞゲルト、ネフェル」

「了解」

「焼き鳥。今夜の献立、確定」

 5分後、竜、撃墜。跡地に焼けた巨大な鳥ももが転がっていた。

 急いで駆け付けた騎士団長が目を見張る。

「な、なにが起きたんだ……!?」

「目撃者の話によると、“買い物袋を抱えた女性”が連れてた男たちが――」

 噂をすればで、近くにいた一人の女性と三人の男たちが楽し気に盛り上がっていた。

「やだ、もう。こんなところで焼き鳥とか、食材保たないわよ~! 急いで帰らなきゃ!」

 私達は、出来上がったホコホコの鳥ももを担いで帰宅した。

「今日の焼き鳥、ちょっとプリッとしてるわねぇ」

「主が選んだ素材だからだな!」

「タレに龍髄エキスを混ぜたら……絶品に」

「……というか、そのエキスって、どこで手に入れたの?」

「まあ……この前ちょっと通りがかって火を吹いてたヤツがいたから」

「……魔王軍の飛竜親衛隊。壊滅確認済」

 もぐもぐと食べるリネアが笑う。

「ふ~ん。よくわかんないけど、やっぱり冒険者って食材入手が楽なのね」

 竜のモモに満足げなリネアを見て、魔剣たちは首を振る。

 魔剣たち(いや違う、違うんだ主……! 俺たちだからだ!)


 *****


 あれから3か月目、私達はおだやかな日々を過ごしている。

「リネア様、魔王が滅んだって……!」

「……は? あの黒いでっかい奴の事? 昨日ネフェルが“鳥”って言って焼いてなかったっけ」

「ま、魔王本体だったらしいです……!」

 どうやら先日の“お散歩遠足”で、魔剣たちが森にいた魔王を軽く討ち取ったらしい。

  本人たちは

「道塞いでて邪魔だったから」

「主に灰がかかったのが許せなかった」

 と軽口を叩いていた。 気づけば街ではリネアの名前を冠したスイーツが誕生し、「魔王を焼いた女神」として絵画や曲まで流通しはじめていた。


 本人の知らぬ間に、なぜかリネアは祭り上げられていく。 そして、とうとう王都から使者が来た。

「我らが英雄、リネア様! 感謝状と報奨金をお納めくだされ!!」

「……えっと、何かしらコレ? でもまあ、金貨2000枚……ありがたくもらっておきますわ」

 魔剣たち(いや主、それ報奨金。魔王討伐の。なんで普通に生活費財布に入れるの)

