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風来坊  作者: 法蓮


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13/23

自分の気持ちを偽りたくなかった

 「風来坊、行ってらっしゃい」

 「ありがとう、雷神といてね」

 「うん」


 風神が姿を消して、風の一部になってゆく、その変化を初めて見た私は、なんて幻想的なんだろうと見惚れてしまう。その様子を見ている風来坊は、何だかご機嫌斜めだ。私の手を掴むと、自分の方に私を向かせた。


 「どうしたの? 風来坊」

 「僕は反対だよ、君の風来坊は僕だけだもの」

 「風神の事、風来坊と呼ぶの嫌?」

 「自分の分身だけどいい気はしないさ」

 「……そうだよね」

 「やあやあ」


 私の中での風来坊は雷神だけだ。風神は風になって何度か様子を見てくれていたし、交互で守ってくれていたけれど、やはりやあやあ、と言う雷神がいい、雷神だけがいい。風来坊は子供のように頬っぺたを膨らましながら、私を抱きしめた。まるで駄々をこねている子供みたい。


 「大丈夫だよ、風来坊は私の中で雷神だけだから」

 「……本当に?」

 「うん、風神には後で話すよ」

 「やあやあ」


 本当に分かりやすい喜び方。声のトーンだけでも喜んでいるのが分かる。それに加えて態度が追加するのだ、余程、嬉しいのだろう。今まで見ていた景色とは違うけれど、この新しい場所で、また風来坊との思い出が増えていくのだと思うと、嬉しくなる。本人に言うのは恥ずかしいし、勇気がいるから、想いに応えるように、抱きしめ返した。


 風来坊の温もりを感じながら、微睡んでいると、いつの間にか暗くなってきた。今日も嵐だ。雷神が私の為に用意してくれたあの部屋に行こう。温もりのある、暖かい場所へと。


 「嵐がくるね」

 「うん」

 「やあやあ、ここは危ない、僕の住処に行こう」

 「風神は大丈夫なの?」

 「大丈夫さ、君が心配する事じゃない」

 「分かった」


 嵐を巻き起こすのは風神がする。風来坊は片時も離れたくないようで、さっさと部屋へ入っていく。私も追いつこうとすると、貴方はくるりとこちらに向き、歩いてくる。近くまで来ると、私の手を取り、頬にキスをする。急に男の人の顔をする風来坊を見つめていると、心が高鳴っていく。歩きずらいよね、と言うと、あの時のように私をお姫様抱っこし、元来た道を戻っていく。


 あの時は凄く緊張して、目を瞑っていたけれど、今日は違った。私は貴方の顔を見つめながら、微笑んでいる。すると、唇にキスを落とされた。小鳥がつつくようなキス、優しい口づけ。あの時とは違う事を思い知りながら、彼を受け入れた。きっと今の私達の事を風神は何処かで見ているかもしれない。でも、私は自分の気持ちに偽りたくなかった。


 「ん」

 「やあやあ」


 唇を離すと、顔が近くて一層ドキドキする。こういう時、どうしたらいいのかと思いながら焦っていると、もう一度頬にキスをしてくる。今、気づいたけれど、風来坊はキス魔かもしれない。前からする日としない日があったけど、しない日は風神が風来坊になって、する日は貴方だったのね。


 「風来坊」

 「ん?」

 「中に入ろっか」

 「やあやあ、そうだね」


 ふふふ、とお互い微笑みながら部屋へと入った。居心地のいい部屋。だけどやはり懐かしさはあるけど、全てが目新しく見える。生前の記憶がなくなったからなのだろうか。心の中に温もりを感じる事はあるが、見たこともないものばかりのように思えた。ここに入るのは二回目だから、新鮮ではある。風来坊はあの時と同じようにベッドに私を下ろした。そして風来坊も横にゴロンと寝転がった。お互いの距離が近い、近すぎる。緊張しているけれど、それ以上に幸せが、幸福感が増えていく。貴方がいるだけで世界が違って見える。それは風来坊の力。


 「ねぇ、風来坊、お願いがあるの」

 「なんだい?」

 「月と話したい……ダメかな」


 んー、と考えながら眉を顰める風来坊。そりゃそうか、私連れ去られようとされていたもの。でも、このまま疎遠っていうのは嫌だった。きっと月と話し合えば、分かり合えるはずだから。それは私の中の考えであって、風来坊には風来坊の考えがあるから、無理強いは出来ない。困らせたくはないけど、私の我儘は承知しているけれど、どうしても引き下がる事が出来なかった。


 「やあやあ、仕方ないなぁ」

 「いいの?」

 「風神だったら、ダメだったかもしれないけどね」

 「ありがとう」


 風神は怒ると怖いからね、と一言言って、テレビの前に向かう。チャンネルを合わせると、月の様子が画面に出てきた。なんだか、悲しそうで元気がなさそうな月。


 話しかけてもいいと言われたので、思い切って声をかけてみる。暗い闇の中でいる月は、私が知っている月とは程遠い。それでも話しかければ、何かが変わるんじゃないかと思ってしまった。深呼吸をしながら、気持ちを整理する、色々な事があったし、風来坊と会えなくなりそうにもなった。それでも私自身にも原因があるから、責める事は出来ない。あの時垂らしてくれたロープを掴んだのは、他の誰でもない自分自身だったのだから。


 「月、久しぶりだね……聞こえてる?」

 

 声をかけると、目を閉じていた月は驚いたようにハッと目を覚ました。まるで私の声が目覚まし時計みたいだ。


 「私の声が聞こえたら、返事をして?」

 「……君」

 「久しぶりだね」

 「そうだね、元気かい?」

 「うん、月は?」

 「……元気だよ」


 少し暗い顔をしていた月は、無理やり明るく務める。それが見ていて、痛々しい。私のせいだな、と思いながら沈みそうになるけれど、私も沈んでしまったら、誰が月を笑顔にするのだろう。そう考えると、微笑むしか選択肢はなかった。


 何事もなかったかのように話す私を見て、月は言う。


 「私を信じてくれていたのに、騙してしまったね。嫌いになってはないのかい?」

 「嫌いじゃないよ、家族だもの」

 「君は優しすぎる、私なんかより眩しいよ」

 「そんな事ない、月は月で綺麗だよ」


 

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