後編
時は経ち、正式にセリニアとパトリードの結婚が決まった。
そして瞬く間に結婚式が行われることとなる。
「誓いの口付けを」
普通は神父が行うことを、聖女の結婚式ということで教皇が執り行った。
セリニアは顔を真っ赤にしながら、パトリードは頬を薄らと紅く染めながら、初めての口付けを行った。
口付けが終わるとセリニアは今にも倒れそうなくらい真っ赤な顔でとても恥ずかしそうにしている。
「それでは国王陛下より御言葉を宜しくお願いします」
「まずは聖女セリニア、第一王子……いや王太子パトリード、二人の結婚に心から喜びを申す」
国王はセリニアとパトリードにお祝いの言葉を述べると同時に、サプライズプレゼントと呼べるとても凄い発表をした。
国王がパトリードのことを第一王子から王太子と呼び方を変えたのである。それはつまり国王がパトリードが次代の国王と認めるということだ。
「待て!!!」
「待ってください!!!」
国王がそう言ったことで多くの人が喜び祝福している中、ある二人の人物が声を上げる。その声の主達を皆が見ると、やはりと思った人が大勢いた。
そう、声を上げたのは第二王子コーイアルとその婚約者である聖女アイナだった。
「父上、これはどういうことですか! 何故勝手に王太子を決めたのです!」
今は結婚式であることを忘れ国王の元へ行き直談判するコーイアル。その隣でコーイアルに同意し頷いているアイナ。そんな二人を見て国王は大きな溜息を吐いた。
「勝手ではない。この場にいる貴族もこの場にいない国民も全ての人が納得していることだ」
「そんな訳ありません! ボクにだって支持者が……」
そう言って後ろを見るコーイアル。コーイアルと眼を合わせる者は一人もいなかった。明らかに眼を逸らしている者は元第二王子派だった人達。そんな人達はもう既に第一王子派へと派閥を変えていた。
その人達が第二王子派だった理由はただ一つ。婚約者が聖女セリニアだったから。セリニアが婚約者でない今のコーイアルに付く者は誰一人としていない。
「これがコーイアル、お前の今の立場だ。何故余がお前の婚約者を聖女セリニアにしたか、分かるか?」
「分かりません! セリニアは何もできない無能な聖女なんですよ!」
「そもそも聖女に無能などいない。それにお前の怪我を治したのは間違いなく聖女セリニアだ。あの怪我を数年かけ治療し続け、後遺症もなく完治できたのは聖女セリニアの力であって、聖女アイナの力では決してない」
「なっ! ボクが間違ったことを言っているとでも言いたいのですか! 怪我人であるボクが言っていることが正しいですよね!」
国王はコーイアルに婚約者を何故セリニアにしたかを聞いた。その問いに馬鹿正直に知らないと答え、セリニアを馬鹿にする発言をするコーイアル。国王がその発言を全て否定するが、コーイアルはそれを決して認めない。
後ろでは今にもコーイアルを殺すんじゃないかくらいの殺気を出しているパトリードを必死で落ち着かせるセリニア。
「落ち着けコーイアル。勿論お前にもプレゼントを用意している。教皇、頼む」
「はい」
国王は少し嬉しそうにしながらプレゼントがあることを告げ、教皇に託した。そして教皇が国王の隣に来て一枚の紙を読み始める。
「今日付けで、アイナから聖女の称号を剥奪する。理由はアイナが聖女としての振る舞いができておらず、また聖女としての実力も欠けていると判断したためである」
「はあ!?」
それを聞いたアイナが大きな声を出す。そして慌てて教皇の元へ行く。教皇はアイナのことを無視して、紙の内容の続きを読み始めた。
「そして聖女セリニアに大聖女の称号を与える」
そう言うと式場に来ていた貴族達が驚きと喜びの声を出す。そんな中、国王と教皇の前で崩れ落ちていた二人がいた。
そうして盛り上がりを見せている途中にセリニアとパトリードは二人で手を繋いだ状態で式場から出ていった。
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「大丈夫か? セリニア様」
「様付けはやめてください。パトリード様はわたしの……旦那様なんですから……」
セリニアはパトリードが自分の名前を呼ぶ時に付ける様をやめてと言って、その理由を照れながら言った。
そんな姿を見たパトリードは思わずセリニアのことを抱き締める。抱き締められたセリニアは少し動揺し慌てたものの、パトリードの温かさに包まれセリニアもパトリードを抱き締めた。
「やっぱり可愛いな、セリニアは」
「そうですか、嬉しいです。パトリード様も格好いいです。それに……」
パトリードに可愛いと言われたセリニアは、やはり恥ずかしがってはいるがやめてとは言わない。それどころか嬉しいと素直に受け止めた。その上、パトリードのことを格好いいとまで言う。
「わたしはパトリードのことを愛していますから」
「オレもだよ。オレもセリニアのことを心の底から、心の全てから愛している」
「はい。わたしもですよ、パトリード」
セリニアはパトリードに愛していると伝え、パトリードもセリニアに同じ想いを伝える。想いを再び伝えられたセリニアはパトリードのことを呼び捨てにした。
二人はとても笑顔で喜びを噛み締めていた。そして再び二人っきりの場所で、優しく温かくお互いを抱き締めた。
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また時が経ち、セリニアは大聖女として様々な奉仕活動をし、王太子となったパトリードはやがて国王となり国をより豊かに国民がより幸せになる政策を施行していた。
そして国民からある物語が出来上がり、有名となり、誰もが知る二人となった。
大聖女セリニアがまだ聖女だった頃、国王がまだ第一王子だった頃、二人は想いを伝え合い、悪を打ち、幸せを掴む。
ありきたりとも思えるストーリーだが、国民は誰もがその物語通りの大聖女と国王だと感じることが多い。
二人は国民を幸せにするために全力を尽くし、お互いを幸せにするために尽くし合う。
大聖女と国王が国民の前で一緒にいる時は絶対二人手を繋ぎ、優しい表情をしている。それだけで愛が伝わる。
物語以上に仲の良い夫婦だというのが誰もが知っている二人であった。
けれど物語に描かれないことが一つだけある。
それは大聖女と国王が打った悪はどうなったのか。それを知る人は数少なく、興味を持つ人は誰一人としていない。
誰かが言った。「大聖女様と国王陛下を結んだ存在は、その悪なんじゃないか」と。
「パトリード、愛してますよ」
「オレも、セリニアを愛している」
「ふふっ、一緒ですね」
「ははっ、そうだな。一緒だ」
こうして二人は結ばれ、幸せを掴み、幸せを分け与える。
そんなただ一つの幸せな二人の物語。