特別編
これは後日談で二人の日常の三つを書いたものです。
第一話:セリニアの愛が込められたお夜食
パトリードが王太子となって半年が経った頃、国王が王位を王太子であるパトリードに譲ると公の場で発表した。
王位を譲る上で国王としての仕事を任され、日々国王のやる仕事に忙殺されている。そのせいでセリニアと食事する時間ができず、食事をしない時すらあるほどだ。
「セリニアに会いたい……」
一人で黙々と仕事を片付けて一段落つき休憩に入るパトリード。パトリードはテーブルに突っ伏した状態で言葉をこぼした。
すると入り口の扉からノックをした音が聞こえ、また仕事かと思いつつ起き上がる。
「入れ」
そう一言言うと扉が開く。扉の向こうにいたのはセリニアだった。セリニアはワゴンを押しながら部屋の中へと入っていく。
ワゴンの上にはクロッシュが被せてある料理が載っていた。
「パトリード、お夜食を持ってきましたよ」
「セリニア、ありがとう。丁度休憩しようと思っていたところだったんだ」
セリニアは休憩の時紅茶などを飲むために用意してあるテーブルに料理を並べる。並べ終わるとパトリードは椅子に座った。
「簡単な物ですけど……。美味しくなかったら無理に食べなくても大丈夫ですからね」
「この料理、全部セリニアが作ったのか?」
「はい、一応」
「そうか、そうなのか」
パトリードはこの料理がセリニアの手作りだと聞いて眼を輝かせる。対するセリニアはとても不安気でそわそわしていた。
そんな中パトリードはふとあることを思いついた。
「セリニア、食べさせてくれないかな。仕事のしすぎで疲れてしまったから」
「わ、かりました。えーっと、あーん」
パトリードが思いついたのはセリニアに食べさせてもらうということ。パトリードからしたらもっとセリニアから癒してもらいたいと提案したのだ。セリニアも最初は動揺したけれどパトリードが疲れている姿を見てやることにした。
セリニアがスプーンでスープを掬い、パトリードの口元に運ぼうとする。そうしたらパトリードから再びお願いをされた。
「スープ、熱そうだから、冷ましてくれないかな?」
「どうやって、ですか?」
「勿論、セリニアがふぅふぅと冷ましてくれればいいよ」
「うっ、分かりました。やりますよ」
セリニアはパトリードの言うがままに行動し、スプーンの中にあるスープをふぅふぅと優しく息をかけ覚ました。
そしてやっとパトリードに食べさせることができた。
「美味しいよ、セリニア」
「ありがとう……ございます」
セリニアは顔を真っ赤にしながらお礼を言った。そんな姿を見たパトリードはとても嬉しそうで元気を取り戻すことができたようだ。
だけど流石にこれ以上やればセリニアが逃げてしまうんじゃないかと思い、自分で食べることにしたようだった。
「ご馳走様。セリニアの料理、とても美味しいな。どこかで勉強でもしていたのか?」
「勉強と言う程ではありませんが、公爵家の料理長に教えてもらっていました」
「なんで?」
「いつか、その……好きな人に食べてもらう機会があればと思い……」
「じゃあ、それは叶ったってことだな」
「うぅ、はい、確かにそうです。それじゃっ、わたしは戻ります」
セリニアが何故こんなに料理が上手なのかの理由を知ったパトリードは意地悪を言う。それを認めるセリニアはとても可愛く、間接的に好きだと言ってくれたようなものだった。
そして恥ずかしくなったのか、セリニアは料理を片付けてあっという間に部屋から出ていった。
「可愛いな……。仕事、頑張るか」
パトリードはセリニアに会えて、セリニアの料理を食べれて、セリニアに料理を食べさせてもらって、とても満足した。そして仕事を再開した。
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第二話:セリニアの看病をするパトリード
「セリニア! 大丈夫か!」
セリニアの寝室にノックもせず慌てて入ってきたパトリード。パトリードは走ってきたからか息は切れており服装も乱れていた。
「大丈夫です。もう大分落ち着きましたから」
「そうか、それなら良かった」
パトリードが何故こんなに慌ててセリニアの元へ来たかというと、セリニアが風邪をひいてしまったからだ。それも自分が数日王城に帰れない状況であったため、王城に帰りそのことを伝えられると真っ先にセリニアの元へ来たわけだ。
セリニアは大聖女と呼ばれるくらい凄い力を持っているため、自分自身も風邪なのひくことは滅多にない。ただ弱点として大聖女が風邪をひくとそれはかなりタチの悪い風邪で、治るのにも数日を要するのだ。
パトリードはセリニアのベッドの傍にあった椅子に座りセリニアの額と自分の額を付けて熱があるかどうかを確認した。
「パトリード!?」
「熱はもうなさそうだな。だが顔は少し赤いな」
「これはパトリードのせいです!」
「ははっ、そうなのか」
パトリードの行動に慌てるセリニア。パトリードは熱がないことを確認しセリニアの顔を見ると赤かったのが気になった。その理由が自分だと言われたので思わず笑ったようだ。
「セリニア、何か必要な物とかあるか?」
「必要な物はないです。だけどそろそろ疲れたので眠ろうと思ってたから、手、握っててもらっていいですか?」
「そんなことならお安いご用だ」
セリニアはパトリードの手を握った状態で寝たいと思っていたので満足そうだった。そして徐々に眠くなり始め、ゆっくりと瞼が閉じ手を握る力も弱くなる。
「パト、リード……」
「ん? どうした……って、寝言か」
「……好き……」
セリニアは寝言でパトリードの名前を呼ぶ。思わず自分の名前を呼ばれて反応するパトリードだったがそれがすぐに寝言だということがわかった。
その瞬間、セリニアが好きと呟く。
それを聞いたパトリードはとても嬉しくなり、手を優しく握った。そして嬉しさのあまり額にだがキスをした。
「本当のキスはまた今度、だな」
セリニアの寝顔を見てセリニアの手を握ったままパトリードは仕事の疲れで一緒に眠ってしまった。
その時セリニアが見た夢は今までで一番幸せな夢だったという。
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第三話:セリニアからの贈り物
「国王陛下、大聖女様から贈り物が届いております」
「分かった。そこに置いておいてくれ」
執事がセリニアからの贈り物をパトリードに渡した。パトリードは執事を下がらせるとすぐさま贈り物の箱を開ける。
そこにはブランケットが入っていた。それと一緒に手紙も添えられていた。
「何故ブランケットなんだろうか」
そう疑問に思ったパトリードだが、まずはセリニアからの手紙を読むことにした。
『パトリードへ
パトリードは仕事を終わらせるとよくテーブルの上で眠るでしょ。
今の時期は寒いからと思ってブランケットを作ってみたの。
是非使ってほしいわ』
あまり多くは書かれていなかったけれど、パトリードはこのブランケットがセリニアの手作りだと知ってとても喜ぶ。
それに自分がそういうふうな生活を送っていることはバレていたのかとも思い考えを改めようと思った。
「それにしても嬉しすぎる」
「オレも何かお返ししたいな。もうそろそろセリニアの誕生日だからな。せっかくなら手作りの何かを贈りたい」
その日はブランケットは使わずにきちんとベッドで寝たパトリード。だけれど結局はベッドよりもブランケットを使う機会が多いという。
それにブランケットの方が良い夢を見れるから。
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これは二人の幸せな日常の一部分。
別に特別な日ではないけれど、相手を想って行動をする。
あのパーティーを切っ掛けに二人は想い想われる幸せな日々をこれからも送り続けるだろう。