 王は告げた。

「どうか、今後とも我らの、いや、この国の為に尽くしてくれんか?」

「すいません、静かに暮らしたいので森に帰りますね。お金有難うございました」

 礼儀正しく頭を下げて、去っていくリネア達を止めようとした騎士は、魔剣のひと睨みで硬直してしまう。 この時点において、この世界で誰も彼女を止めれる者はいないのだ。


 昼下がり。リネア邸では猫のケットシーが陽だまりでのび、カレルが日傘を差しながら紅茶を入れていた。

「ふふん♪ 紅茶に“主のためだけ”ってラベルつけてみた」

「それバレンタイン感あるけど……まあ、主は喜びそうだな」

 すると森の外れから何やら馬車の気配が近づいてきた。

「……来たか」

 ゲルトが静かに立ち上がる。 ネフェルは既に物陰に消えていた。 カレルは紅茶のカップをテーブルに置き、ひと言。

「さて――“元・同居人”のお出ましだ」

 あえて結界を緩めて入れてやったのだ。 楽しみだと、魔剣達は互いに目を合わせた。

 門の前に現れたのは、やつれた顔の元夫セシル。 リネアが顔をしかめる前に、魔剣ズがスッと並ぶ。

「どこへ来たつもりだ、失礼を承知で問おう」

「貴様を許した覚えはない」

「……でもまあ、言うだけ言わせてやろうか」

 セシルはうつむいたまま重く言った。

「お前が魔剣たちを、軽率に解放したせいで、周囲の魔剣も覚醒し始めている。あれは“封印”しなければ危険だったんだ」

 一瞬、空気が凍った。 カレルが無表情で歩み寄り、無駄にキラッと光る。

「お前の“封印”のせいで、俺たちはなぁ……主に『好き』って言うタイミングすら逃し続けたんだよ」

 ゲルトも言う。

「封じられ、思考を止められ、ただの道具として積まれたあの場所に……心はあった。主がくれた優しい言葉『あなたは高値で売れそうね』それがどれだけ救いだったか」

 ネフェルは草影から顔を出し

「暗闇に沈むのは、外じゃない。心の中だよ。……俺たち、知ってた。主の手が、ぬくいって」

 セシルは彼らの言葉に目をつぶった。

「……それでも、剣が人型をとる程の力を解放している今は、危険極まりないのだ」

 セシルは辛そうに、だがそれでも言い返す。

「お前たちは魔の剣なのだ。戻って来い、俺の管理下に。今なら、許してやる。お前もだリネア、今なら復縁してやってもいい」


 魔剣たち(許して“やる”?) 怒りで硬直した魔剣と違い、リネアは軽く言った。


「――いやですけど?」

 あまりに即答で、風が止んだ。


「今の生活、快適だし。なにより誰も私を“従わせよう”としない。だから楽しくて楽ちんなのよ」

「主、最高すぎて恋が加速した」

「同意しかない」

「おっさんは帰ってよし」

 セシルは最後に、「勝手にしろ……」と一言残して去っていった。

 説得が失敗した今、力でかなうはずもない。

  去り行く元夫の姿を皆で見送った。

 リネアは共に過ごした結婚生活の、喜びも悲しみも、これで一区切りついたのだと思い出にしまい込んだ。


 その晩……。 カレルがリネアに声をかけた。

「なあ主」

「ん?」

「もうあんな奴に、涙見せる必要ないからさ。俺たちがぜんぶ――守るから」

 リネアはパンをむしゃっと頬張りながら笑った。

「……じゃあ、明日は洗濯お願いね。あと猫ちゅ~るきれてるから補充よろしく」

「ははーっ!主命とあらば!!」

 ケットシーは嬉し気に二本足で立ち、その場でくるくると踊っていた。


 *****


 その日もリネアは、のんびり庭で昼寝をしていた。

 平和極まる日常。 ……が、森の木々を揺らして来訪者が現れた。

「おーい主ぃー! 久しぶりだなぁあ!!  覚えてっか!? 地下三番棚、鉄錆臭いところで十年間くらい斜めってた斧系の俺!」

 バァン! 門扉を蹴破って現れたのは、筋骨隆々な黒髪長身男。背中に斧(本体)を背負っている。

「え……誰……?」

「ひどっ!?  え? もしかして好感度リセットされてる!?」

「いや、地下三番棚って私、ほぼ掃除してないし……」

 掃除しろって言われたけど、重くて面倒で、楽そうなのしかしなかった。

  するとその後ろから、パラパラと人影が増える。

「はぁ……ようやくついた……。まったく、迎えに来てくれるかと思ってたのに」

  「主の手のぬくもりをもう一度と思って、夜明けから走ってきました」

「恋は自力で掴みにいくものって、詩集に書いてあったので」

 次々に押しかける魔剣族たち。 細剣系・双剣系・弓型・ブーメラン型(?)などなど、バリエーションも物理攻撃も豊富。

 既にいる古参組のカレルが頭を抱えた。

「おーい、一体どこから住所バレた!?」

「……記録によれば、王都の掲示板に“主の最新居住地”が掲載されたらしい」

「我、貼った。主の人気、過小評価されてたから」

「なぜそんなことを!?」

 最終的に、押しかけ組は屋外テントでローテーション制で入室する事となった。 ゲルトが割り当て表を作り、ネフェルが帳簿に“主撫で許可”を時間別で記録。 カレルが代表して説明した。

