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第十四話

 私の言葉にマリアの表情は変わらない。

 ただ、その目が何より雄弁に物語っていた。


 ……どれほど残酷な命令を下すのだと。


「貴女は私の最高の腹心よ」


 しかし、それを理解した上で私は笑う。

 心からの本心で。


「私がどれほどの地獄を見てきたか貴女は知っているでしょう?」


 そういいながら、私の頭に浮かぶのは常にその隣にいてくれた人間達の存在だった。

 マリア、スリラリアの人々だけではない。

 公爵家現当主アルダムに、王妃様。

 その全てのおかげで今の私がいて、その為なら同じ地獄をみることさえ私はいとわない。


「これから起きる程度のことなんて、私にとっては些事よ」


 そう笑いながら告げたとき、マリアの顔に浮かんだのはあきらめだった。

 ……もう、私に何を言っても無駄だという。

 それでも、マリアは口を開く。


「誰も、それは望んでいなくてでもですか?」


 感情を全て殺し、マリアは続ける。


「私も、スリラリアの人間も……公爵閣下も。ライラ様を犠牲にすることなど望んではおりません。これ以上貴女が犠牲になることを望む人間はいません」


 そのマリアの言葉に私は内心でうなずく。

 知っているのだ。

 私が人に恵まれていることも、彼らが私の犠牲など望んでいないことも。


「でも、私が望むわ。全力を出さずに逃げることを他でもない自分が許さない」


 そう、私は理解していた。

 今からの行動は、誰かの為なんて偽善でさえない。

 私が自分の思うままにする、ただのわがままにすぎないと。


「だから、私は自分の思うことを貫く、それだけよ」


「わかり、ましたわ」


 私の言葉にマリアがうなずく。

 それに分かってくれたかと、私は一瞬安堵を抱く。

 しかし、すぐにその感情は消えることになった。

 ずっと、表情を変えないマリアに私が違和感を抱いたのはその時だった。


「……でしたら、ライラ様は別の人間がわがままを行っても止めはされませんわよね?」


「っ!」


 その時、初めてマリアが笑みを漏らす。

 ……私が自分がはめられたと気づいたのはその時だった。


「ライラ様が私達を助けるために身を捧げるというなら、私マリアも宣言させていただきましょう。──私達がいながら、ライラ様が身を捧げる未来などあり得ない、と」


 にっこりと笑ったマリア。

 その表情は同性の私でさえ見ほれてしまうほどに美しかった。


「初夜式の前に、公爵家からスリラリアの後ろ盾を何としてでももぎ取ってきますわ。どうか、しばしの留守の許可をくださいますようお願いいたします」

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