6.邸内に敵が出現した
侵略者ロシアは、東部ドンバス地方のロシア系住民の保護を謳っています。それなのに、南部にも攻め込んで占領し、人々を殺害し、武力下で悪質な住民投票をおこない、併合した気でいます。こんな愚かなテロ国家ロシアなど、信用をとっくに失っています。
侵略者ロシアは領土的野心はないとしながらも、ウクライナの四州を制圧するとも語っています。これは領土的野心以外の何でもありません。四州制圧を目指しているんですから。
「あの……べとべとさん、大丈夫ですか?」
「もう探索は終了したので……解除……べとー……」
そのままべとべとさんは床で横になってしまった。
「べとべとさんっ!」
ジーリエスはすぐにべとべとさんの横に座り込んだ。
「あっ、あっ、どうしましょう……。起こさないほうが良いのでしょうか?」
「……問題ない、お嬢様。うちは自力で立てる」
何事もなかったように、べとべとさんは上半身を起こす。その様子を見て安心したジーリエスは、彼女の着物の乱れを直すのを手伝った。
「向こうには、誰もいないように見える。けど、うちも含めて、姿を消せる妖怪はいくらでもいる」
立ち上がったべとべとさんは、部屋の角を睨んだ。鋭く指差すとともに、巨乳を揺らした。
「出て来い! 出て来ないなら、うちが強引に姿を出させてやるとさ!」
べとべとさんが大声で叫んだ後、ジーリエスは驚いた。部屋の角で子供が急に姿を現したからだ。
「……女の子?」
そうつぶやいたジーリエスにもあなたにも、『現れた存在』はそのようにしか見えなかった。
赤茶色い髪のおかっぱ頭の少女はとても小柄で、藤色……薄い紫色の着衣を身に着けている。上半身は着物のようだが、下半身部分はミニスカートのようになっていて丈が短い。両足は裸足だった。
ちなみに、べとべとさんも裸足で、ジーリエスは黒のロングソックス着用である。床が汚れるため、この伯爵邸では靴を履いたままでは上がらない。
「お嬢様。見た目にだまされてはいけない。うちと同じく妖怪であれば、見た目が幼いとしても、何十、何百年と生きている。……しかし、ついにこの日が来るとは。やはり、『小さな侵攻国』は卑劣で油断ならない」
「べとべとさん?」
「――正義の妖怪であれば、他人の家に勝手に侵入したりはしない! お前は『小さな侵攻国』の刺客だな! 妖怪の裏切り者め! 侵攻国のどこの部隊の者だ! 名乗れッ!」
「さあね?」
「くうぅぅ~ッ! 誇り高き妖怪であるうちを愚弄するとは、許せんべと~ッ!」
「許さないとするなら、どうするんだい? どこの部隊の者かは明かさないが、ボクは妖怪『小豆ばばあ』だ。以後よろしく頼むよ」
「えっ? 幼い女の子なのに、おばあさん? ボクと言っていますし、少年みたいな中性的な声なのに、喋りかたが落ち着いた男性みたいですし、一体どうなっているのやら……」
ジーリエスが混乱してしまっている。
小豆ばばあの見た目は、幸せを呼ぶ子供の姿をした妖怪『座敷わらし』に近い。髪の色こそ小豆色に見えるが、ばばあの要素は全く無い。
「妖怪小豆ばばあは、小豆の音を鳴らす恐ろしい妖怪。でも大丈夫。お嬢様には、うちがいる。心配無用」
「お手洗いに行く前にも、そんな妖怪さんの話をしていましたよね? 小豆の名がつく妖怪さんって、意外と多いんですか?」
「そんなの今はどうでもいい! 敵は排除すべき!」
べとべとさんは姿を消した。
「えっ、どこ行ったんですか、べとべとさんっ?」
いきなりいなくなったのでジーリエスは不安になっていたようだが、十秒ほどでべとべとさんは再出現した。
「お着換え完了。お待たせ、お嬢様」
べとべとさんは白い着物姿から、白い半袖と青いハーフパンツという、学生の体操着の姿になっていた。猫耳がなくなった代わりに、薄黄色の鉢巻きをしており、黒字で『必勝』と額の部分に書かれている。
「うちは妖怪べとべとさん! 妖怪であれば、うちと正々堂々と決闘をするべと! どうする! 応じるのか、悪い妖怪!」
「決闘か。ボクのほうは構わないよ」
「決定! 妖怪の誇りをかけて、敵を排除追放する!」
べとべとさんが両手をお尻側に回すと、お尻辺りから一メートルほどの白い棒が出て来た。
「またもや長いのが出た」
「やめて下さいっ!」
「これは大和棒という、妖怪が用いる決闘用の武器」
棒を握るべとべとさんの背後に、浮遊する手の平ぐらいの大きさの青い炎がたくさん出てきて、円状に並んだ。あなたへとさらに説明すると、鬼火とも呼ばれるその炎は全部で十四、浮いている。
「――領土的野心はないッ!」
べとべとさんは白い棒を剣のように構えて叫んだ。
敵の自称小豆ばばあも、小豆色をした似たような大和棒を構え、
「――領土的野心はないッ!」
「それ叫ばないといけないんですかっ?」
ジーリエスは疑問を叫んだ。
小豆ばばあの背後には、三つの小豆色の炎が浮かんでいる。
「見ろお嬢様! うちの鬼火は十四個に対し、侵略者の鬼火はたったの三つ! 勝機はうちにある! いざ成敗べととッ!」
べとべとさんは小豆ばばあへと突進した。
ロシアに領土的な野心がないなら、二年以上も戦争は続きませんよ。ロシアの大義だったはずのロシア系住民保護は、侵略主義のロシアには未だに完了出来ていません。
住民保護をするという目的を本当に実行する気があったのなら、二つの人民共和国の支配地域のみをまずは完全に掌握して、「ウクライナがロシア系住民の虐殺をやめないからいけないんだ」と主張し、占領を交渉材料に使うのが最善でした。
しかし実際には「ウクライナがロシア系住民の虐殺をやめないからいけないんだ」と言いながら、武力を使って他の地域まで攻め込んでいます。
おかしな国ですね、侵略者ロシアは。
チャレンジャー2戦車「ロシアは侵略をやめたほうがいい」