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第十一話

「おほ……!」


 歓喜がマキシムの口から漏れる。

 ……私の全身に鳥肌が立ったのはその時だった。

 悲鳴を上げずにいなかったのは奇跡に近い。

 それでも、私は全ての感情を押さえ込み、頭を下げた。


「今まで申し訳ありませんでした……」


「ら、ライラ!?」


 さすがに私の反応が想定外だったのか、マキシムが声を上げる。

 それでも頭を上げることなく、私は続ける。


「今まで私が多忙だったことは事実です。けれども、マキシム様の気持ちに答えられなかったのにはもう一つ理由がありました」


 そこまで言って、私はあえて申し訳なさげな表情をして顔を上げる。


「もう一つの理由……。それは何だ?」


「……恥ずかしかったのです」


 私がそう告げた瞬間、真剣な顔をしていたマキシムの顔が緩む。

 それに私はあえて、恥ずかしげに顔を隠す。

 ……ぐちゃぐちゃになりそうな心を必死に押し殺しながら。


「だって、どれだけ大好きな旦那様でも、そうではないですか! 今までどれだけお願いしても来てくれなかったのに……」


「そ、それは今までお前がかわいくなかったからで……。い、いや、今はかわいいぞ」


「……恥ずかしいです」


 そう言って顔を隠しながら、私は嘔吐感を必死にこらえるのに必死だった。

 皮肉なことに、マキシムが好意を伝えてくればくるほど私は強く思ってしまう。

 ……私がこの人を好きになることはないのだと。


 せめて最初に思いを伝えてくれれば。

 思いがなくとも私に向き合ってくれていたら。

 いや、私ではなくともスリラリアに向き合ってくれていたら。

 そこまで求めずにも私への罵倒がなければ。


 ……いや、こうして脅すようなことがなければ。


 私を見ながら、顔を赤らめるマキシムを見て私は笑いそうになる。

 こんなにずっと過ごしていても私の内心一つ、この人は知る由もないのだと。

 それでも、必死にあがくうちに私は自分の胸の内を知ってくれる仲間を得た。

 彼らの為なら、どんな目に合っても私は耐えることができる。


「ですが、そんなマキシム様が思い詰めてしまっていたなんて……。本当に申し訳ありませんでした……」


「ライラ……」


「ですが、どうかお願いいたします。どうか、もうこんな危険な事はなさないでください。……これで、マキシム様の身に何かあれば私は……」


 そう言って私がうつむくと、マキシムが初めて反省したような表情を浮かべる。

 ……ここまで言って、ようやく理解できたらしい。


「悪かった、ライラ……」


「いいのです。これは私が今まで思いをいえなかったせいなのですから……」


「ライラ……!」


 そこで感極まったようにマキシムが抱きついてくる。

 ……しかし、それを受け入れる余裕は私になかった。


「それは初夜式の後に」


 私はそう告げながら、するりとマキシムを避ける。


「それまでに私は全ての仕事を終わらせますわ。ですからもう少し、もう少しだけお待ちください。……その時まで、私にも心の準備をさせてください」


「あ、ああ」


 私が顔を見られないようにそう告げると、勝手に勘違いしてくれたマキシムがうなずく。

 これでもうガズリアに話が戻ることはないだろう。

 そう判断した私は立ち上がり、ガズリアの署名が入った書類を手に取る。


「これは私がしかるべき処理をして起きますわ。……もう少しまでいい子で待っておいてくださいね」


 そう言って扉を閉める直前、私の目に入ってきたのはにやけた表情のマキシムだった。

ご愛読ありがとうございます!

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