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一話 半血染めの駆竜

//サンドウィッチマンは本編から出ますか


//いや本編“から”は出ない。そもそも本編に出ない

「雨合羽か・・・!」


 まして戦闘は外殻の寿命を著しく縮める選択だった。情報も動力も伝える赤色の石灰にしたって、模倣外殻の心臓部といえる翠振ゼンマイにしたって、ここまでの道のりで45パーセント以上の再酸化余地を失くしてきている。


 モノクロで不鮮明なモニター越しに視界を共有するドルフィン型とザクロは巻き直しの効かない現状を、白濁に停滞した空の下に走らせている。30年前の街並みは廃墟と化していた。


「追ってくるとすれば軍隊気取りのほうだと思ったが、そんなマメな連中でもねえか。空が錆びたから心が錆びたのか、あるいは逆か・・・ 言い訳なんぞ意味もないだろうに、気の滅入ることだな」


【旋回する虚しさは ガラスケースの笑顔みたいで

  

  何回 叫んでみたっていいけど

      空のグラスは透明なまま】

 

「なあ、ドルフィン。ここいらも日本を代表するような都市だったんだぜ。いっそ一面駆竜に焼かれてりゃ、お前にとってもいいマラソンコースだったんだが」


 外殻の操縦は快適だった。特殊な繊維の装甲をちょっちりちょっちり、全身に無数のばね機構を備えるドルフィン型にとってひび割れた舗装路や倒壊した建造物の散乱などは80キロに近い速度を大きく目減りさせるものでもない。

 

 追ってきているのは、ひとり。武器もおそらく無携行。ドルフィン型は速度を落としていないにも関わらず、ザクロの頭上のミラーに映る後部視野の中で純白のレインコートを翻して迫る影は徐々に大きさを増してきているようだった。


「天使の加護だか知らんが、屋根伝いに走ってこの速度の模倣外殻に追いつく? 貴族ってのは何でもありなんだな。時空間を圧縮でもしてるみてえに」


 行く手には倒壊したビルが道を遮っていたが、


――リア・キャリア―とは戦うな――


      ザクロは逆に機体のスロットルを限界のさらにもう一段階ひらき、アクセルのペダルを踏み込んでいった。


 キュオオオォー!


 ドルフィン型が胸部の吸気口を目いっぱい開け放つと、機体に取り込まれていく風と内部で出会った翠振鉄製のゼンマイは獣じみたうなりのような音をあげた。トルクを増したゼンマイの動力を糧に、かぎづめ状の後ろ脚で大地を掴んでいきながら外殻は風を切る弾丸になる。


【売れ残りした寂しさ貼り付け 

   

          苦し紛れに泥を吐く】


「ぶっつけ本番――やれるな、ドルフィン」


 奥歯を噛みしめ、操縦桿横のレバーを引く。ガクン、と強烈なGが突き上がると同時にドルフィン型はビルの残骸の手前で、9メートル近い全長のボディを虚空の海に飛翔させた。


【きっと昨日なんて 無かったって信じたいんだ

  道草の青さだって目を焼くから


 前部白で描いて 意味だって後付けだった

  砂埃の声にさえ苛立つから】


 全身のばねをリバースさせた、ドルフィンの代名詞的ジャンプ機構。ビルの残骸はすでに、眼下にある。


「さすが、俺の秘蔵っ子だな――」


【憧れて 焦がれて

    空回って 嘲笑って


 からっぽの昨日に

    明日の欠片も仕舞い込んでく】


 浮遊感があったのもつかの間、計器類は機体が無情に地面に引き戻されていっているのを示していた。重力以外にも、虚しさの力場が旋回しているこの世界で空中に長居などはどうせ出来ない。着地の衝撃に身構えたものの、思い描いたようなショックは到来しなかった。外殻の機体内を血液のように巡る錆電石灰は抜群の緩衝機能を果たし、バネ機構と併せて瞬時に姿勢を復元、アスファルトをスポンジ生地であるかのようになめらかな接地をしてみせた。


