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風来坊  作者: 法蓮


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大きくなっていく存在

 微かに香るのは金木犀の香り、私の好きな匂いでもあるし、貴方の好きな匂いでもあった。思い出の香り。寝ている私の瞳から、ふと、雫が零れた。私自身は気づいていないが、風来坊は気づいている。風来坊はそんな私の寝顔を見つめながら、近づいて、キスをする。


 「やあやあ、泣かないで。僕の大切な人」

 

 その光景を暖かい眼差しで見つめる月は風来坊に言った。


 「本当の事を言わなくてもいいのかい?」

 「いいのさ、いいのさ」

 「君の想いが報われないだろう」

 「それでもいいのさ」


 そんな会話があった事もつゆ知らず、私は夢の中で貴方を抱きしめる。そして夢と現実は繋がっていて、私は風来坊に抱き着いていた。


 「どんな夢を見ているのかなぁ」

 「それは私にも分からない」

 「そうだねそうだね」


 月はそう言うと、瞼を閉じた。そして風来坊も眠りについた。



 小鳥の囀り、雲の温もり、太陽の眩しさで目が覚める。ん、と目を擦ると、太陽と風来坊が待ってましたと言わんばかりに「おはよう」と告げてくる。太陽も風来坊もどちらが先に私に挨拶をするかで、競っているみたいだ。いつもバチバチ。今日は同じタイミングだったから引き分けね、私がそう言うと二人は言い合いになってる。


 「私の方が早い、太陽だからね」

 「やあやあ、僕の方が早かった、いつも傍にいるからね」


 いつも傍にいるのは分かるけど、だからって先に言える根拠は何だろう。私は風来坊のように首を傾げると、それを見た風来坊が笑った。


 「僕と同じ」


 癖が移ってしまったのかもしれない、それが風来坊からしたら嬉しいようだ。子供みたいだなぁと思いながら、ふふっと微笑むと、太陽も風来坊も挙動不審に固まった。


 「どうしたの? 二人とも」

 「君の笑顔は素敵だね」

 

 風来坊より先に太陽がそう言うと、風来坊も笑った。自分が言うはずだったのに、と言っていたが、何だか嬉しそう。私は二人にそう思われている事で、照れてしまう。何だかアプローチされているみたいでむず痒い。私の反応を見て、遊んでいるだけだろうけど、それでも幸せを感じていた。私には貴方がいるのに、少しずつ忘れていく。以前、月が教えてくれた。その時はどうやっても眠れず、風来坊が寝付いた後でも話をしていた。

 

 「ここに馴染んでくると、その子のように記憶が消えてゆく」

 「そうなの?」

 「君にもいつかその時が来るだろう、怖いかい?」

 「……少し」


 正直、実感が沸かない。生きている時の記憶がなくなったら、私が私じゃなくなりそうで怖い。カタカタと震えてしまいそうなくらい不安だ。その時、風来坊の姿が頭を過った。いつものんびりな風来坊、彼も記憶を持っていた時期があるのだろうか。どんな存在なのかな、と思うと少し気楽になる。風来坊の存在がいつの間にか、私の心の中で大きくなっていた。


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