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JCが量子力学の基礎知識を使って両親の溝を埋めてみた件

作者: rara33

『第4回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』応募作品です。キーワードは「量子力学」です。文字数の合計995文字です。どうぞよろしくお願い申し上げます。

「ママ~! カレーの底が固まってるよ、もう!」

 仕事から帰って来たパパは、ママに風呂上りの服が出ていないとかたくさん文句を言った挙句、夕飯のカレーをスプーンですくった途端にネチネチと嫌味を言い始めた。


「ルウに入ってる小麦粉のデンプンは、加熱されると固まっちゃうんだ。糊化(こか)と言って、粒子の粘度が上昇して不溶性状態になるの、分かる?」

「今日はパートが長引いてバタバタしてて」

「僕は仕事も家事分担もちゃんとやってるよ? てゆうか、質問の意味分かってる? まあママは文系だし、粒子とか言っても分かんないか。量子力学の基礎も知らないもんね」

「……ごめんなさい」

 いつだってママは何を言われてもパパに逆らわない。


 でも本当は私、知ってるんだ。ママがどれだけ腹に据えかねているか。

 洋服箪笥の奥に、離婚届の用紙が入っていることも。


「パパ、私しってるよ。運動の第2法則でしょ」

 中学2年生の私は学校ではまだ習っていなかったけど、実はネット動画で勉強済だ。

「おお、さすが華はパパの娘だな!」

「えへへ」

 顔も性格もパパに似なくてホントに良かった。

 私は作り笑顔でメモ用紙にペンを走らせた。


【 F=ma 力の大きさ=重さ×加速度 】


「ねえパパ、夫婦の関係にもこの法則式が当てはまると思わない?」

「どういうこと?」

「ママはカレーをしっかり混ぜるつもりだったんだよ。でも料理以外にも家事はいっぱいあるし、パパがいろいろ頼んできたりしたら、ママの抱える質量が重くなって素早く動きづらくなっちゃうの。いくら加速度を上げようと頑張ってもね。それで力が足りないって言われたら、ママが可哀そうだと思わない?」


 パパは胸を突かれたように黙った。

 私も少し言い過ぎたかと思って口を閉じた。


 気まずい雰囲気を破ったのは、ママの一言だった。

「あ! このFって、ファザーのFにもなるわよ!」


「「え?」」

 父娘で声が揃った。


 ママは続けて言った。

「それにmaは、ママのmaよ! ということは、パパとママが同じ力で支え合えるようにお互いを推し量ることが、夫婦の量子力学の基礎になるんじゃない?」


 一瞬の間のあと、パパと私は同時に拍手喝采を送った。


「すっごーい! 世紀の大発見だ!」

「さっすがママ! パパも思いつかなかったよ」

「どや!」

 得意げにVサインをするママは、なんだか可愛い。

 心から嬉しそうに笑う顔が久しぶりに見れて、じぃんとなった。


 量子力学にありがとうって、初めて言いたくなった。

最後までお読みくださり、誠にありがとうございました。

皆様にとって素敵な新年になりますように。


※「運動の第2法則」では、同じ力(F)でも、重さ(m)に反比例して加速度(a)は上昇します。よって、より速く動くためにはより軽くなる必要があります。両手に荷物を多く抱えていると両腕が振れないので速く走れない、そんな感覚と似ている気がします。説明下手ですみませんが、補足とさせていただきます。

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