3.ついて来る妖怪の本領発揮!
2014年にウクライナとロシア、分離主義者が支配する二つの人民共和国によって、いわゆる『ミンスク合意』が調印されました。
これは分離主義者達の『二つの人民共和国の支配地域』に自治権を与えるものであって、ドンバス地方の全体が対象ではありません。
ルハンシク州、ドネツィク州のおよそ半分の『特定地域』に自治を与える合意なのに、ロシア側の擁護者達によると、何故か、二つの州全体に自治権を与えるみたいな内容に改変されています。
ミンスク合意って、要はドンバス地方を真っ二つにする合意なんですよね。
しかも、ドンバス地方はウクライナの支配地域と二つの人民共和国とで攻撃し合っていたのに、「ウクライナだけがドンバスを攻撃していた、ミンスク合意を破っていた」ってロシア側の擁護者達が何度も言っているのが、不思議でなりません。
今は午後六時過ぎ。
伯爵邸の長い廊下をジーリエスは歩いている。
本日は不思議なことに、両親も使用人達も出払っていて、彼女とべとべとさんしか、広い邸内にはいなかった。
そんな中、ジーリエスの背後から足音が聞こえて来るのが、あなたにも分かった。
不自然に思ったのか、彼女は足を止めた。背後の足音も止まる。
正体は分かっているのだろう。驚きもせずに、ジーリエスは振り向いた。
「……べとべとさん?」
誰もいない通路に向かって声を出すと、いきなり真後ろからべとべとさんに抱き着かれた。巨大な胸部が凹み、ジーリエスの背中には柔らかい感触が走っているに違いない。
「べとー」
「どーいうつもりですかべとべとさんっ! 離れて下さい!」
「べとー」
あっさりとべとべとさんは引き下がった。
ジーリエスは歩くのを再開する。べとべとさんは後をつけて来ているようだ。
べとべとさんはいつも、ジーリエスの横には並ばず、後ろを歩く。そういう習性だと、べとべとさんはジーリエスに説明している。
「べとべとさんもお手洗いですか?」
ジーリエスは後ろを振り向いて聞いた。
「うん。実はちょっとまずそう」
「それなら、べとべとさんが先に行きます?」
「……一緒に、しよ?」
「先にお行きッ!」
立ち止まったジーリエスは大声で怒鳴った。
侵略者ロシア側は「ウクライナが2014年のミンスク合意を破ったから悪い」と言いますが、この合意はウクライナと、東部ドンバス地方の分離独立派が自称する二つの人民共和国によって交わされたものです。そして、どちらの陣営もミンスク合意の議定書の内容を破っています。侵略者ロシア側は、「二つの人民共和国もミンスク合意を破ったから悪い」とは、決して言いません。
それと、合意を破ることは悪いとはっきり言えるのに、侵攻をすること自体が悪いとは言わないのです。こんな侵略国家ロシアのご都合主義に終止符を。
侵略者ロシアの未来なんかはどうでもいいですが、侵略や砲撃がなくなり、それらに怯えることなく家の廊下を歩ける未来がウクライナに訪れることを、願っています。