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プロローグ

「私は、私はこんなことの為に……」


 それは真っ暗な庭だった。

 その中、私はただ一人うずくまっていた。


 これが愛のない政略結婚でしかないことは知っていた。

 商人上がりの持参金が目的でしかない、それだけの結婚。

 だから、愛を求める気などはなかった。


 ──この厄介者が。


「あんな目でにらまなくても、いいじゃない……」


 それでも、ここは私の想像していた何倍も恐ろしい場所だった。

 夫になるはずの人間が私にむけた憎悪の視線、それは私の中にこびりついていた。

 ああ、知っている。

 それを思い出しながら、私は思わず笑っていた。


「……本当に馬鹿ね、私」


 どうしてここに来たら、すべてが変わるなど思えたのかと。

 実家での扱い、それは少しでも意識をむければ思い出すことができた。 前妻の子どもである私の扱いは、最悪といっていいものだった。


 ……特に後に妻になったのが貴族であったが故に。


 後妻にとって私が目障りというだけであればともかく、父にとっても私は目障りな存在だった。

 なぜなら父にとって私は自分が平民だった頃を思い出させる存在なのだから。


 そんな場所から逃れられるなら、どこでもいいと私は思っていた。

 どこであれ、そんな場所よりはましだろうと。

 しかしそんな浅はかな考えが、身を結ぶ訳がないのだ。


 ……その浅い考えの結果が、結婚式で一人庭に逃げ込んだ私の姿だった。


「どうして」


 か細い声が、霧散していく。

 別に誰かに愛して欲しいとか、そんなことを言うつもりは私には無かった。

 分かっている。

 私のような存在を認めてくれる存在などいはしないことを。

 それでも、せめて。


「……誰か、私を見てよ」


 自分を認識してくれる人が欲しかった。


 がさ、と私のそばの茂みがなったのはそのときだった。


「っ!」


 反射的に私は音の方向へと顔を上げる。


「おっと、失礼。少々迷ってしまって」


 そこにいたのは、暗闇に紛れるような黒い外套に身を包んだ男性だった。

 雨でもないのにフード付きの外套を見につけたその男性は、優しげな声で続ける。


「故あって名も名乗れませんが、すぐに去りますのでご安心下さい」


 そういって実際に男性はその場から去ろうとし、しかし私の姿を目にして途中で動きを止めた。


「……ドリュード伯爵夫人、どうして新婦がこんなところで泣いているのですか?」


 そう問いかける男性の声は優しく、私の頬を涙が伝う。

 それが私、ドリュード伯爵夫人ライラの人生が変わった日だった。

 新連載になります。

 本日21時頃にもう一話投稿になります。

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