複雑な心と夜空への贈り物
「デレデレしちゃって風来坊でも、見とれる事あるんだね」
嫌味を言いたくないのに、私の口から溢れるのは彼を追い詰めるような言葉達だった。二人の姿を見て、自分だけが切り離されているような感覚を感じた事にショックを隠しきれない。風来坊は話すと抜けているんだけど、無言でいると綺麗な顔立ちをしている。心の奥底で美男美女の二人ならお似合いだろうなと納得するしかない答えを否定したい気分が増殖してしまう。こんな自分、好きじゃないけど、子供の私は感情を切り捨てて、理解をする器がなかった。
「……あかり」
「何? 私の事なんてどうでもいいんでしょう」
止まらない、止めたいのに、口が閉じてくれない。そんな私の様子を見ながら、考えている風来坊は、ぽんと手を叩くと、しゃっくりを止めるように驚きを広めて、私の暴走を止めようとしてくれている。
「ひゃ」
「やあやあ」
急な出来事に驚いた私は小さく叫び声を上げる。時間が急に止まったように錯覚している私の心を包むように、優しく抱きしめた。ふんわりと太陽の匂いがする。それはこの世界の全ての存在に愛されている雷神とは違う風来坊自身の香りだった。
「雷神の時は雨の匂いがするのに、風来坊は太陽の匂いなんだね」
「あかりは甘い匂いがするよ、美味しそうな匂い」
ぺろりと舌なめずりする音が鼓膜を刺激すると、全身に駆け巡る、冷静にいたいのに、体は正直でぴくりと震わしてしまう。
「あかりには笑顔が似合うよ」
「……そんな事言っても許さないんだからね」
「やあやあ」
いつもの空気感に戻った所で微笑み合いながら、私が落ち着いたのを見計らって口を開いた。
「彼女は僕の姉だよ。だからそんな関係じゃないからね。あかりは誰よりも特別なのだから、信じてほしい」
「へ? お姉さんなの?」
「やあやあ」
スルーしたけど、風来坊は恥ずかしい言葉を簡単に言ってしまう。いつもは何考えているのか分からないのに、もしかしたらいつもの風来坊が演技で、こちらが本当の姿なのかもしれないと考えてしまう。どう転んでも風来坊は風来坊なのだけど……
それ以上は言えないと呟くと、少し瞳が潤んでいる事に気づいた私は、疑問を呑み込み、彼の言葉を大切に心に刻む事にした。風来坊の世界を私は知らない。だからこそ、知らない方がいい事もある。
「……待ってる」
複雑な心境の中で言えそうな言葉を探したけれど見つからない。だからこそ、色んな意味を含む言葉夜空へと投げ捨てた。




