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10.Azuki-Hiroi ~妖怪小豆拾いのお仕事~

T-34戦車「ロシアの侵攻理由はおかしい」


非ナチ化とか非武装化とか言いながら、自分達が武力で侵攻しているという、おかしなテロリスト国家ロシア。大きな力を持っているからって武力でねじ伏せるというのは、犯罪者の見本にしかなりません。

 小豆ばばあを拘束したことで脅威はなくなったため、とりあえずジーリエスはリビング内の割れたお皿を処理することにした。ほうきとちりとりを持って来る。


 割れ物を片づけている時、べとべとさんが横で様子を見ていた。


「お皿、一枚足りなぁ~い……」


 自分の両手を、立ち上がった動物の前足のように垂らして、べとべとさんはゆっくりとうらめしそうに喋った。


「足りないじゃなくて、べとべとさんが投げて割っちゃったんですよ! なんで私が後始末をしなきゃいけないんですかッ!」


 吊り目のジーリエスが怒鳴ると、けっこう怖い。ともあれ、彼女は実に損な役回りである。


「うちは、落ちている小豆を回収する。残りはお嬢様に丸投げ」


 そう言われてジーリエスは気づき、床を見回した。


 リビング内では、確かにたくさんの小豆が散らばっている。戦闘中に小豆ばばあが落としたものだった。


「食べてみる」

「あっ、べとべとさん!」


 ジーリエスが止めようとする前に、べとべとさんが小豆を一粒拾い上げて口に入れた。


「なんと! これは国産の小豆! お嬢様、これ、洗えば食べられる!」

「いや今洗わずに食べてましたよねっ!」

「全て集めれば、満腹(まんぷく)になりそう」


 べとべとさんはハーフパンツのお尻側から透明のビニール袋を取り出した。


「今度は透明なのが出てくる」

「あれの透明なのを連想してしまうんですけど!」

「便のことを言うお嬢様は汚い。そしてあの侵攻国も汚い」

「汚いの意味が違います! そもそも私をあんな最低な侵略集団の国家と同列で語らないでほしいですッ!」

「べとっ! お嬢様があの侵攻国を罵倒した! 素敵! さすがはうちのお嬢様!」

「今日一番のいい顔してます!」


 まるで天にも昇るような、美少女度が倍は増した表情だった。


「たーおせたおせ、しんりゃくこくをすぐたおせー。ねこさんかしゃにのったひとつめこぞーうをー、おおにゅうどうがなげて、だいばーくはーつ。つちぐもさんに、いしねれぷさん、ぺんたちころおやしさーん。くずどもをー、どんどんしまつ、しーてくれるー」


 主人の言葉を大歓迎していたべとべとさんは、物騒な歌を景気良く歌いながら小豆を集めていた。


 ジーリエスはべとべとさんから目を離し、お皿の処理に注力した。ジーリエスは貴族だが、自ら掃除もする働き者だ。割れ物を片づけて、落ちていたクッションも元の位置に戻す。


 小豆もべとべとさんが全て拾い終えた。思っていたよりも部屋の被害は出ておらず、ジーリエスも安心したようだ。


 残る問題は、拘束した敵妖怪である。


「べとべとさん。この妖怪さん、どうしますか? 警察を呼べばいいんでしょうか?」


「いや、その前に拷問が必要。不法侵入者から情報を引き出す権利が、うちにはある」

「ちょっとべとべとさん! 拷問はダメですよっ!」

「侵略者に魂を売り渡した悪い妖怪など、本来は即刻処刑が正しい。でも、お嬢様がそう言うのなら、拷問する権利をお嬢様に譲ってもいい」

「拷問しませんって!」


「――そうだな、拷問はお勧めしないよ」


「んんっ?」


 べとべとさんが振り向くと、小豆ばばあは目を覚ましていた。


 しかも、簡単に縄を(ほど)いて、立ち上がった。


「どうやってうちのべとべと縄を()いたっ? そもそも、こんなに早くに目を覚ますとは! おかしいべと!」


「ボクの力でなら、造作もないことだよ。……大丈夫だ、そこまで警戒することはないさ。君達に危害を加えるつもりはないよ」


「本当ですか?」


 イジーリエスは言葉に希望を込めていた。


「お嬢様! 侵略者の言葉など、信用出来ないべっと! 聞いてはだめ!」


「落ち着いて下さい、べとべとさん。その妖怪さんは確かに(うち)に勝手に侵入していましたけど、本当に侵略者なのでしょうか?」


「賢明な判断だ。べとべとさんに従えば、君はますます分が悪くなるよ」


「……それはどういうことですか?」


 ジーリエスが小豆ばばあに尋ねると、和服風ミニスカート姿の彼女は、中が見えない程度に軽くスカートの裾をつかんで敬意を表した。


「改めて名乗らせてもらおうか。ボクは、妖怪小豆ばばあ。『NTR(エヌティーアール)妖怪管理機関YATO(ヤトー)支部』に所属するエージェントで、コードネームはABBA(エービービーエー)と言う」


 自称老婆(ろうば)が語る、NTR妖怪管理機関。この名が出た時、明らかにべとべとさんが青ざめてしまうのを、あなたは見た。


 同機関は、人里離れたところに住んでいない者を除けば、知らない妖怪はいない。妖怪を管理する、にぽぽ国の最上位組織である。


「――本日は、NTR取締法に違反した疑いのあるジーリエス嬢を尋問(じんもん)するために、ここへ来たのだよ」


 穏健派のジーリエスは窮地(きゅうち)に立たされた。

「ロシアはウクライナよりも強い。本気を出せば簡単にウクライナ全土を占領出来る。だがロシアは優しいから、そういうことをしない」


こんな主張がありますが、優しいから、じゃありません。武力侵攻が違反だからであり、実行したら国際的に国の信用を落とすからです。だからこそ侵略者ロシアは、理由があれば正当性もあると考えています。


ロシアのほうがウクライナよりも力が上だというのは、世界地図を見ればすぐに分かります。


ロシアがウクライナを侵略しているのも、世界地図を見ればすぐに分かります。


ウクライナの領土をロシアが力で奪うのを歓迎し、これは侵略じゃない、ウクライナにロシアが勝てるわけがないと言い張り、都合が悪い人間は全部ナオナチと呼ぶ。私はこういう人間達が本当に嫌いです。


侵略者ロシアがウクライナの領土を奪う以上のことをして、戦争が終わるのであれば、少なくとも私は、今後一切ロシアに好意を持つことはなくなります。また、国ではなく、地域と呼ぶことにします。

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