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第十二話

 廊下を早足で歩く。

 そんな私の中あったのは、どうしようもない吐き気だった。


 ……とにかく一人になりたくて仕方なかった。


 自分の仕事部屋までようやくたどり着いた私はそこにおかれた毛布を自分の身体にかける。

 そんなことで自分の身体のふるえが止まる訳ない、そう理解しながら。


「私は……」


 弱音が私の口から漏れそうになる。

 必死に覆い隠そうとしても漏れそうになる弱音が。


 私の頭の中にぐるぐると恐怖が浮かぶ。

 どうしようもなく、怖くてたまらない気持ちが。

 その全てが私の胸にずっとあって、消えない。


 でも、私は笑った。


「もう、覚悟は決まったわね、私」


 未だ油断すれば涙はあふれそうで、ふるえが止まるまでどれほどの時間が必要か。

 マキシムへの嫌悪感は刻一刻ごとに膨れ上がっていき、初夜式についてなど考えたくない。


 ──それでも、もう恐怖はなかった。


 嫌悪感以上に私の胸を支配するのは、圧倒的な怒りだった。

 こんな程度で私が音を上げると思うな、そう全身全霊で魂が叫んでいる。


「そうね、私はもうかつての私じゃないもの」


 そう告げる私の口元には、かすかな笑みが浮かんでいた。


 ──レディ、貴女は怒って良いのです。


「私はフードのあの人にもう、怒り方を教えってもらった」


 私を汚すというなら、いいだろう。

 その何倍もの後悔をラッピングして送りつけてやる。

 その時にはもう、震えは止まっていた。


「……ライラ様!」


 そして、扉を激しくたたく音とその声が響いたのはその時だった。

 声だけで私は理解する。

 扉の前に行るのがマリアであることを。

 同時に、その様子から初夜式についてライラが知っていることも私は理解できた。


 故に私は迷う。

 ここでマリアを迎え入れて、どうすればいいか。

 その迷いの問いを考える間を、マリアが与えてくれることはなかった。


「……やっぱりここにいましたか」


 私が許可を出す前に、扉が開く。

 そして、顔を出したのは先ほどまでの私より酷い顔をしたマリアだった。

 それからしばらく、私もマリアも何も口にしなかった。

 いつもの冗談も、許可なく扉を開いたことに対する言及も。

 それから何分たっただろうか。


「本当、なんですか?」


 ようやく口を開いたマリアの声は震えていた。

 それに私は何を言えばいいのか分からなかった。


「……ごめんね」


「っ!」


 悩んだ末に私の口からでたのは、そんな謝罪の言葉だった。

 しかし、それは間違いだった。

 口に出した瞬間、私はその事を悟るが、もう手遅れだった。


 ……もう、マリアは何かの覚悟を決めていたのだから。


「ライラ様、ここから逃げましょう」

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