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第十三話

「……っ! 待って、話をしましょう」


 私は咄嗟に叫ぶ。

 けれど、その時にはもうマリアは動き出していた。

 その動きは素人の私でも分かるほど自然で、私が逃げられる訳がなかった。


「なっ!」


 あれとあれよという間に私はマリアに動きを封じられて、動けなくなる。


「申し訳ありません、ライラ様。けれど、これが正解なのです」


 そう言って、私を取り押さえたままマリアは窓の方へと歩き出す。

 その動きに私は確信する。

 ……本気でマリアはここから逃げ出すつもりだ、と。


「待って、マリア!」


 そう判断した瞬間、すぐに私は声を上げていた。

 だが無駄だった。

 返答さえなく、マリアはどんどんと窓の方へと歩いていく。

 その動きは人一人を抱えていると信じられないような力強さで、どれだけ暴れても自分の力では逃げられない事を私は確信する。

 ……なんなら、私の意識を奪ってどこかに逃げるくらい、マリアにはたやすい。


 経験即からそれを知る私は暴れるという選択肢を頭からのぞく。

 だとすれば、どうすれば。


「マリア止まりなさい」


 その悩みの結果、私が判断したのは。


「──私はまだ誓いを果たしていないわ」


「……っ!」


 そんな言葉だった。

 私の言葉に強引にでも窓にいこうとしていたマリアの動きが止まる。

 それに私はようやくマリアが話を聞く状態になった事を悟る。


「マリア、命令よ。止まりなさい。私は逃げないわ」


 ……そして、そうなったマリアは私の命令から反することはできない。


 諜報員として訓練されているマリアにとって、主である私の命令は絶対。

 だからこそ、マリアは私の命令を無視できる感情的な時にこの場から逃げようとしていた。

 それが一時的な対処方でしかないと理解していたはずなのに。

 けれども、一度冷静になった今、私の命令をマリアは無視することはできない。

 ゆっくりとマリアが私の方に顔を向ける。


「……どうして、この場においてライラ様はそんな顔ができるのですか?」


 マリアの表情はいつものと一切変わらない。

 なのに、その声は泣いていた。


「どうしてこんな時、いつもいつも貴女は当然のような顔をして受け入れてしまうのですか……!」


 かつてこれほどまでにマリアが感情を乱した姿を見たのは一回だけ。

 スリラリアをマキシムが私に押しつけた時か。

 一瞬、完璧なマリアの表情がほんのわずかにゆがむ。


「こうなるなら、貴女を綺麗にしなければ良かった……!」


 私をあか抜けさせてくれたのは、マリアだった。

 それがなければ、私はマキシムが興味を抱かない芋娘のままだっただろう。

 それを理解するが故の苦悩を私はマリアから感じる。

 それを見ながら私は思う。

 時々、私はマリアが諜報員に向かないのではないかと思う時がある。

 あまりにも彼女は優しすぎるが故に。

 けれど、その優しさは今はいらなかった。


「マリアそれは腹心失格よ。それを決めるのは貴女ではないわ」


「っ、はい……」


「それについてはもう私が決めています。貴女に出会えたこと、貴女に戦う力を与えてもらったのは私の人生最大の幸運だったと」


 なぜなら、私は何度同じ人生を繰り返しても、自分を綺麗にしてくれとマリアに頼み込んでいただろうから。

 そして、その願いに答えてくれたから今の私がいる。


「貴女のおかげで私は今から貴女達を守るために戦える。命令よ、マリア。──私に力を与えたことを誇りなさい」

 明日から一日一話更新とさせて頂きます!

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