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ゴーレムマスター XD-END  作者: 分体757号
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07/08 支配

早朝、エメスに起こされたリュウジは、上空を旋回する分体の音速隼から送られて来るリアルタイムな敵の動きをサンドゴーレムを通して眺めていた。

味方の存在を示す青い点が散らばる森を貫く街道を、縦隊で移動する赤い点。昨日はこの拠点から少し離れたところで野営をしていたので、日の出を待って攻め込む算段なのだろう。残念なことに全てばれているが。


「エメス、迎撃の準備はどう?」


「はい、マスター。敵戦力、指揮を執る騎士20名、従士56名、魔法士5名、歩兵227名。普通の小さな街程度でしたら簡単に落とせる数です。魔獣はびこる森の中に存在する戦う力を持った街を相手取るのに出し惜しみはしなかったのでしょう。

拠点の戦力を考えれば、正面から弓や攻撃魔法で打ち倒しても楽に勝てる規模ですが、なるべく敵を殺さないための仕掛けはすでにしてあります。」


森が切れ、農地と森を隔てるように拓かれた場所に続々と赤い点がなだれ込み、町の一角から包囲すべく鶴翼の陣形をとる。


「あーあ、そんなあからさまな罠のある場所に踏み入って。それじゃあサンドゴーレム、いい感じに拡大して。」


「通常の敵と戦うのなら手堅く間違ってはいない選択でしょう。短時間で布陣し終えた兵の練度も高く相手の指揮官は優秀ですね。」


陣形の後ろで騎馬に乗ったひときわ豪奢なマントをつけた指揮官らしき騎士が兵を鼓舞する。


『我々はこれより邪教の街を殲滅する。相手に気取られぬままここに進む事ができた兵士諸君を私は誇りに思う。』


「全部見られてるしすでにそこは死地なんだよなあ。なんか可哀想になって来た。」


騎士は腰の剣を抜き放ち天に掲げると、振り下ろしながら叫んだ。


『総員抜剣せよ!・・・かかれッ!』


合図と共に各々が武器を抜き、新芽も青々しい畑を踏み荒らしながら進軍しようとしたところで突然地面がはぜた。

地中から伸びる8本の脚に囚われ、次々と地面に引きずり込まれる歩兵たち。誰かが『地蜘蛛!』と叫びをあげる。


「あーあ、だからそこ罠だよって言ったのに。」


「マスター、こちらの音声は届いておりませんので忠告は無意味です。」


『魔法士!罠だ、攻撃用意!』


最後尾に構えていた魔法士達が慌てて杖を構え魔法を発動しようとした矢先、皮膚の色を変えて背後に忍び寄っていた大蜥蜴が真っ赤な口腔をさらして魔法士を飲み込むと一目散にどこかに駆けてゆく。


『擬態した七色蜥蜴かッ!いつの間に潜んでいやがった?』


相手に複数のテイマーが居る可能性が高かったため、進軍中は生命感知を使いながら狼や熊、中型の蛇に至るまでしらみつぶしに討滅してきたのだ。

部隊を展開する短時間に背後を取られる可能性など無かった。混乱の極みにある軍に森の中からフクロウの声が聞こえる。音の方へ視線を集中させた先には独特の獣臭を放つ白毛のテンが複数居た。


『催眠梟!狂気貂!いかん!皆の者!気を確かに持てッ!どこから現れた?』


ふらふらと倒れ伏す者、狂ったように嗤い出し鎧を脱ぎ始める者、同士討ちをしていないだけまだ救いはあったが、歩兵の半数は地に呑まれ、残りも眠りや混乱で戦闘どころではない。

堅実に下準備を重ね、確実に落とす気概で戦闘開始の合図をしたと共に精鋭部隊が何もできずに壊滅した。指揮官にとって悪夢以外の何物でもなかった。


『撤退ッ!できるだけ味方を回収しながら撤退するのだ!』


この騒ぎだ、確実に武装した敵の本隊がやって来る。自分なら敵を殲滅するためにそうする。敵の本隊が来たらいかほどを見捨てて逃げねばならぬのか。騎士は死にゆくであろう兵たちに、心の中でおのれの失策を詫びた。


『ゲルハルト様、あちらにッ!』


一人の騎士が街の方を指さす。敵が来たかと視線を向ける指揮官の眼が捉えたのは、のんびりと農具を担いで畑仕事をはじめようかというゴブリンの姿だった。そして後頭部に襲い来る衝撃と鈍痛、指揮官の意識はそこで途切れた。