「曲芸かってえんだ。ニヤけるな」


 手塩にかけ整備し機体のスペックを隅々知り尽くしているものの、実際にジャンプ機構を使うのはザクロとて初めての試みなのだ。直線方向に慣性が残っているうちに機体を反転し、制動をかける。ドルフィン型は両手でアスファルトに爪を立てると幾筋もの黒線を火花を混じえて引き散らし、徐々にスピードを落としながら飛び越してきたビルの残骸を視野描写モニターの正面に入れて停止した。


 ザクロは座席の後ろ、リング状のバーを引っ掴むと体重をかけてぐいと前に倒した。外殻はそれに呼応し、両手をしっかりと接地する前傾姿勢をとった。コクピット内部では照準器がモニタの上からスクロールし、操縦桿の役割が機体制御から射撃操作に切りかわる。


 これが射撃体勢なのであるが、同時、ドルフィン型の模倣外殻にのみ組み込まれた機構としてアクティブソナーが状況の把握を始めた。地形とあわせ、動く物体の様子が膝の前に位置する画面に表示され、残骸の向こうから近付いてくる一つの影もそこに捉えている。


 鈍色の砲口が一揃い、上を向く。


「二の足を踏むなら、とも思ったんだが・・・ 大体、奴はなんで防護服もなしに錆流域ではしゃぎ回れるんだ。対戦車武装しかついてないが、どうせ相手は貴族の中でも特別製なんだ。初めての実射、手足の4,5本持っていったって恨むんじゃないぜ」


 どこから来るのか、唇を舐め汗の滲む手に操縦桿を託して待ったが、こちらがしびれを切らす間もなく雨合羽が選んだのは倒壊したビルの頂上だった。軽い脚づかいで頂点に立つと、そのまま視線をまっすぐドルフィン型に据える。まるで操縦席に座るザクロを見通すようだった。


「貴族ってのは見下すのが好きらしいな。だからDUCTにもしがみついて離れられない。ふんぞりかえったままシェックフィールに沈むってのもいい体験だろ」


 人差し指に、ほんの少しの力を込めれば


 ゾゾゾゾ、とドルフィン型は背部に負った重機関砲を撃ち放ち、同時に十一連装のロケット弾を射出した。無数の徹甲弾がビルの外壁や鉄骨を弾き飛ばして白煙をあげ、炸裂したロケット弾頭は乾いた破裂音と共に建造物を挽き散らかして黒煙を巻いた。


 視界は煙によって大部分が失われていた。


「少女に見えたが・・・ まあ、いいんだ。本物の海を、見せてやるからな。ドルフィン、外殻の浮殖繊維装甲ってのはやっぱ海にも浮くのかね。シェックフィール漬けの空なんかより自由だな、きっと」


 バーを元の位置に戻してドルフィン型を走行形態にすると、まだ煙の晴れ上がらぬうち、ザクロはその場を離れようと操縦桿を操る。不自然な煙の揺れを目にしたのも、それと同時だった。鈍い風音と共にモニタが暗転し、その意味に気づいたときには新たな視界が目の前に広がっていた。モノクロでも不鮮明でもない、しかし、単調で不明瞭な現実の風景。


 あろうことかドルフィン型はコクピットの上部を搭乗ハッチごと斬り飛ばされ、イルカでいうと嘴の根本、ザクロのすぐ目の前に、純白のレインコートを翻して一人の少女がふわりと、出来たてほやほやの切断面に降り立った。後ろで、斬り飛ばされたハッチが警察のマークの刻印を見せながらガワン、と音を立ててアスファルトに突き刺さっていった。少女は脚を伸ばしたまま前かがみになり、幼さの残る顔で吹き抜けになったコクピットを覗き込んだ。


「派手に歓迎してもらったのに悪いんだけど、戦いに来たんじゃないの。あと、遥々会いに来たって人へのプレゼントに鉛玉を選ぶっていうのはどうかと思うんだけど」


 ザクロは、自分の身体を触って確認した。紐の切れたシートベルトがハラリと落ちる。


「なんで俺は生きてる? 切断面は首のあたりだ」


「気にするのそこなの? 能力の制限だから気にしないで。それとも、首のついてない自分の身体を最期に見たいとかって趣味でもあったりした?」

勝手にQ&A

Q:ベチャベチャな育ち方って?

