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第十五話

「何を考えているの……!」


 そう告げた私の声は、明らかに動揺したものだった。


「今でも無理な橋を渡っているのに、これ以上危険なことになったら、貴女が……」


「あら、ライラ様。私は約束したでしょう?」


 そんな私に心から楽しげに、笑ってマリアは告げる。


「スリラリアが私達のものになる時、私は側にいると」


「それは……!」


「その誓いは果たしますわ。だから、どうか許可を」


 そう言って頭を下げたマリアに私は何も言えなくなる。

 ……まさかあのときの言葉をこう利用されるなど想像もしていなかった故に。

 けれど、同時に私は理解していた。


 これはマリアにとって譲歩であることに。


「私も同じなのです。大事な主が傷つけられそうな時、ただ座して見ているだけの自分を許せないのです」


 その言葉に私は無言で目を閉じる。

 ……今の葛藤が、マリアが抱いた時よりどれだけ軽いのか私はよく理解していた。


「私達にもライラ様の為に何かをさせてください」


 故に、その時点で私の言葉は決まっていた。


「……無理はしないでね」


 そういいながら、私は理解していた。

 目の前の腹心がこの状況で無理をしないほどお利口ではない事を。


「それはもうお任せくださいな。今までのライラ様を参考にした動き方を完璧にさせていただきますわ」


「無理する気しかないじゃない!?」


「……ご自覚があったようで、私大変うれしく思いますわ」


 明らかに激怒しているマリアの目に、私は無言で目をそらす。


「はぁ……。まあでも、本当に約束は守りますわ」


「マリア……」


 私が向き直ると、そこにいたのは優しげな目を向けるマリアだった。


「こんなところで私は死ぬつもりもありませんし、ここでもう何かを失う気も合りませんわ。だから、今回は私を信じてできうる限り時間を稼いでください」


 そう言うマリアの目に浮かぶのは激怒だった。

 しかし、その怒りが向いているのは私ではなかった。


「あの男の為に、ライラ様は今まで多くのものを犠牲にしてきました。その上これ以上奪っていく? そんなことこの私が許すものですか」


 そう言うマリアの顔に浮かぶのは凄惨な笑みだった。

 それはマリアが激怒している証で、それを知るが故に私は少し言葉を失う。


「しかも、一度いらないと捨てたものを、今更奪いにくる横暴がどうして許されると思ったのかしら? あの男に奪われる位なら、私がライラ様を奪いますわ」


「……え?」


 冗談だよね、という意味を込めて見つめるとマリアににっこりと笑われる。


「失礼しました。元々ライラ様は私のものでしたわね」


「違うけど!」


 私の反論を笑顔でながしながら、マリアは再度告げる。


「では改めて。初夜式までに私達が準備を整えます。だから、ライラ様は時間稼ぎをお願いします」


 そういいながら、マリアは窓の方へと身を乗り出していた。

 その姿に、私はマリアは今からもうでる事を理解する。


「後の事は妹のカリアをお使いください」


「……言付けはしているの?」


「説明はお願いいたしましたわ」


 言外の説明はないの言葉に、私は苦笑する。

 ……同じマリアに遊ばれている身として、カリアの苦労が忍ばれる。


「それでは名残惜しいですが、私はこれで」


 そう告げて、マリアが笑う。


「約束しましょう。私は無事戻ってきますわ。ーーだから、今回ぐらいライラ様もヒロインをしていて下さないな」


 それがマリアの別れの言葉だった。

 マリアの身体が窓から飛ぶ。

 あっという間に地面に着地したその姿を見ながら私は笑う。


「……そんな柄じゃないのに。それでも待っていてあがるから、無事に戻ってきて」


 そう告げる私の心に、もうマキシムへの嫌悪感はなかった。

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