敵が撤退していくと、フクロウやテンは地面に掘られた深いモグラ穴に帰ってゆき、蜘蛛たちが糸で巻かれた兵士を巣の外へポイポイと吐き出す。

眠っている者や嗤い続ける者は、その場に残った分体化されて埋伏していた兵や騎士が蜘蛛から受け取った糸で拘束し、街から出て来た熊や鹿と共に領主館に運んでいった。


「はぁー、あっけないね。うわ、トカゲくんに飲まれた魔法使いべったべたじゃん。きっしょ。」


「念入りに洗浄をかけましょう。捕えた者は予定通り全て分体化して、兵士はモルテン領に即時帰還。残りの価値の高そうな者はこの世界の通念に則り、身代金と交換でよろしいですね?」


「うん、元は子爵が難癖つけて襲って来たし、こっちを奇襲で一人残らず殺す気だったんだ。本来なら帰さずに全部まとめてやっちゃってもいいんだろうけど、おれは首狩りしたい蛮族じゃないからな。あいつらにも家族がいるだろう。」


その結果モルテン領の中枢に致死量をはるかに超える埋伏の毒となる人材が入り込む事になるのだが、エメスは指摘しないでおいた。


「探査魔法で探さない地中からコンニチワ作戦、次はきっと対策されるだろうな。フクロウくんの催眠とかイタチ(?)くんの狂気は心にスキがあるときの一発芸みたいなもんだし。」


「そうですね、マスター。それでは大型の猛禽類に兵を乗せて、発見できない高空から空爆とパラシュート降下で夜襲などいかがでしょう?」


リュウジは首をひねると、少し考え込んだ。火薬で燃え盛るテントや物資と右往左往する敵、そこに襲い掛かる上空からやって来た分体たち。確かに勝てるだろうが、敵方の犠牲が大きすぎる。

そんな人を殺し尽すような、常識や話し合いすら通じない者達に敵はどう対応するだろうか。きっと全力で多くの被害が出る事と引き換えにしてでも滅ぼそうとするはずだ。


「それじゃあ人死にが多く出るし、最終的に国軍とかが出てこちらにも被害が及ばないか?できるだけ味方の被害ゼロで敵方の死傷者を少なくしたいんだけど。」


「それでは開発中の250キロ爆弾および迫撃砲と8ミリ連装機関銃は対ドラゴン以外で使わないようにいたしましょう。近代兵士分体、開発ネーム・ハルトマン軍曹はその様な方向へ軌道修正します。人間の軍に対しては替わりに袋詰めしたコショウと麻痺薬でも投下しますね。」


一体いつの間にそんな近代兵器を開発していたのか。確かにリュウジは中二病心に駆られて兵器の構造や火薬の製法を調べまくっていた時代があるが、今ではそんな記憶もうっすらとしか出てこない。

どのような物かという完成形と原理や機構は何度か見たし、配合の割合はともかく黒色火薬やニトログリセリンの製法は覚えているが、そんなおぼろげな記憶から近代兵器を開発しようとは。


「安心してくださいマスター、原子力兵器は作れそうでも作りませんので。ところで劣化ウラン弾はマスターの中ではオーケーな部類でしょうか?」


リュウジはそのうち、どこまで兵器開発が進んでいるのか確かめておこうと心に誓った。






息も絶え絶えに激しく咳き込みながらも撤退の経緯を説明する騎士の報告を受け、周辺諸侯に討伐軍編成の要請文をしたためたエドガー・モルテンはいらいらしながらベッドに腰掛けていた。

300名もの部隊で討伐に赴いたが結果は隊長含む騎士8名、従士31、魔法士全滅、他多数の兵が未帰還、対して敵方の損害は皆無。忠義に厚い鍛え上げられた者達だ、撤退時に付いてこれなかった者は死んだか囚われたのであろう。

邪教の街は複数のテイマーや魔術師、蛮族共により要塞化されており、単独での殲滅は困難で他領に借りを作る事になりそうだ。そのうえ死亡した者への追悼金や遺族への配給、拘束された者の身代金など領の資金を圧迫する負債が重くのしかかるだろう。

それにしても今日は暑いし、喉の奥がやけに痛い。


「誰か、水を持ってこい!」


かすれる声で叫べばドアの外に待機していた衛士がバタバタと走ってゆく。こんな大切な時に風邪でも引いたのか、クソッ。喉が痛い、息が吸えない、呼吸が・・・。


「旦那様、水をお持ちしました。」


エドガーは水がめを持ってきたメイドに、いつも通りのよく通る声でにこやかに答えた。


「ああ、そこのテーブルに置いてくれ。遅くにご苦労だった。」



「うふふ、人間や動物に感染する感染症が流行っているようですね。ゴーレムの当機にはあまり関係ありませんが。

咳などの呼吸器症状や発熱が出るという事は空気感染でしょうか。細菌、ウイルス、生物とは思えないこれらの生態はとても興味深いですね。

科学の発展していないこの世界ではまだ、全ての病気は瘴気や呪いなどの非科学的なもののせいだとされていますが、瘴気や呪いが実在するこの世界では一部の疾病は本当に呪いや瘴気の影響のようです。」

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