「つまり、これは一種の“魔剣保養所”だね。主が癒しの中心にいてくれれば、全員うまく収まるってわけ」

 説明されたリネアは困惑する。

「……それ、ただの家主の負担増なんじゃ……?」

 でも――まんざらでもないと思ってしまった自分に、ちょっとだけ笑ってしまった。


 *****

 朝。リネア邸のポストに届いた一通の封筒。

 《王国直轄・魔剣管理局》 リネア=ノーグレイヴ 様へ ──魔剣管理官就任に関する人事面談のご案内──

 開封して中身を呼んだリネアは慌てた。

「……いやいや待って? 面談って、就職面接じゃない!?」

「そりゃあ主。今や“魔剣100本中87本が主に寄ってる”って公式記録で発表されたからね?」

「統率力、精神適応性、魔剣吸引力(物理)、全部国家基準を上回っています」

「……主、国家機密よりカリスマ値高い」

「いやその、とりあえずカリスマだからと、女神まんじゅうとか開発するのやめて下さい」

 こっそり魔剣達は、リネアを商品化する為に研究を始めていた。


 一方、王国首脳陣は──


「リネア氏は魔王討伐以後、魔剣の流入を完全にコントロールしています。もはや放置は不可能」

「彼女を国家機関に組み入れないと、人類側の魔剣流通バランスが崩壊する可能性が……!」

「で、でも本当に就任してくれるんですかね?“ふわっとしてて実は最強”って噂が……」

「それでも彼女に懇願するしか、人類の平和は保たれない」

「あの魔王ですら、一撃だったらしいですしね」

 会議室は沈黙に包まれた。


 その緊張した会議と正反対に、割とのどかな森の奥。

「私、国家職員になるのかなあ……」

「ふーん。“サブマスター”に構うのが仕事になるのかあ……まあ、主が決めたなら、見守ってやる」

「業務内容によっては手伝います。ただし主が寝込みでもしたら、職務放棄して世界の果てから戻ります」

「主のため……なら……主以外に刃を貸すよ。……でも帰ってきたら、撫でてね」

「え、なにこのみんな健気で面倒くさい感……」

 他の新参組も、リネアの説得に応じてくれた。 魔剣はどこまでも、リネアを主と認定し忠実であった。


 そして、当日。 ぞろぞろと、80数名の魔剣を引き連れて王都の城にやって来た。 馬車に乗り切れなかったので、大半は剣の姿に戻って貰った。

「面接よろしくお願いします!!!」

 リネアがなぜか体育会系テンションで会議室に突入。 国の要人たちは口を揃えて言った。

「え、もう採用ですけど?」

「……え? 就職って、そんなテンポ軽かったっけ!?」

 あっさりと決定してしまった。

 私は役職「魔剣仲介人」として、お昼ご飯の時間から、おやつの時間まで、月に一度働く事になったのだ。 ちなみに、どうして月一かというと、森から遠くて面倒だからです。


 国主催により、魔剣と騎士の“縁結び仲介所”が創設された。 その主任に任命されたのは、もちろん――

「私ですかぁ!?!?」

 あくまで補助程度と思い込んでいたリネアは、いまだに自らのスキルの価値を理解していなかった。

  慌てふためくリネアをよそに、王国中から魔剣とコンビを組みたい騎士志望者が集まる。 その背後には、伝説の魔剣組の面々が並んでいた。


 お見合い開始(ただし魔剣たちは全員不満げ)

 リネア「さて、では今日は“仮の相性チェック”です!」

 騎士候補「よろしくお願いします。あなたと共に戦えるのを光栄に――」

 魔剣「……主じゃないけど? 主がやれって言うから来ただけだけど?」

 魔剣「主以外の手で抜かれたくないけど? てか抜かないで?(物理的に)」

 リネア「ちょっと態度が悪すぎでは!?」

 やはり初日は、マッチングする魔剣はいなかった。 それでも、手ごたえを感じたのか、次回もぜひ来てほしいと国の重鎮たちに頭を下げられたリネアは皆と森に帰る。 増えすぎた魔剣達の為に、新しい家を増築しているのだが、あまりにも増えたために、寝る場所を確保できず、剣の姿に戻って休む者もあらわれる始末だ。

「結局、今ここに魔剣って、どれだけいるの?」

「まあ、この世界の魔剣の八割がたは主に夢中で集まってるね」

「元夫の家にあったのは、30本程度だったはず」

「噂が広がって群がってきてるんだよ。あの家にいたやつも、いなかったやつもさ」

「主と一緒……撫でられて幸せ、みんな知った」

 どうも魔剣ネットワークで、リネアは周知されてしまった様子。


 夜。片付けが終わった後、リネアは魔剣たちにぽつりと聞いた。

「……嫌だった?私が“他の主探してみよう”なんて言ったの」

 みんな、ちょっと視線を逸らす。 でも、ネフェルが小さな声で言った。

「主の“お願い”だったから……頑張っただけ」

「でも……俺たちにとって、主が本命なのは、変わらない」

「候補者は選別しました。相性は十分ですが、比較は……不可能です」

「何十年後でもいい。主が“今さらだけど使っていい?”って言ったら、俺は主だけに刃を預けるよ」

 リネアは、ちょっとだけ泣きそうになった。

「……ありがとう。ほんとうに、ありがとう。みんな頑張ろうね」

 ベッドで立ち上がり拳を振り上げる。

「魔剣なめるな!」「おーっ!」

 その時、皆の心が一つになった。


 *****


 あれから、魔剣たちはちょこちょこと“相方”を見つけて旅立っていった。

 勇気をくれる騎士もいれば、不器用で放っておけない冒険者もいた。 彼らは、ただ私の元で甘えるだけの存在ではなく、“もう一つの居場所”を探しに出ていったのだ。

 とはいえ、寂しくなるほどには離れない。 早ければ三日、遅くても三か月に一度は“里帰り”として、みんな私の元に帰ってくる。

 庭で昼寝をしていれば、風の気配とともに訪ねてくる気配がある。

「ただいま」

「主、髪切った?」

「紅茶入れてるから飲んでくれる?」

 そのたび、私は彼らの頭を撫でて、よくやったと褒めてやる。

 世界の平和は、いつの間にかちゃんと保たれていた。 森の奥の、この静かな家で、私たちは今日もふわりと笑いながら暮らしている。

「主……もう……死にたくないか?」

「お金欲しいならもっと稼いできます」

「またドラゴンでも狩ってくるよ? それより、世界の支配がいい?」

「俺たちがついてれば、望むがままだ主」

 ああもう、ほんと過保護にもほどがある。 私は笑って、パンの欠片をほおばりながら言ってやった。

「――生きるって最高よ。だから、あなたたちも悪さはしちゃダメよ。でないと――また売り飛ばすからね?」

 そのとき、魔剣たちは一斉に息を呑んだ。 次の瞬間、「いやあああそれだけは~~~!」と物理的に床を転げ回る剣型男子たち。 私は、お腹を抱えて笑った。 ――静かな森の奥で、今日も世界の片隅が、確かに守られている。

 END








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