表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴーレムマスター XD-END  作者: 分体757号
3/9

03/08 探索


『ひとはパンのみに生きるにあらず。』と言ったのは誰だったろうか、リュウジとしては菜園で入手した野菜の塩ゆで以外にも肉も食べたいし穀物だって食べたい。そもそも人間の文化圏に行けなくては小麦もパンも、有るかはわからないが米だって手に入りはしないのだ。

青マメの塩ゆでを朝食にしたリュウジは周辺の探索に当たる事にした。ただし問題がふたつ。リュウジは戦えないし、エメスを探索に使った場合拠点に敵対的な何かが来た場合危険極まりない。そしてエメス本体がやられてしまったら替えは居ないのだ。


「エメス、戦闘用の分体を作りこのあたりの探索を行いたいのだが意見はあるか?」


「はい、マスター。現在当機にストックしてある魔石粉および他素材の在庫から作れる分体コアは最大3体です。これ以上の分体は魔石の不足により不可能です。

拠点周辺の防衛と素材の確保に1体、戦闘および探索用に2体を生産することをお勧めしますが、地上からのみの探索では人間の生活圏を発見するまでに時間を要します。

現在、拠点にて家事等に従事している分体1号と当機はマスターの傍で護衛にあたります。」


一晩たち、工房や拠点周辺の汎用的な素材を取り込んだことによってエメスの質感はビスクドールの様に艶やかに変わり、その口調もたどたどしいものから流暢に進歩していた。

土から生成した服も寝室のチェストに保管されていた子供用の服を作り直し、清楚な感じのワンピースへと変わっている。


「そこで、探索を行う2体のうち1体をコアのみで上空に射出、空撮に使います。射出したコアは空撮した情報を本体に送りつつ落下、落下地点の素材を使ってボディを構成し帰還を目指しますが、帰還成功率は低いと見積もります。

その後、得られた情報で探索用の機体を集落等の交渉や交易ができそうな場所を目指し移動させます。

途中、魔獣や妖魔など魔石を有する生物のうち撃破できそうなものを討伐、その場で分体の分体、劣化コピーになりますがコアを生成して素材と共にこの拠点を目指します。」


「劣化コアなんて作ったら一体分の魔石が無駄にならないか?」


老人が隠棲できる程度の森だ、一体で魔石粉がいくつも作れるような強力な魔物が居るとは思えないし、そんなものが徘徊していたら小屋に設置してある獣避け程度ではすぐに破られていただろう。

それに転生の時即座に命の危険が無いと言われていたので、せいぜい角兎や森狼、はぐれ者のゴブリン程度ではなかろうか。

それらの弱小な魔物の魔石からゴーレム用の魔石粉を作った残りなどほとんど無いに等しく、劣化コピーされたゴーレムの強さなどたかが知れている。


「無駄にしないための方策は二つあります。ひとつは素材を担いで戻って来た劣化分体を当機が補正し、通常の分体としての運用をする。

もうひとつは素材が潤沢にあるゴーレム使いなら維持に余計なコストがかかり、制御が難しい等の問題があり取らない方法です。

破損が多い素材では不可能ですが、得られた素材を丸ごとフレッシュゴーレムとして作成します。制御に関しては当機であれば問題ありません。」


フレッシュゴーレムとは防腐処理をした動物などの死肉を繋ぎ合わせて作られるゴーレムである。リュウジの記憶で一番近いものといえば犯罪者の死体を繋ぎ合わせて作られたフランケンシュタインであろうか。

この世界では元が死肉なので倫理的に忌避されがちだが、自己再生能力が高く厄介なゴーレムとして認識されている。


「死にたて、もしくは死に瀕した魔物の延髄付近に劣化分体のコアを埋め込み、体内の魔石から血流を通して直接魔力の供給を受けます。

戦闘で破損した肉体部分などをゴーレム技術で修復および強化し、肉体の各器官を細胞が死に至らぬように分体で制御します。

うまくいけば脳が無事なままゴーレム化できますので、その個体の記憶や技術が本体にフィードバックされ、探索が加速度的に進みます。

使った死体の状態にもよりますが、脳のリミッターが外され、筋や骨格が強化された個体は元となった個体より強力になると予想されます。

デメリットとしては肉体を全てゴーレム化してしまうため、こちらの工房で使う素材が増えない事と、ほぼ生体のため分体の維持に食事が必要になることでしょうか。」


劣化分体が長い距離を素材を運搬しながら戻って来るより、すぐその場で運用できるユニットが増える。それは簡単に軍団を用意したいリュウジにとって魅力的な提案だった。

それに食事の問題はどうせ元が野生生物なのだ、野放しにしておけば勝手に獲物でも狩って食うだろう。拠点が村や町の規模まで拡張できれば食事の問題もどうにかなる。


「よし、フレッシュゴーレムの作成を許可する。丸ごとフレッシュゴーレムにできそうにない素材だけ拠点に持ち帰ろう。手筈通り制作に取り掛かってくれ。」


「はい、マスター。まずは上空射出用の分体を作成します。」


そう言うとエメスは自身の胸の中央にコアを浮かび上がらせ、そこからゴルフボールより一回り小さい分体コアを生成すると小屋の外へすたすたと歩いて出る。

エメスの一投めは自身の直上に向けてだった。落ちてくるコアを数歩進んでキャッチする。


「周囲の大まかな地形と森の切れ目を確認しました。次は森の切れ目に向けて偵察を行います。森の木々に遮られ地表の様子は見えませんので、データの穴埋めはこれから作成する探索用のゴーレムに任せましょう。」


