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風来坊  作者: 空蝉ゆあん
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風がかわりに運んでくれる想い

 「寝なさい、その時が来たらその時に考えればいい、今不安がる事はないさ。私達も風来坊も君を見守っているのだから」

 「ありがとう」


 この会話は風来坊には内緒だ。寝ているのを確認していたから、聞かれてる可能性は低いと思う。純粋な風来坊が狸寝入りをするとか、考えられない。その言葉に出来ない不安を少しずつ、笑顔に変えてくれた皆に、風来坊に、今は感謝してる。


 「どうしたんだい? 考え事かい?」

 

 太陽は私の異変に気付いたように、優しく告げる。私はハッと我に返り、どう説明したらいいのか分からずにアタフタとしてしまった。余計に不自然に思われたかもしれないけれど、明るい太陽は、ははっ、と笑い穏やかな笑顔を向ける。風来坊には絶対向けない笑顔を。その姿を見ていると、急にお父さんの事を思い出した。なんだか太陽ってお父さんみたい、月がお母さんで、夕日がお兄さん、そして風来坊は弟かな。


 「君には笑顔の方が似合うけど、無理しなくていい。私達がいるのだから安心してほしい」


 太陽はそう告げると、月とは少し違う暖かさで、心も体もあっためてくれる。この笑顔があれば、皆がいれば北風もへっちゃらになりそう。寒いのは苦手だけど、魂だけになった私は感じなくなっていた、なっていたはずなのに、温もりを感じる。


 きっと心の温もりかもしれない、そう思うとなんだか嬉しくなった。こんな時、もし一人だったらここまで前向きになれなかっただろう。そう考えると、本当、一人じゃなくてよかったと思った。感謝なんて言葉で片付けれない思いを胸に抱いて、地上が見える、いつもの場所へと歩いていく。


 「あそこは眺めがいい、楽しんでおいで」

 「ありがとう太陽」

 「私はいつでも、君を見守っているからね」

 「うん」


 太陽の言葉に背中を押されて、私は風来坊の元へと駆ける。風来坊は空気を読んだのか、私と太陽が話をしている間に向かっていた。天然なのか、しっかりしているのか分からない、不思議な人。ちょっと待てよ、人って呼んでいいのかな? 


 「はぁはぁ……風来坊置いていかないでよ」

 「やあやあ、来たんだね」

 「うん」


 話を聞いていないみたい。雲から足をぶら下げて、地上を見ている風来坊がなんだか可愛い。私は近くによっていき、何を見ているの? と聞いた。


 「ほら、あの人」


 風来坊は指を指すと、そこには貴方がいた。久しぶりの貴方を見て、胸がときめく。私は届く事のない手を伸ばし、名前を呼んだ。しかし貴方は私の存在に気づかない。気づく訳ないよね、私は死んでしまったのだから。仕方ない事なのかもしれないけど、悲しくて仕方なかった。潤んだ瞳で貴方を見ていると、私のいた場所に他の女性がいる。微笑んで、何かを話しているようだ。


 笑顔を見たい、楽しそうな貴方を見たい、それが最後の願いだったはずなのに、今では違う。そこに私がいたら、笑顔を向けている人物が私だったら、と欲深くなっている自分がいる。そんな自分が、醜くて、浅ましくて、妬ましい。こんな感情を知る為に願った訳じゃないのに、心の中はモヤが広がっていき、呼吸が止まりそうだった。


 ああ、そうだ。私はもう人じゃない。呼吸が止まる事もないんだと現実を知ると余計、心が軋んだ。そんな私の心の痛みに気づいたように、風来坊が手を握る、私の手を強く、そして優しく。俯いていた顔を見上げると、太陽の光に照らされて、輝いている風来坊がいた。


 「大丈夫だよ、君には僕達がいる」


 そう言って、あいているもう片手で、背中を擦ってくれる。何度も耳元で、大丈夫大丈夫、と魔法の言葉をかけてくれる風来坊にいつしかしがみ付いていた。涙は出ないけど、声を出してしまった。苦しい想いを、かき消すように、何度も何度も……


 「君の大切な人はあの人だろう」

 「……」


 返事の代わりに頷いた。すると表情が少し曇ったかと思えば、やあやあと微笑む。君は死んでしまったけど、大切な人の傍にはいれないけれど、見守る事は出来る、そう言いながら、抱きしめてくれた。その瞬間、風が吹き荒れた。私達を避けるようにして、地上へと降りていく。すると、貴方の元に届くようにと、風が私の想いを運んでくれた気がした。


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