表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風来坊  作者: 法蓮


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/23

 雲は私達を乗せながら、ゆっくりと動く。今日は動く日か、と思い出して、雲に声をかける。いつもはだんまりな雲も、動く日には話す事が出来る。いつもは風来坊と私の話を聞いてばかりの雲。自分から話しかけてくる事はなかったけど、なら私から友達になれたらいいなと思い、声をかける。


 「雲、起きてる?」

 「……君が話しかけてくれるなんて、驚いたよ」

 「ふふっ、そう?」

 「ああ、私から話しかけてみようと思ったが、苦手でね」

 「話しかけない方がよかった?」

 「いいや、むしろ大歓迎さ」


 話すのが苦手と言っていたけど、どちらかと言うと話しやすいタイプだった。気さくな感じでいい感じ。私は地上を見回りにいった風来坊の姿を確認して、風神、雷神の事を聞いてみる事にした。本当は聞かない方がいいのだけれど、一晩中考えて、やはり、知りたいと思ったからだ。


 「聞きたい事があるの」

 「何だい? お嬢さん」

 「風神、雷神はどんな人なの?」

 

 うーむ、と悩む素振りを見せる雲、私の下でいそいそと動く彼は続けてこう言った。


 「彼らの事なら、君がいつもいる風来坊に聞いた方が早いよ?」

 「そうなの?」

 「ああ、私達より詳しいからね、なんたって彼は……」

 「彼は?」


 その時だった、私達の会話を邪魔するように、風が吹く。雲はおやおやと苦笑しながら告げた。


 「私からは話せないな、風神に怒られたよ」

 「え、今のって」

 「君の思っているままさ」


 そう告げると、雲は再び眠りにつく。風神を怒らしてしまったのだろうか。少し様子がおかしかった。それも風神、雷神、と風来坊はどういう関係なの? 一番知っているってどういう事なのだろうか。色々、聞きたい事が増えてしまった私は、雲の上で地上を偵察している風来坊に視線を注いだ。私の視線が痛かったのか、風来坊はすぐに気づき、ぴょんと傍に来る。


 「やあやあ、どうしたんだい?」

 「雲と話してたの」


 ここで嘘を吐いても仕方ないと本当の事を言った。風神、雷神の話は避けて。もし怒っているとしたら、風来坊まで嫌な思いをするかもしれないからだ。だから、疑問は疑問のままで楽しむ事にする。何度か、迷ったが、さっきので目が覚めた。


 「雲が話すなんて、明日は雨かな」

 「どうして?」

 「雲が話すとね、雨が降るんだよ。雷神がそうしてる」

 「雷神って雷だけ操るんじゃないの?」

 「違うよ、雨も操る」


 私のせいだ、雨は生きている人間にとって大切な自然現象だが、私が話しかけた事によって、そうなるのはなんだかやるせなかった。沈んだ顔をしていると、風来坊は私の両頬を抓ると笑った。


 「面白い顔」

 「もう、風来坊ってば」

 「大丈夫だよ、基本雲は話しかけても返さない。どちらにしろ明日は雨になる予定なんだよ」

 「本当に?」

 「うん、だって先に僕が雲と話したからね」


 驚愕の真実を告げられると、私が悩んだ時間を返してほしいと思いながら、今度は風来坊の両頬を抓った。


 「変な顔だね」

 「君ってばおてんばだね」


 風来坊からしていて、それはないでしょ、と言いたくなったけど、お互い様かなと思い、言うのをやめた。不安だったのに、いつの間にか風来坊のペースに乗せられている事に気づきながらも、流される事にした。それもそれで、楽しいと思ったからだ。


 余計な事を考えるのはやめよう。多分だけど私が風神、雷神の事に興味を抱いているのにも気づいているだろう。だからこそ、風来坊が言いたくなったらその時に聞くスタイルでいこう。私と風来坊は笑いあいながら、空を見つめた。心の中で風神に「ごめんなさい」と呟くと、それに答えるように風が吹いた。優しくて、暖かい風。なんとなくだけど、風神も悪い人じゃない気がしてくる。会った事も話した事もないけれど、風がそう教えてくれたから。


 明日は雨、私がここに来てから初めての雨の日。それはそれでわくわくしてしまったのは内緒だ。雨は汚い感情を洗い流してくれる。私の過去も、傷跡も、心の中にあった悲しみも、全て吸い取って、地上へと降り注ぐのだ。地上に落ちていけば行くほど、浄化されたようになって無になる。そして恵になるのだから。


 

 色々な事を考えていると、いつの間にか夕日が出てくる。淡いオレンジ色に包まれながら、私達は色々語り合った。なんの変化もない雑談だけど、それを楽しそうに見ている夕日。


 「明日は雨だね」

 「夕日も知っていたの?」

 「匂いで分かるさ、雲は気まぐれだからね」

 「私は匂いで分からないなぁ」


 ははっ、と笑うと夕日はそりゃそうだよ、と言う。太陽と夕日と月は自然の変化に敏感で、自分の役割の為に動いているから分かるのは仕方ない事だってさ。自然の作りとかよく分からないんだけど、夕日がそう言うのだから、そうなのだろう。


 「今日は月は出てこないかもね、雲が邪魔して」

 「え」

 「寂しいかもしれないけれど、雲にきちんと聞くんだよ?」


 何を聞けばいいの、と答えようとすると、風来坊は分かっているよ、と話を片付けた。まるで私が会話に入れないようにされたのは勘違いだろうか。なんだか、少し風来坊が遠く感じた瞬間だった。いつもの私なら、どういう事、と聞いたのかもしれない。でも雲の話をしてから風来坊の様子が少し変だ。なんだかピリピリしている気がする。私の前では笑顔でゆるやかなんだけど、少し離れると違う人みたいに見える。そこまで観察しているって事は、ずっと風来坊を見ているって事で、なんだか恥ずかしい。まるで恋をしているみたいじゃないかと思ったりして。


 そう考えてしまうと意識してしまうのは必然で、みるみるうちに顔が熱くなってくる。傍から見ると真っ赤になっているかもしれない。私はどこまで風来坊の理解者になれるのかな。自信はないけど、自分の出来る限り、彼の傍にいたいと思う。


 「雨はいつ降るの?」

 

 夕日にそう聞くと、困ったように、今日の夜からだ、と言われた。ああ、だから月とは会えないのか、あの温もりに包まれて寝るのが好きなのに……でも、殆ど話す事のない雲と接触出来るのは嬉しい。いい機会だ。


 「もうすぐ夜が来る、私はそろそろ眠るよ」

 「うん、おやすみなさい、夕日」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