そう言うと力を貯めるように大きく振りかぶり、西の空へ向けて全力投球する。リュウジの目では追う事もできないほどの速さで空に消えてゆく分体コア。

それを気にするでもなく小屋に戻って行くエメスに、従者のように後ろに付き従うリュウジ。

エメスは作業机に大きな紙をばさりと広げるとペンにインクを浸し、機械の様な正確さで凄まじい勢いで線を引いてゆく。

中央の簡素な家マークはこの小屋だろうか。西に森の切れ目と小道、それに続く広い畑と小さな村。村からは街道が伸びており、その先はまた別の村か街へと繋がっているのだろう。遥か北には山岳が連なり、南と東には深い森がうっそうと茂っているようだ。


「ここから村までは道があった場合マスターの足で一日ほど、百年余りの経過で小屋から村までの道は既に残っておりません。

分体2号の落下地点は村より少々東北東の森の中ですが自力での帰還は難しいと考えられますのでロストとして扱います。

村との接触は周辺の探索を行い交易に使える物を確保したのち、五日以内を予定しています。マスター、この方針で問題ありませんか?」


村から調味料や物資を手に入れるにしても、奪い取るのでなければ物々交換となるだろう。肉や野草は探索用の分体が取って来るだろうし、今日明日我慢すれば食卓に肉や魚が並ぶはずだ。

ゴーサインを出したリュウジは探索用分体の作製をエメスに任せ、護衛兼家事用分体を連れて周囲の森へ遊びに出掛けた。

そのおかげもあってか、その日の夜の食卓には根菜の塩ゆでのほかに食べられる野草や木の実も並んだ。


一晩明け、庭に用意された防衛・探索用の分体は細身の男性型が二体だった。エメスの説明によると外から見える表皮にはジャイアントバットの被膜などを使い人間に偽装しているらしく、一切のブレを見せず直立不動で表情すら動かないことを除けば見ためはまるで生きている人間のようだ。

リュウジが恐る恐る体に触れると肌のような少ししっとりした感触はあるが、体温が冷たく生命を感じさせる脈動も無い。

一体目は腰に鉄で補強されたヌンチャクを吊るし、黄色地に黒のラインが入ったつなぎをまとう姿は往年のカンフー映画から飛び出して来たようだ。

二体目は黒のカンフーウェアをまとい鉄の石突を備えた棍を持つ大きな鼻でコミカルな顔をした男。こちらも有名な映画俳優にそっくりだ。


「吼えよタイガーのブルック・リンと砕拳のラッキー・チャンじゃないか!」


アクション映画が好きなリュウジは古いカンフー映画もよく視聴していた。特に李小虎ことブルック・リンのタイガーシリーズやラッキー・チャンの上海国際警察は憧れと共に何度も見ていた。


「重戦士型の場合武具や防具に使用する金属が不足したため、格闘家として運用できる個体に調整しました。

マスターの記憶アーカイブにカンフーを使った拳闘の詳細なデータがありましたので、剣と盾での戦闘より習熟した動きができるはずです。

それでは性能をテストいたします。金属の在庫状況から武器の一部および拳、膝、肘等打撃に使う部分のみに鉄を使用しておりますが、戦闘力に問題は無いと予想します。」


エメスが立ち木を指さすと、連節棍を手にしたブルックは弾かれたように走り出し、ラッキーはゆったりと歩を進める。

甲高い怪鳥音と共にブルックが振るった連節棍は樹皮を抉弾け飛ばせ、その隙間を縫うように裂帛の気合と共に突き出されたラッキーの棍が幹を深々と抉る。

二人が放つ武器や拳、全身を使った渾身の蹴りが生木を木くずへと変えてゆき、やがて耐え切れなくなった木がめきめきと音を立てて倒れる。

普通の人間より大きなパワーを持つゴーレムが、映画では早回しで撮影する演武をそのままのスピードで実行する。そんな大迫力の光景にリュウジは子供のように拍手を送って喜んだ。

褒められたゴーレム2体はリュウジに振り返って一礼すると再び待機姿勢に戻る。


「よし、決めたぞ。ブルック・リンは小屋からあまり離れないようにこの周辺の探索をして、食肉になりそうな動物が居たら狩ってきてくれ。

ラッキー・チャンは劣化分体で戦力を増強しつつ遠方の探索をするんだ。制御はエメスに任せる。」


その日の夕食にはブルック・リンがしとめて来たウサギの香草焼きが加わり、リュウジはも、もう交易とかいいんじゃあないか?と思ったが、小麦や菜園に無い野菜も必要ですとエメスに言われもっと拠点を大きくする野望を思い出した。







森に落ちた小さな分体は周囲の土や木の葉を集めて小ネズミの姿を取り、ぎこちなくのそのそと動き始めた。茂みに身を隠すでもなく、動きの鈍いネズミなど自然界では恰好の餌である。すぐにはぐれ森狼に見つかってパクリと丸呑みされた。

次の瞬間、分体を食らった狼がガッ、ガハッと荒々しく吐き戻すような呼吸をして苦しみだすと、その場に崩れ落ちた。

息絶えたかと思われた数分後、何事も無かったように狼は動き出す。何かを確かめるようなぎこちない動作のまま粛々と森の奥へと。



「ピコーン!

当機はリビングセラミックゴーレムとしてアップデートされた。

異界の知識より 功夫演武 異界料理 をサルベージ。


手作業でマッピングを行うのは非効率的です。改善を模索します。」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