1-1:卒業式
初投稿です。週1、週末更新を目標に更新していきます。
人類の住む世界とは別の空間に存在する異世界『天使界』。
そこでは見た目は人間とそっくりの、背中に大きな白い翼を持つ生き物『天使』が住んでいる。
その天使たちの中でも、他人の恋の成就を司る存在は、『恋の天使』と呼ばれている。
天使界随一の、恋の天使の養成機関『天立キューピッドアカデミー』。
今日この日、この学校では卒業式が行われていた。
巨大なホールに卒業生である新米天使たちが集まっており、その最奥にある壇上には、校長である白髭の天使がいる。
「諸君、卒業おめでとう」
校長が卒業生に向かって話し始めた。
「諸君らにはこれから、人間たちの住む世界……人間界に行き、人間の恋を手助けしてもらう」
そう言って、校長が指を弾く。すると、壇上のスクリーンに、人間界の様子が映し出された。
「諸君も知っての通り、こことは別の世界……人間たちが暮らす世界から流れ込んでくる恋のエネルギーは、天使界の重要なエネルギー源である。それを集める諸君らは、まさにこの世界の英雄だ。若き英雄の活躍に、大いに期待しているぞ」
校長の言葉に、卒業生たちの表情が引き締まる。
「やってやるぞ!」「俺が天使界を救うんだ!」「そっこーで恋させてエリートコースだぜ!」と、意気込みは様々だが、誰もがやる気に満ちていた。
ただ1人を除いて。
「くっそ眠ぅ……」
椅子に腰かけ、天使界の雑誌を読みふける天使がいた。
燃えるような赤い長髪に、ルビーのように紅い瞳。
大人びた女性というより、まだ幼さの残る顔立ち。
その表情は、校長の話にも、同朋の熱意にもまるで関心のない、とても退屈そうな様子であった。
「こんな話、入学してから毎日聞いてるっつの」
「おいレビア! 校長先生の話は真面目に聞け!」
遠くに立っていた主任教師から怒声が飛んだ。レビアと呼ばれた天使は慌てて雑誌を背中の後ろに隠す。
「やだなぁ、教官! 私は真面目も真面目ですよ!」
「ったく。お前というやつは、これから恋の天使になる自覚があるのか?」
「ありますとも! あはは!」
レビアは大げさに笑うと姿勢を正した。
「不安だ……」
「お疲れ様です」
ため息を吐く主任教師に、隣の温厚そうな顔の教師が苦笑する。
「あの子でしたっけ? 噂の学年1位って」
「ええ……1位は1位でも、ワースト1位ですけどね。成績最下位の問題児」
目の前で居眠りを始めた赤髪の天使を見て、主任教師は再びため息を吐いた。
「あいつ、あんなんでやっていけるのか……?」
「全員! 位置に着け!」
卒業式後、校庭に集められた生徒たちに、主任教師の号令が飛んだ。
「お前たちにはこれから人間界に行ってもらう。これまで訓練してきた通り、お前たちは人間界の、恋に悩む人間の気配を感知できるはずだ。全員、恋する人間の気配を探れ!」
主任教師の掛け声に対し、全員が一斉に目を閉じ、精神統一を始めた。
「どこだぁー! 恋する人間どこだぁー!」
「サポートさせろぉー!」
「できれば簡単に恋が成就するようなイケメンでてこぉーい!」
各々が思い思いに言葉を叫ぶが、中々人間を探知できる天使は現れない。
ただ1人を除いて。
「きたきたきたぁー! 待ってなさいよ、人間界!」
レビアだった。
右手を大きく上げて円を描くと、人間界へのゲートを開く。
大きな翼を広げ、レビアは一瞬で人間界へと飛びだった。
「は、早い!?」
「もう恋する人間を見つけた……だと!?」
「くそっ! 両片思いの人間どこだぁー!」
「やれやれ……」
一瞬でいなくなってしまった問題児の居た場所を見つめ、主任教師は今日一番のため息を吐いた。
「実技だけなら、本当に1位なんだけどなぁ……」