お仕置きが必要だから……ね
風来坊、いや雷神に抱きかかえられながら、彼らの住処へと足を踏み入れた。そこは月も太陽も夕日も見えない、最上階。ここには私と風神雷神しかいない。二人とも風来坊なのは驚いたけど、また違う波乱の予感がありそうで怖い。
「ようこそ、僕達の場所へ」
「よろしくお願いします」
ペコリとお辞儀をすると、雷神は嬉しそうにやあやあ、と言う。風神は楽しそうに私の傍まで来た。雷神が私を抱きかかえているのに、すんなりと奪っていく。すると雷神はムクッとしたが、悔しそうにやあやあと笑った。二人で一つと言う事は同一人物と言う事なのだろうか。それでもここまで似ているなんて、まるでドッペルゲンガーのようだ。
「改めて自己紹介をしよう」
「やあやあ、そうだね」
「「僕達は風来坊であって違うからね」」
少しひっかかる言い方をされたのが気になるが、どこからどう見ても二人共「風来坊」だ。私はくすくすと笑いながら、自己紹介をする事にした。
「私の名前は風神」
「やあやあ、僕の名前は雷神」
「私の名前は星美あかり」
私の名前を初めて告げた。記憶は失ってしまったのに、何故だか天から言葉が降ってきたのだ。今日からお前の名は星美あかりだと。不思議な現象だけど、君と言われるよりも、しっくりくる。生きている時の名前は忘れてしまったけど、ここで与えられた名前が出来た。
「名前を与えられたんだね、あかり」
「やあやあ、あかり」
「うん、何だか声が聞こえたの」
「それは選ばれた証拠だよ」
「やあやあ」
聞こえてきた声が誰のものか分からないが、風神がそう言うのだから信じてみよう。今までの環境とは違うけれど、ここはここで、なんだか楽しそう。月達とお別れしたのは悲しい事だし、寂しい事だけれど、それも一つの思い出になってゆく。それを二人に伝えると、お人よしだなぁ、なんて言われたりした。自分では自覚してないけど、そうなのかな。
風神と雷神は見た目の区別がつけれない。声も姿も全て同じ、だけれど唯一、違う所がある。それは話し方だ。自分の事を私と言うのが風神、いつも丁寧で紳士的だ。反対に今までのように、やあやあと使うのが雷神、少し天然なのかと思うくらいぼーっとしているけれど、ここぞという時に頼りになる存在。きちんと区別しようと心に決めた時に風神が提案をしてきた。
「私達は全てが同じだから、区別するのが大変だろう? 話していると分かるかもしれないが、今まで通り「風来坊」と呼んでほしい」
「……いいの?」
「やあやあ、いいのさ。僕達は二人で一つ。元は同じ存在だからね」
どういった経緯で二人が分裂したのだろうか。役割が違うのは分かるけれど、元は一人だと雷神、いいや風来坊は言う。私はもし、名前を間違えたら申し訳ない思いから、風神の提案を受け入れる事にした。話を聞くと月達がいる所と、この場所とで見回りを交互に分けているらしい。それを聞くと一人になる事はないんだな、と安心する自分がいる。
「今日の見回りはおやすみにしよう、雲に監視を頼んでおいたから」
「雲が話せるって事は、雨が来るんだね」
「やあやあ、雨じゃないよ、嵐が来る」
そう言われて驚いた。昨日嵐が来た所なのに、今日も来る。二日連続で来る事なんかないのに、月は晴れると言っていたのは嘘だったのだろうか。少し疑問に思った私は、風来坊に聞いた。
「明日は晴れるんじゃないの? 月がそう言っていたよ」
「やあやあ、本当は晴れだったよ、僕達を怒らせたから仕方ないんだ」
「怒らせた?」
「そうだよ、君を連れて行こうとしていたからね、お仕置きが必要だよ」
風来坊はそう言うとケラケラ、笑った。まるで子供がおもちゃで楽しんでいるようだ。こういう所を見ると風来坊はサイコパスなのかな、と思う。一番、怒らしてはいけない人物として、私の中で認定された瞬間だった。そんな私と風来坊の傍をいつの間にか離れていた風神は、大声で言った。
「私は太陽達の所に行ってくる、君はここにいるんだよ、雷神、後は頼む」
「分かってるよ、風神」
正直、二人の事を風来坊と呼んでいいのか迷っている。一応、提案は受けたのだけど、なんだか失礼な気がして、戸惑ってしまう。彼らは互いの本当の呼び名で呼ぶが、私からしたら、どちらも風来坊。簡単なようで難しいのが本音だ。




