あかり
騙されたって事は理解してるけど、それでも何か理由があるんじゃないかと思ったりする。でもそれは今聞く事じゃない。月が自分から言いたくなった時になるまで、待つのがいいと思った。私が無理矢理、聞いても月を傷つけるだけだと思う。それは避けたい、だから待つ。
「元気そうでよかった、また時々だけど話せるかな?」
「君さえよければ、私はいつでも話せるよ」
「ありがとう」
「それはこちらの台詞だよ、ありがとう、君」
最初はたどたどし会話だったけど、私が今まで通りに接すると、月は安心したように笑顔を取り戻していった。月にも色々思う事はあるだろうが、それはお互い様だ。離れていても、家族だと思っているから、違和感を残したくなかった。
プツンと、テレビを切ると、風来坊は私を後ろから抱きしめた。少し、不安にさせたのかもしれないと思うと、心が痛い。私の我儘を聞いてくれる風来坊は、本当に優しい人。それも含め、全てを好きになったから、貴方を好きになって本当によかった。
「風神、怒るかなぁ?」
「内心、怒るかもしれないね、だけど表には出さないと思うよ」
「それもそれで、怖いんだけど……」
きっと風神は私のした事を、風来坊の行動を見ている、気づいている。それで彼がどんな顔をするのか、少し見てみたい気もする。怖いもの見たさって感じだ。そういう所、自分ではあまり好きじゃない、性格が悪いと思うから、そう風来坊に言うと、僕は好きだよ、と微笑んでくる。
「やあやあ、僕は怖いもの見たいなあ」
「どうして?」
「楽しそうだから」
「ふふふ、変なの」
くすくす笑っているとやあやあ、と照れた様子でベッドに座る。すると、ぽんぽんと布団を軽く叩き、、こちらにおいでと手招きをする。私は嬉しくて、すぐさま風来坊の横に座る。少しの沈黙が心地いい。目を瞑りそうになりながら、この幸せに酔いしれていると、そろそろ寝ようと告げられた。
私と風来坊はベッドの上で横になる、布団を被り、風来坊は腕枕をしてくれた。心地いい体温が首を包み込み、眠りへと誘ってくれた。
「おやすみ」
「おやすみ、あかり」
いつも私の事を「君」と呼んでいた貴方はもういない。天から降り注いできた名前を呼ばれ、安心して眠りにつく、私がいる。
もう不安な事なんてないんだ、と思いながら、貴方の存在を確かめる私がいた。
最近夢ばかり見る。傍に風来坊がいるはずなのに、私の傍にいるのは風神だ。彼は優しく、私の頬を撫でながら、何かを言っている。私はきょとんとしながら、彼の言葉を聞いているが、何を伝えたいのかさっぱり分からない。彼の声が聞こえないから、風来坊がいないから。ただ彼の言葉を聞いて、凹んでいる私の顔が映る。
彼は慣れた手つきで、私の隙を狙って、抱き寄せようとした。私は、かわそうとしたが、彼の力に勝てなくて、抱きしめられた形になった。その姿を、誰かが遠くから見ている。悲しそうな声を出して、私の名前を呼んで、そこで夢は消えた。
「あかり、あかり」
「ん……」
風来坊に呼ばれたような気がして、目を擦ると、そこには心配そうに覗き込む貴方の姿があった。私は、何があったのだろう、と飛び起き、貴方に問いかける。風来坊曰く、魘されていたらしい。何か嫌な夢でも見たのだろうか、何故か思い出せない、思い出したくない。
「大丈夫かい?」
「うん、大丈夫だよ」
「魘されてたから、心配した」
「もう、大丈夫。きっと疲れていたんだよ」
「そうかい」
言葉では大丈夫、と言うけれど、不安な顔をしていたのだろうか、風来坊が私が安心するように、頭を撫でだした。やあやあ、と何度も繰り返しながら、落ち着くまで。そんな落ち着かせ方をされたのは初めてで、吹き出してしまった。その姿を見た、風来坊は何故、私が笑っているのか分からず、首を傾げながらも、やあやあ、と笑った。
「安心したかい」
「ありがとう、風来坊」
「やあやあ、いいのさ、あかりが笑顔になれたのなら」
風来坊の言葉は誰の言葉よりも落ち着く。悪夢を見ていたのか、ドクドクと脈打つ心。不安が微かに残り香を漂わせていたが、抱きしめられていると、すっと何もなかったように消えてゆく。このまま、風来坊の腕の中で再び眠ってしまいそうになる。そんな、私を優しく見つめる風来坊、もう少し寝るかい? と聞かれたけれど、ふるふると首を横に振り、そっと解かれた腕から離れた。




