16.登校中、べとべとさんが隣にやって来る
ウクライナとロシア、どっちが先に戦争をやめるのかは、当然ロシアでしょう。侵略者ロシアが「領土的野心はない」と言い張るのであれば、なおさらウクライナ国内から撤退するのが自然だと思うんですよね。
州の全域でやってすらいないのに、「ウクライナ四州の住民投票で決まったから領土を編入するのは正しい」と主張するのは、おかしい。悪意しかないあの住民投票は、『茶番』と称するのが相応しいです。
特別臨時作戦の翌日、ジーリエス達はいつものように登校する。
青いブレザー制服を着た女子高生のジーリエスは、単独で歩いている……ように、周囲からは見えるだろう。しかし、べとべとさんが姿を消して、少し後ろで歩いている。
髪飾りのあなたにも、べとべとさんの足音はかすかに聞こえていた。
「おはようございます、ジーリエスさん」
声を掛けてくる女子生徒がいた。
「あっ、おはようございます。エストーナさん」
ジーリエスがあいさつを返した相手は、同級生の女子だった。彼女とは仲が良く、時折登校中に出会っては、一緒に通学している。
エストーナがジーリエスと並んだ時、二人の間を引き裂くようにべとべとさんが出現した。べとべとさんは、従者用の黒い制服を着ている。あいかわらず、胸部の大きさが目立つ。
「おはよう、お嬢様のご友人」
べとべとさんはひどく不機嫌そうな顔をエストーナに向けている。
「おはようございます、べとべとさん。私はもちろん、侵攻国の侵略には反対です」
「よし。それでいい」
べとべとさんは満足したようだ。
実はこのジーリエスの友人エストーナは、侵攻国から避難して来た女子だった。
出会った当初は侵攻国出身ということで、べとべとさんから非常に嫌われていたが、毎回侵攻に反対することを表明することで、どうにか今ぐらいの関係になった。
それでも、べとべとさんの警戒心はまだ強く、ジーリエスから一番近い隣の立ち位置は譲らない。ジーリエスの腕を抱き、巨大な胸部を圧しつけながらジーリエスを独占する。
「……私、エストーナさんと登校中に会うと、嬉しいんですよ。こんなふうに、べとべとさんが隣に来てくれますから」
嬉しそうにジーリエスは話した。
「うちは妖怪の習性から、常に背後をついてしまう。しかし、お嬢様のご友人は侵略反対とは言え、隣にいるのは許しがたい。だから、これは正しい行動。うちが習性を破っても、あの小さな侵攻国と違って頭から砲弾を撃ったりはしない」
「あの国、いつまで侵略を続けるんでしょうね……」
思い出したようにジーリエスが言った。
「あいつらが侵略を続ける限り、うちは絶対に許さないべと!」
「べとべとさんって、なんでそこまで侵攻国を恨んでいるんですか?」
ジーリエスがこれまで気になっていた点を聞いてみる。
「それは私も気になっていました」
エストーナもジーリエスに同調した。
あなたもそうだろうか。
「……あなた達のような若者は、国にとっては真珠のような宝物。あの小さな侵攻国は、全く意味不明な理由を並べて破壊をおこない、自国の若者達にさえも苦痛を与えている。連中の正しいと主張する馬鹿げた言葉は、うちら妖怪が考える美徳とは全くの真逆。一みりは、十分の一せんちが本来正しい。でも、侵攻国は一みりを十せんちと偽り、このおかしな数値に従わない人間を排除するような国。恨んでいるのではなく、本質的に嫌い。ただ、それだけ。……今日のあなた達が受ける授業よりも長い続きがあるのだけれど、聞く?」
「遠慮しておきます」
ジーリエスはきっぱりと断った。柔らかい胸部はまだ当たっている。
べとべとさんが喋っていた間も今も、黒い邪悪な気が放出されていた。表情も、凶悪な般若のような形相だ。ジーリエスが悪役令嬢と呼ばれている原因は、もしかしたら使い魔のべとべとさんにあるのかもしれない……。
「これは遠慮させない。お嬢様も復唱を要求。――侵略者に敗北を!」
近くで真剣な顔をしているのが、ジーリエスにも、あなたにも分かった。
「侵略者に敗北を」
ジーリエスは穏やかな声で復唱した。彼女も、侵略反対というべとべとさんの意志は常に支持している。
「侵略者に敗北を」
エストーナも続いた。彼女も侵攻国は嫌いらしい。
「ありがとう、お嬢様、ご友人」
べとべとさんから邪気が消え、満足した顔に変化した。
大きな胸部で主張していた彼女は、姿が見える。
(終わり)
この作品内では、侵略者ロシアの類似国は話に出るだけで、最後まで崩壊しませんでした。現実でも、ロシアは崩壊までしなくていいので、なんらかの理由で早くウクライナから去って欲しいですよね。侵略者ロシアは、日本にとっても、ウクライナにとっても、妖怪にとっても、ロシアにとっても、不要。
侵略者ロシアはウクライナに侵攻し、領土の奪い取りを様々な理由をつけて正当化し、さらにはそれを周りの人間達が擁護する。この三重の背徳の結果が、本作品の登場です。
侵略者ロシアの敗北を願いながら、あなたは本日の日常に戻って下さい。




