嫉妬を抱く私と移り気な彼
風来坊には全て見えていた。夢の中でもう一人の未来の自分がこれから起こる先を見せてくれていたからだった。
「雷神、君は大変な存在に目をつけられてしまったね」
「やあやあ」
困ったように頭を掻く風来坊からは雷神としての姿は見えない。
「なりたくてなった訳ではないからなぁ……風神が僕の代わりに雷神になってくれたらいいのに」
二人の会話を邪魔するように、黒い霧が空間を包んでいく。目の前にいたはずのもう一人の風来坊が砂が堕ちると共に、地面に叩きつけられながら、滅んでいく。
その姿は、自分の未来の姿を暗示しているようで、苦虫を噛む風来坊がいた。
願いは届かない。たった一つの願いはあかりにさえも届かない。自分の立場を考えれば願ってはいけない事なのかもしれないと思いながら、ため息を吐く。ふんわりと見えない言葉達は風来坊の手元から溢れ堕ちると、地上へと花を咲かす。命の種を無意識の中で作ってしまった事に誰も気づかない。たった一人の存在を残して──
「……愚か者め。あれ程『願い』を唱えてはいけないと忠告していたのに、な」
「仕方ありませんわ。過去を変える事は私達には出来ないのですから。あの二人に託すしか、道はないのです」
「はぁ……そうか。夢見のお前がそういうのならば」
「奇跡は起こるのですよ、私と貴方のように」
星が散ると、スッと人の形へと作られていく。私達を支配していた輝きは気がつくと、側に舞い降りてきた。おとぎ話に出てくるような天女のような、美しさを纏う踊り人達は悲しそうに微笑むと、横にいる風来坊の元へと降りた。
「雷神様、お久しぶりです」
「やあやあ」
二人の間に流れたのは違和感と切なさ。私の知らない風来坊を横目で見つめていると、なんだか遠くに行ってしまいそうに思えてしまう。自分の感情の波に気づかれないように、痛みを悲しみを堪えながら、拳を握った。星は死人の願いや想いが集まって形どった姿を映し出す鏡のようなものだと、風神から聞いていたけど、こんな複雑な想いをしながら、見えない壁に囲われた心を抱えながら、その光景を見る事になるなんて考えもしなかった。
「あかりにとっては複雑かもな」
「何が? 不思議な体験が出来るのに、楽しみしかないよ」
「それは楽しみだな」
含みのある言葉の意味はこの現実を示している。どこからどう見ても美人。胸は勿論、髪もツヤツヤで自分と比べてしまう。
その女が近づくと、ぴくりと反応している風来坊。まるで彼女の手のひらで転がっているようで気に入らない。くすくすと耳元で私を試すように、息を吹きかける。悪戯では済まない。
「やあやあ、近いよ。僕は君と話すより、あかりとこの光景を楽しみたいんだ。彼女を煽るような真似はやめてもらえるかな」
「どうしてですか? 姿形を変えど、私には貴方が分かります。約束は果たしていただかないと困るの」
「……困った人だなぁ」
二人がどんな会話をしているのか私には分からない。聞き耳をたてた所で口をぱくぱくしているだけの二人の声は防音壁に吸い込まれるように、泡になって消えていくのだから──
「風来坊の嘘吐き」
無意識に心の声が出てしまった事に気づいたのは、彼の視線が私へと流れ、彼女の元から私の元へと戻ってきてからだった。




