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第九話

「何を……?」


 マキシムの言った言葉が私は信じられなかった。

 先代公爵家当主。

 その存在はこの王国において禁忌と同義の存在だ。


 かつて栄華を誇った公爵家を滅ぼしかけた存在にして、十年前に起きた魔獣暴走の被害を最悪のものにした理由。

 強大な権力を持った先代当主だが、現在の公爵家当主が公爵家当主の座を奪う時には、バルタリア公爵家は衰退の一歩を辿っていたといっていい。


「冗談、ですわよね……?」


 それを誇らしげに告げるマキシムの言葉を、私は信じられなかった。

 だが、マキシムの顔に浮かぶのは変わらぬ笑みだった。


「こんな大事なことで私が嘘をつくわけがないだろう! これを見て見ろ!」


 そう言ってマキシムが差し出したのは、はっきりと先代公爵家当主ガズリア・バルダリアの署名が記された書類だった。

 それを奪い取ってみたみた私は、ひとまずこの書類に致命的な事がかかれていないことを確認する。

 何せ、ガズリアの名前は社交界において、禁忌だ。

 取引の内容によっては、ドリュード伯爵家どころか、スリラリアにさえ被害が及びかねない。


「……よかった、何もない」


 そして幸いなことに、その書類の中には致命的な記述は残さされていなかった。

 その事を確認した私は何よりも安堵する。

 ……ただ、それは決して今の状況が好転したという話ではなかった。


「どうした、血相を変えて」


 そのことを私は思いだしのは、どこかおかしげな様子のマキシムの声が聞こえた時だった。

 状況を思いだした私は、必死にマキシムに訴える。


「今すぐこの方との関わりを切ってください! この方が何をしたのかご存じでしょう!」


「ふむ、ガズリア殿が何をしたか、か」


 使用人の耳に入ることを恐れ、あえて名前を呼ばない私と対照的に、マキシムはその名前をかみしめるように告げる。

 その態度が何より私の神経をさかなでる。


「それは聞けぬ相談だな……。私はガズリア殿と約束をしてしまったのだから。ドリュード伯爵家はガズリア殿に協力すると」


「……っ! 何を考えているのです!?」


 あまりにも愚かな言葉に、私の声はもうほぼ悲鳴に近かった。

 しかし、その状況に置いてもマキシムの態度は変わらない。


「何を言っている? 今の公爵家の若造よりも、ガズリア殿と当家は長く接しているのだぞ? 彼を尊重することの何がおかしい?」


 ……私が違和感を覚え始めたのはその時だった。

 先ほど言ったように、ガズリアの名前は社交界全体で嫌われている。

 そして、見栄を気にするマキシムがガズリアにわざわざ関わりに行くことなどあり得ないのだ。


「約束もしてしまったのだ。それを覆すのにはそれにふさわしい理由があるとは思わないか? ──そう、たとえば直近で大事な用ができてしまったなどの」


「……っ!」


 ようやく私は理解する。

 今まで私は、マキシムはいつも通り暴走しているだけだと思っていた。

 初夜式を行う為に、考えなしの行動をしているのだと。

 しかし、違う。

 マキシムは明確に自分の行動を理解した上で動いていた。


「なあ、ライラ。私の言いたいことが分かるか?」


 ──これは直ぐに初夜式を行わなければ、ガズリアと手を組むというマキシムの脅しだった。

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