A:知りません。




まあ世の中興奮することいっぱいありますけどね、一番興奮するのは背中から撃たれた時だね


間違いないね


うわ背中から撃たれた背中から撃たれた痛ってー、興奮してきたな。あれ、昨日まで何も無かったのに急に病院が建ってる。ウィン、すみませーん


いらっしゃいませこんにちはいらっしゃいませこんにちはいたしませんこんにちはー


ブックオフか。最後だけなんかドクターXみたいになってるし


そんじゃ お薬処方しておきますんでお大事にー


早い、早いわ 対応雑だし。なんで大体医者が受付にいんだよ


フリーの外科医なんで、どこにいたっていいんですよ


いや、フリーってそういう意味じゃないでしょ。大丈夫かな この病院


安心して下さい 私、失敗しないので。もう霊柩車も待機させて、準備はバッチリです


失敗するつもりじゃん 霊柩車まで使う状況で何を安心するんだよ、帰らせろ。いやちょっとさあ、背中から撃たれたから弾抜いてほしいんだけど


まあ、弾は火葬した後に抜いときますんで心肺停止されるまで待ち合いのほうでゆっくりしてて下さい


呑気か。火葬した後とか呑気すぎんだろ ここの院長、みやすのんきか


みやすのん… ミヤスノン?


ミヤスノン、ってもうアイスノンみてえになってんじゃん


あ、アイスノン処方しましょうか


いらねえよ。わざわざ病院で処方してもらうやつじゃねえわ。あれだろ、出血してるときに身体をあっためちゃうと 血行が良くなってなんかこう、血がぶあーって出ちゃうから冷やすみたいな、そういうことでしょ


ちょっと何言ってるか分からない


なんで何言ってっか分からないんだよ


じゃあ焼き上がる直前に抜く方向で


いや直前っていうか、もうちょっと前の段階で抜いてほしいんだけど。お料理の仕上げにごま油加えます、とかじゃないんだから


今すぐってなると虫歯治療のドリルで抉り出すって方法になるんですけど


怖すぎる怖すぎる いつから歯科になったんだよ。他のやつなんか無いの


フリーで使える医療機器ってなると、レントゲンの出力を最大にして破壊するとか


破壊すんなよ。あなたのフリーの認識間違ってますからね。患者を自由にしていいわけじゃないんです。そんで毎回毎回雑なんだよ処置が


ほら、スコーンは雑に作ったほうがいいって言いますし


同じ話なのそれ。まあ、スコーンは多少雑に作ったほうが上手くいくとかって聞くけど


だったら、粉混ぜなくてもいいですよね


粉は混ぜろよ。混ぜなかったらただの粉だぞ ただの粉にバターとか乗っかってるだけの何かだぞ。誰も食わねえわ


じゃあもう作んなくてもいいですよね


作れよ。いや作んなくていいわ、治療しろ


「スコーン作れ」「致しません」


ドクターX帰ってきたな


まあ銃弾なんてね、入ったとこと逆っ側から出してあげればもう出し入れ自由ですから


そんな ピアスみたいに入れたり出したり入れたり出したりできなくたっていいんだよ。出した状態だと風穴空いてんだよ


じゃあアイスノンで蓋しときます? セールで安かったんで いくらでもありますよ


いや、いらない。え、ここセール品とか使ってんの? 病院で使うのってセールとか無関係だと思ってたけど


結構そういうことありますよ。僕も今日、セールでこの病院に買われてきたんで


お前もセール品だったのかよ もういいぜ、どうもありがとうございましたー

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