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前編

「聖女セリニア、お前はボクの怪我も癒せぬ偽物だ! ボクの怪我を治したのは聖女アイナである。よってボクはセリニアとの婚約を破棄し、聖女アイナと結婚する」


 第二王子コーイアルが聖女セリニアを前に呼んだ時、遂に結婚の日が決まったのだと誰もがそう思った。けれどコーイアルの発言は誰も予想していなかったこと。その発言で周囲が響めく。

 コーイアルの治らないと言われた怪我が完治したお祝いのパーティー。そこでコーイアルは怪我を治したのはセリニアではなくもう一人の聖女であるアイナということを宣言。そしてセリニアとの婚約を破棄し、アイナとは婚約を飛ばして結婚すると言った。


 聖女セリニアと言えば、誰にでも平等に接しどんな人の病も怪我も治す。まさに聖女という称号に相応しい人物。

 対する聖女アイナは自分にとってメリットのある人しか癒すことはせず、実力もセリニアには劣る。一部では金で聖女の称号を買い取ったのではないかとさえ言われているくらいだ。そのくらい聖女に相応しくない人物である。


 それは誰もが知っている事実なのに、一生完治しないと言われた怪我を負い数年間療養を続けていたコーイアルは知らないのだろう。

 コーイアルが王位継承権を未だに持っていられたのは、聖女セリニアが婚約者だったから。それだけが理由である。セリニアが婚約者であることから支持者も多数いた。

 そのセリニアが婚約者ではなくなった今、コーイアルを支持する者は大幅に少なくなっただろう。それに追い討ちを掛けるように、妻になるのがアイナということで余計に支持者が減ってしまう。


「それは本気なのでしょうか、第二王子殿下」

「本気だ。ボクを救ってくれたアイナをボクは愛し、アイナもボクのことを愛してくれている。なあ、アイナ」

「はいっ! 私はコーイアル様を愛してますから」

「そうですか。了解しました。婚約破棄を受け入れます」


(わたしには名前すら呼ばせてくれませんでしたのに、アイナ様には呼ばせてあげるのですね……)


 噂は流れていた。セリニアとコーイアルが不仲だということ。コーイアルの部屋に度々アイナが通い、そこではとても仲睦まじく話していたこと。

 その噂が本当だったということが証明された。


 セリニアはコーイアルとアイナの仲を見て、もう自分は必要ないのだと感じ大人しく身を引いた。

 そしてセリニアは女性がする礼をして、パーティー会場から出ようとする。そこで立ち上がりセリニアの前に来た人がいた。


「第一王子殿下……?」

「コーイアル、聖女セリニア様との婚約を破棄するというのは本当なのだな」

「兄上、本当です。ボクは何もしてくれないセリニアより、癒し愛してくれるアイナを選ぶことにしました」

「そうか。ならばオレは聖女セリニア様と結婚する!」


(……!? どういうこと……?)


 セリニアの前に来たのは完治祝いで来ていたこの国の第一王子パトリード。パトリードはコーイアルにセリニアと本当に婚約破棄をするのかを問う。勿論コーイアルは本当だと答え、それを聞いたパトリードはセリニアと結婚すると宣言した。

 それを聞いたセリニアは混乱し、助けを求めるため宰相である父とその隣にいる国王を見た。二人はニヤニヤとしていた。その二人の姿を見て一つの結論に辿り着くセリニア。


 国王とセリニアの父はコーイアルが婚約破棄することを事前に知っており、そしてパトリードにセリニアと結婚するよう仕向けたのだ。

 見事に上手くいったからか、二人はとても嬉しそうだった。


「はっ、兄上も物好きですね。そんな使い物にならない聖女を欲しがるなんて」

「何とでも言え。聖女セリニア様、少し失礼致します」


 コーイアルは兄であるパトリードとセリニアを侮辱する。そう言われたパトリードはそんな言葉はどうでもいい感じで軽く遇らう。そしてセリニアに一言言うと、セリニアを抱き上げスタスタと早足でパーティー会場から去っていった。


「第一王子殿下、下ろしてください。わたしは重いですから」

「重くない。寧ろ軽すぎて不安になるくらいだ」


 セリニアは抱き上げられている状況の恥ずかしさで理由を付けて降ろしてもらおうとするが、パトリードはそんなことは気にせず早歩きでどこかへ向かった。

 歩くのが早くこんな姿勢になったこともないセリニアは落ちないか怖くなり、相手が第一王子だということを忘れてパトリードに抱きついた。パトリードはそうされて頬を少し紅く染めるが、セリニアは怖いがあまりに顔を見る余裕がなかった。

 そうしているうちにパトリードが歩くスピードを落とし、ある部屋へ入ってセリニアを降ろしてあげた。


「ここは、どこでしょうか?」

「オレの執務室だ」

「第一王子殿下の執務室……? えっ、わたしがそんな大事な部屋に入ってもよろしいんですか?」


 執務室と言えば重要な書類などが置かれおり、そんなに簡単に入っていい部屋ではない。それにセリニアはコーイアルの婚約者であった時も、コーイアルの執務室に入らせてもらったことは一度もない。

