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第七話

「ようやくきたか、ライラ!」


 部屋につくと、私を迎えたのは満面の笑顔のマキシムだった。

 その表情に私の背筋を冷たいものがよぎる。

 ……こういう時、マキシムはろくでもないことをたくらんでいると私は知っていた。


「なあ、ライラ。私はいいことを考えたんだ」


「……何をでしょうか」


「試作段階と言っていたこの魔道具をスリラリアで使おうと思う」


「なっ!」


 そう言ってマキシムが取り出した魔道具。

 それに私は言葉を失うことになった。


 ……それが今悪名高いアズバルド商会のものだと理解できたが故に。


「これは非常に優れた魔道具でな、一気に作物の生長ができるらしい。そんな便利なものであるのに、これをスリラリアで使うだけで今なら前金を払うとまで……」


「絶対にだめです!」


 その話が終わる前に、私はそう即答していた。

 アズバルド商会のたくらみについて私には用意に想像できていた。

 すなわち、魔法に満ちた土地スリラリアを実験場にしようとしているだけだと。


 かつてスリラリアは呪われた土地だった。

 隣にある獣のもりがあること、作物が取れないこと。

 その二つがスリラリアに対してそういうイメージをうえつけていた。

 しかし私が冷害対策の作物の作り方を作ったことでその見え方は変わった。

 スリラリアは魔法が満ちた、この上なに魔道具の実験場。

 そう評価されるようになったのだ。


「スリラリアにそんなものを持ち込めば、待っているのは土壌汚染です。アズバルドの評判をご存じないのですか!」


「聞いたことはあるさ。だが、今日来た人間達は話の通じる相手だったぞ!」


 その言葉に私は唇をかみしめる。

 一体誰がアズバルド商会の者を通したのかと。

 知識はないのに結果を求めるマキシムは非常に危険だ。

 それを知るが故に、私はずっとマキシムにこういった商会の人間と会わない様手配してきた。

 ……しかし、商会の仲にアズバルド商会から賄賂をもらった者がいるらしい。

 そのことを瞬時に悟るが、今はどうすることもできなかった。

 私は必死に、マキシムを説得するべく言葉を重ねる。


「私の社交界での豊穣の女神という呼び名もスリラリアあってこそです。今、スリラリアに何か被害が行くような事があれば、それはドリュード伯爵家の名が傷つくことになりません」


「だが、私はスリラリアの事を案じているのだ! 試すくらいいいだろう!」


 いつになくしつこいマキシムに、私は唇をかみしめる。

 案じているからいい結果がでるなら、この世界に暴君はいない。

 知識のない善意がどれほど危険か、社交界でずっと活躍してきた私は知っていた。

 ……そもそも、マキシムにあるのは善意などではなく、自分のことだけだと言うことも。

 そうわかりながらも、私はある決断をする。

 嫌だが、いつものあれをするしかないと。


「どうか、お願いいたしますわ、旦那様。今回の事は私に任せてくれませんか? 貴方を愛する私が、貴方を思って選択をしてきたのは知っているでしょう?」


 そういいながら私の中に吐き気がせり上がってくる。

 しかし、それを私は気合いで押し込める。

 こう言えば、マキシムは少しの間おとなしくなることを私は経験上知っていた。

 ……しかし、マキシム相手に愛しているなど言うのは私の精神衛生上いいとは言えず、故にできれば使いたくなかった手だった。

 しかし、これで少しの間マキシムもおとなしくしてくれるはず。


「ほう、その言葉は本気だな」


 ──その私の思いは、マキシムの顔に浮かぶどす黒い感情に霧散することになった。

 明日から2話投稿になります。

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