それよりね、
「え? カナ先輩、西中なんですか」
憧れの先輩が近所住みだったと知った時、真っ先に聞いてしまった。サラサラの髪を風になびかせ、ぷるんとした唇でパフェを彩る果実をついばんでから、ふふっ、と先輩は意味深に笑う。
「内緒ね? リコちゃんだから話したけど、わたし、高校デビュー組だから」
こんな綺麗な人が西中にいたなんて聞いたことないし、名前にも覚えがないんだけど。
通りすがる女の子たちは皆、先輩に目を止め、何人かは黄色い声を残して去っていく。
「母の再婚で苗字を変えたの。それよりね、……」
なんでもないことのように言ったあと、先輩は話を変えてしまう。
みにくいと蔑まれて育った過去を草地に置いて飛び立った白鳥みたいに。
第8回 毎月300字小説企画、お題は「鳥」でした。