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第四話

 スリラリアを手にする。

 それこそがマキシムが知る由もない私達の目的だった。

 いや、具体的に言えば少し違うかもしれない。

 ただ、その目標は間違いなく達成に向かっていて。


「……ライラ様」


「目標を達するその時に、貴女が隣にいないのを私は許さないわよ」


 そう言って精一杯胸を張ってみせると、マリアは力が抜けたように笑みを浮かべる。

 彼女にしては珍しい力の抜けた笑みを。


「仕方、ありませんね」


 その言葉に、私も笑みを浮かべる。

 しかしそれは、ライラが次の言葉を継げるまでだった。


「私がいないとライラ様はすぐにないてしまいますもんね」


「い、一体何時の話しているの!」


 そういいながら、私の顔は真っ赤になっていた。

 事実無根と言いたいところだが、残念なことにマリアの言葉に私は心当たりがあった。

 というのも、マリアは私の初めての味方であり、そんな存在を得た当初は今までの不安もあって涙もろくなっていたのだ。


「あらあら、そんなに恥ずかしがらなくていいですのに」


「……絶対に面白がっているでしょう」


「そんなことないですわ。泣いていることを恥ずかしがってシーツに潜り込んで嗚咽を漏らしていたライラ様は大変愛らしかったと……」


「わー! わー!!」


 必死に私は声を張り上げ、マリアを威嚇する。

 ここなら他人に話を聞かれることはないと知っている。

 ただ、昔の恥を聞かされるのは私の精神衛生上によろしくなかった。

 ……これだから、つきあいの長い腹心は厄介なのだ。

 私の弱みも恥ずかしいところも全て知っているのだから。


「もうすこし私が主として敬ってほしいんだけど」


「……私の主は一人だけ、それでよろしいではありませんか」


「え?」


 いつものマリアの口からはでないような言葉が聞こえた気がして、私は目を瞬く。

 しかしすぐにマリアはいつもの感情の読めない笑顔を顔に張り付けていた。


「それにしても、ここまで長かったですわね」


「あ、うん……。確かに、長かったね」


 そういいながら、私の頭によぎるのはマリア達と出会ってから、スリラリアを開拓していく日々。

 その最中は本当に苦労の連続だった。


「特に文句しか言わないマキシムとか、無茶ぶりしかしないマキシムとか、成長してから色目で見だしたマキシムとか……」


「ライラ様、怒りが漏れ出てますわよ」


「……はっ」


 マリアの言葉に私は正気を取り戻す。

 ただ、恨みが消えないのも仕方ないことは絶対あると思う。

 それほどの仕打ちをうけてきたという自負が私にはあった。


「歩み寄ろう、そう思ったこともゼロではないのだけどね……」


 そういいながら、私は思い出す。

 かつてマキシムにしてきたお願いを。


 もっと話し合いの時間を持ってほしい。

 きちんと執事になる人間の選定をしてほしい。

 もっと、領地の人間の事を見てほしい。


 ……もっとスリラリアと向き合ってほしい。


 それは悪意からではなく、ただドリュード家の今後の為に必要だと思った言葉だった。

 しかし、その全ての言葉をマキシムが聞いてくれることはなかった。

 今、私のことを尊重しているように見えるのも、ただ私が自分に有用なことをしてくれるという思いがあるからにすぎない。

 その証拠にマキシムが私にかける言葉はよくやった、さすが豊穣の女神という言葉だけ。


 ……ありがとうも、ごめんという感謝も謝罪の言葉も私は聞いたことがないのだ。


「私にはもう、自分を尊重してくれない人に費やす時間はないものね」


 そういいながら、私は拳を握りしめる。

 たとえ女主人として許されないことであっても、私の目標は由良がないと。


「ん、何よ」


「……いえ」


 マリアが珍しくしみじみと私を見ていたのに気づいたのはその時だった。


「ライラ様もお強くなったな、と思いまして」


 それに私は笑いそうになる。

 確かに、マリアに会った時から考えると私は随分しっかりしたものだと。

 最初は文字通り、私はマリアに全てをゆだねている状態だったのだから。


「それも多分、あの人が私にきっかけをくれたおかげね……」


 その私の言葉に、マリアの目に楽しげな光が宿る。


「それは彼、フードの王子様のことですか?」

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