 だから婚約者であっても執務室には入れないのだと思っていた。


「別に構わない。セリニア様はオレの妻となる女性だからな」

「妻……!? へっ、あれは冗談か何かだったんじゃ……」

「そんな訳ない。オレは本気でセリニア様と結婚する気だ」


 婚約者だから入れないということよりも、妻となることが事実だということに驚きを隠せないセリニア。

 セリニアはパトリードが自分を助けるために言った嘘なのかと思っていたから、それは事実だと知ってパトリードが本気だと知って、顔を真っ赤にする。


「顔を真っ赤にして、とても可愛いぞ」

「えっ……!?」


 顔を真っ赤にしていたセリニアを見てパトリードは思ったことを素直にセリニアに伝えた。可愛いと言われたセリニアは先程よりも顔が赤くなり耳まで真っ赤だ。そんな顔を見られたくないがあまり、顔を手で覆うセリニア。


「もっと可愛い顔を見せてくれないか?」

「だっ、だめです。恥ずかしいですから」

「恥ずかしがっている姿も可愛いな」

「あまり可愛い可愛い言わないでください。言われ慣れていませんので」


 セリニアは少し落ち着き覆っていた顔を見せる。そして可愛いと言わないでほしいと頼んだ。するとパトリードがセリニアを自分の胸の中に入らせてぎゅーっと抱き締めた。


「!?!?!?」


 セリニアは状況が理解できずにいる。ただこの温かさに包まれていたいと思い、離れようとはしなかった。いやできなかった。


「分かった。可愛いとは言わない。だから一緒にいてくれ。オレが必ずセリニアを幸せにする。愛していくから」


 パトリードはゆっくりと優しく言葉を紡ぐ。その言葉はセリニアが欲しいと思っていた言葉達。

 それを聞いたセリニアは涙を流してパトリードを抱き締めた。そんなセリニアの頭を優しく撫でる。


 セリニアはこんな温かさを知らない。家族からはいっぱいの愛情を注いでもらえている。だけど婚約者であり怪我を治すまで一生懸命治療したコーイアルには一度もそんなことを言われたことがない。

 それどころかコーイアルはアイナに愛情を注いでいき、挙げ句の果てに婚約破棄という裏切りを受けた。それも自分のしていたことを否定されて。


「愛して、くれるん、ですか?」

「当たり前だろ。そもそもセリニア様の婚約者の座をオレとコーイアルで争い合っていたんだから」

「わたしを……?」

「ああ、セリニアを」


 セリニアはまだ少し涙が残っている顔を上げてパトリードの顔を見る。パトリードは少し恥ずかしそうにしつつも、セリニアの顔を見て優しく笑ってくれた。

 愛してくれるのか、そうセリニアが問うとパトリードは即答で愛するという意味を込めて当たり前と答えた。そして衝撃の事実を口にするパトリード。それを聞いて驚くセリニアは自分をか確認し、パトリードは認めた。


 セリニアは物心付いた頃から聖女らしい性格をしており、公爵令嬢だということもあり王子達とも頻繁に関わっていた。その効果で王子達二人の婚約者候補として名が挙げられた。そして聖女として認められたことにより二人の王子がセリニアを取り合うこととなった。

 パトリードはセリニアの地位など関係無しに慕っていたが、コーイアルの派閥は地位や名誉目的で婚約者にしたいと思った。そうして様々なことがありセリニアはコーイアルの婚約者となったのだ。

 ただその婚約を望んだのは派閥の人間だけで、コーイアル自身は全く望んでいなかった。


 セリニアは第二王子の婚約者として相応しくなるため努力し益々聖女として名を揚げる。対するコーイアルはセリニアに全てが劣り多くの人から聖女セリニアに相応しくないと言われ続けた。

 そんな中コーイアルは一生治ることのない、もしくは治っても後遺症が残ると言われるほどの怪我を負った。

 心身ともに疲弊しきったコーイアルに近づいたのがもう一人の聖女アイナだ。アイナにどんどん依存していき、最終的にコーイアルにとって最大の後ろ盾と言っても過言ではないセリニアを捨てたのだ。


「オレは幼き頃、まだ聖女になる前のセリニア様に病気を治してもらったことがある。覚えているか?」

「はい。でもあれはただの熱で、そんな凄いことではないですよ」

「ああ、そうだな。あれはまだ熱だけしか症状が出ていなかった。けれどあのまま熱が続いていれば死ぬことすらあった病気だと、オレはあとで知ったんだ」


 セリニアは聖女となる前から、訓練として軽い怪我や病気の治療をしてきた。偶々パトリードが熱で苦しんでいるのを知って治してあげた。それが重病になる前に。

 それを知ったセリニアは驚く。


「後遺症も残らず今も普通に暮らすことができているのはセリニア、君のおかげだ」

「そうなんですね。良かったです」

「その時、いいや、その前からセリニア様のことを愛しています」


 パトリードはいつもはセリニアのことを様付けで呼ぶが、感情が昂るとセリニアと呼び捨てで呼ぶ。

 セリニアは普通に暮らせていると聞いて安心した。

 するとパトリードが抱きしめていたセリニアを離し、立ち膝の姿勢となる。そして愛していることを改めて伝え、セリニアの手に優しいキスをした。


「オレと結婚してくれますか?」


 下からセリニアのことを見て真剣な眼差しを向ける。そんな眼を見たセリニアは我慢しながらも結局はぽつりと一粒の涙が落ち、続けるように涙が溢れ落ち始める。

 そしてセリニアは泣きながらもとても嬉しいことが伝わってくる笑顔を見せて応えた。


「はい」

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