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朝起きたらキスマークがついていました


 朝起きて、鏡で自分の姿を見た私は絶叫した。


 首筋に赤い痕。

 恋愛音痴の私でもキスマークぐらいは知っている。

 恋愛小説に出てくるもの。

 でもまさか、自分にそれが付く日が来るだなんて思わなかった。


 絶叫しプルプルと震える私に、シリウスは気まずげに視線をそらしてから「ごめん。可愛くて……つい」と謝罪の言葉を述べた。

 おかげで今日の私は、暖かい気候だというのに襟の高いドレスを着る羽目になってしまったのだ。


 そして広間でまたもシリウスの膝の上で朝食を食べる私は、彼に領地へ帰りたいことを伝えた。


「え? 領地へ? って……まさか家出……!? セ、セレン、キスマークつけたのまだ怒って──!?」


 いつも爽やかな顔を青くして、シリウスが私に顔を寄せる。

 近い!!

 近すぎる!!

 近すぎてまぶしすぎて目が焼ける!!


「ち、違いますっ!! 私、領地の孤児院に月に一度、本の読み聞かせに行っていたでしょう? 突然嫁いでしまったものだから、皆に何も伝えられていなくて……。他家に嫁いだのだから、もうピエラ伯爵領で読み聞かせなんてするべきではないことはわかってる。でも最後にもう一度だけ、皆に本を読んで、ちゃんとお別れしたいの」


 あそこはもう、実質領地の管理をしている兄夫婦のものだ。

 ピエラ伯爵家にいた頃ならだまだしも、カルバン公爵家に嫁いだ私が、いつまでも出しゃばってはお義姉様にも悪い。

 だけど、何も言わずにいなくなるのは……やっぱり嫌だ。


 孤児院の子ども達の中には、親に何も言われないまま、自身も気づかぬ間に捨てられた子も多い。

 私は……私は、そんなことはしたくない。

 彼らに二度も同じ思いをさせるなんて、できない。


 すがるようにシリウスを見上げれば、わずかに大きくした薄水色の瞳と視線が交わる。

 そしてそれは、すぐにふわりとやわらげられた。


「そうだね。いいよ。ピエラ伯爵領へ帰っても」

「!! ありが──」

「ただし!!」

「へ?」

「私も一緒に行く」

 爽やかな笑顔に私の笑顔がひきつる。


「……」

「……」

「……えぇぇぇぇええええ!?」


 どうだい? 良い案だろう? と言わんばかりの満面の笑みで返された私は、思わず声を上げた。


「丁度有給がたまっているから消化しろと言われていたんだ。私が必ずしなければならない仕事は済ませたし、一日や二日いなくても大丈夫だろう。副騎士団長如きが数日明けたところで壊れるような脆弱な国ならば、壊しておいた方が良い。そんな弱い国にセレンを住まわせたくないしね」


満面の笑みでさらりと出てきた真っ黒い言葉に顔が引きつる。

私一人のために一国を壊した方が良いだなんて……【寝言の強制力】恐るべし……。


「それに、ロージウス殿にも、きちんと結婚の挨拶がしたいしね」

「うっ……」


 突然の結婚だったからロージウスお兄様はたぶん父母伝手づてに聞いただけよね。

 いや、そもそも父母はお兄様に伝えているのかしら?


 10歳年の離れた兄は、爵位の譲渡はまだだけれど、すでに半分以上の領地経営を任されている次期伯爵だ。

 3年前に結婚したアンネお義姉様と二人、領地で仲良く暮らしている。


 アンネお義姉様もお兄様の婚約者時代から私のことをとっても可愛がってくれたし、私も二人のことが大好きだ。

 が……。


「シリウスが殺られる……」

「んー……。否定はできないよね」


 兄も義姉も私を溺愛していた。

 そんな溺愛された私が、婚約もすっ飛ばして、結婚式もなしに、しかも【寝言の強制力】のせいで結婚しただなんて知られたら……。

 ……考えるだけで震えが起きる。


「……まぁ、大丈夫だよ。ロージウス殿も話せばわかるはずだ。誠意をもって伝えたらいいんだよ。私が、いかにセレンのことが好きであるかを、ね」

 シリウスはそう言うと、そっと私の頬をひと撫でした。


「~~~~っ!?」

 甘い!!

 【寝言の強制力】、やっぱり恐るべし……!!


「さて、そうと決まれば……。セレン、朝食が終わったら一緒に来てくれるかい?」


「へ? 今日は騎士団のお仕事でしょう?」


「うん。騎士団に一緒に来てほしいんだ。騎士団長に休みをもらうのと、セレンの紹介をしたいからね。それに、魔法使いの件について、騎士団長にも協力を仰ごうと思って。もちろんセレンの秘密についても話すけど、あの人は顔に似合わず口が堅いから大丈夫だろう」


 そうか。

 突然の結婚で結婚式もしていない私は、シリウスの上司とも挨拶ができていない。

 騎士団長にぐらいはきちんと事情を説明しておかなくちゃいけないわよね。


「わかったわ。食べたらすぐに支度するわね。だからそろそろ降ろし──」

「嫌だ」

「……」


 結局私は、シリウスの膝に乗ったまま、今日も糖分過多で瀕死状態になりながら食事をすることになるのだった。



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