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風来坊  作者: 法蓮


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貴方はだあれ?




 いつだって貴方は私の天使だった。純粋な笑顔、世間知らずな言葉、まっすぐな生き方、全てが宝物で、愛おしくて仕方なかった。愛されたい訳じゃない、貴方は手の届かない人だから、幸せであってほしい、いつまでも笑顔でいてほしいから。


 私は風の中で地上を見つめながら祈る。貴方に伝えるすべがあればいいのに、と星に願いをかけて雫のように落とした。


 「君は未練があるのかい?」


 風来坊は私にそう問いかけると、悲しそうに微笑む。もう地上で生きる事が出来ない私の事を考えてくれているのかもしれない。私は風来坊に言う。


 「未練がないとは言わない、もう一度だけあの人の笑顔を見たいの」


 バカでしょ、と笑う私を見つめる風来坊は、やあやあと首を振る。そんな事はないと。愛しい人が地上にいるのなら、そう思いたくもなるさ、と言った。


 「風来坊って変なの」

 「よく言われるけど……なんでだろう」


 風来坊はやあやあと頷く、自分では普通の事をしているだけなのに、よく変わっていると言われる事に疑問を抱いているようだ。そんな風来坊の様子を見ていると、ほんのちょっとの悲しみも笑顔になる。変な魔法にかかっているみたいに。


 「悲しそうな顔より笑っている方が素敵だよ」

 

 まっすぐな言葉を吐くのは彼とよく似てる。私は胸が締め付けられると、ほうと息を吐く。人間として生きていた時の事を思い出した。彼と学校の帰り道で色々なお店に寄った事、初めて手を繋いだ記憶、喧嘩して泣きじゃくった日の事、沢山の喜怒哀楽に包まれながらも、幸せな時の事、沢山沢山、記憶として心に満ちていく。


 私が亡くなって彼は泣いていた。その時、ぽつりと好きだった、と呟いた事を忘れない。もう一度、彼に会いたい気持ちは、そこから来ているのかもしれない。


 私も好きだったから──


 私は悲しく微笑むとありがとう、とお礼を言った。風来坊にはいつも助けられている。実際に心がこんなに豊かになったのが、その証拠。空に来た時は、彼の傍にいれない事を、悔やみ、嘆き、どんどん塞ぎ込んでいた。そんな毎日の中で、急に現れた人が風来坊だ。


 本当の名前は知らない、本人も覚えてないようでよくやあやあと首を傾げる。癖なのだろうか、少し変わった雰囲気の持ち主。そういう所が好ましくて、友達になったのだけれど、風来坊からしたら友達という概念がないかもしれないが、それはそれでいいと思う。


 木々が囀りを鳴らす。私の心を浚うように、しっとりと。まるで風来坊のような存在だなぁ、と感じながら生命が光り続けているのを見ている。


 そこに私もいたはずなのに、見る側の立場になると、今までの視野とは違う、当たり前のものがきらきら輝いて見えたり、不思議な事ばかり積もっている。風来坊と並んで空から地上を見ていると、沢山の人達の声が音になり、光へと変化して、私達に届く。


 「僕もあそこにいたのかなぁ? きらきら輝いていたんだろうか」

 「分からないよ、私はいたけど、輝いてはなかったよ」

 「ふうん、変なの。輝くのが当たり前じゃないの?」

 「人は輝かないよ」


 人が輝いていたら生きている人達、全員が驚くだろう。私達が綺麗と呟く言葉も、きっと違う言葉になって、違う意味で表現すると思う。蛍光灯じゃないんだから、黄金じゃないんだから、輝いていたら怖いよ。


 「僕も君も地上を覗くと輝いて見えるのはなんでだろう」

 「知らないよ、こっちが聞きたい」


 不思議な事ばかりだ、と呟く風来坊は納得がいかない様子で首を捻るばかり。いつもこんな感じの会話ばかりだけど、新しい環境の中で一人でいるよりは安心するし、楽しい。相変わらず、訳が分からない事ばかり言うのは、どうにかしてもらいたい。


 「そろそろ夕日が来るよ」

 

 座っていた風来坊は立ち上がり、そう告げる。もうそんな時間なのか、と思いながら、私は地上に手を振る。また明日、小学生の時に友達とお別れの挨拶をした時みたいに、懐かしさに包まれながら、私達は雲の中心へと進む。


 「夕日が来ると、場所をとられる」

 「そうだね、あそこが一番、見えるのに……」

 「夕日に怒らないといけない」

 「逆に怒られるんじゃない?」


 どうして、と首を傾げながら、歩いていく。夕日は普段は穏やかなのだけれど、風来坊に対しては厳しい。その理由は分かる。何度も何度も、同じ質問をするからだろう。答えのない質問をされてばかりの夕日はいつもしんどそう。


 「ふふっ」


 数日前の夕日に怒られてばかりいた風来坊の事を思い出した、するとなんだか可愛いと思ってしまい笑いが出る。なんで怒ってるの?と連呼する姿が印象的で、本当、ある意味凄いと思った。


 「また笑った」

 「風来坊のせいだよ」

 「僕の?」

 「うん」


 こんなやり取りが幸せの形で、今の私の中での日常の一コマ。彼との思い出も大切だけれど、心に秘めた思いはあるけど、それでも、今は今で悪くないな、って思ったりしている。変わり者の風来坊と過ごせば過ごす程、新鮮で、純粋な自分になれる気がする。本当になれるかどうかは、別だけど。


 私は命の光を見た

 そして萎んでいく命を見た

 傍にはいつも貴方がいる

 私は喜怒哀楽の中で生きている

 今も生きている



 

 夕日が沈み、月が姿を現す。月は夕日と違っていつも穏やかだ。眠れない子供をあやすように、優しく囁きかけてくれる。私は夕日も月も好き。風来坊も私と同じなんだろうけど、相手に好かれるのかと言えば、厳しい所。どうして、そんな目の敵にするのだろうと、思いながらも、言葉にする事はなかった。ずっと傍に風来坊がいるからだ。本人はどうも思わないかもしれないが、個人的にはあまり触れたくなかった。


 傷つけてしまうかもしれない、もしかしたら本当は気づいているふりをしているだけで、私は風来坊の何も見えていないのかもしれない、そう考えると、身体が震えた。何の取柄もない私に関わってくれている人を大切にしたい。だから言わない。


 「やあやあ、来たんだね月」

 「もう夜だよ、いい子は寝なさい、疲れただろう」


 ふんわりと輝く月は暖かい。月の光が私達を照らしながら寝る場所を作ってくれる。私と風来坊は光にあたりながら、横になる。すると暖房でもついているような温もりが体を包み込み、眠気へと誘う。


 「眠くなってきたね」

 「そうだね」


 少しお話をすると、互いに温もりを求めながら、眠りについた。こうやって毎日が過ぎてゆく。人間として生きてきた時の私とは違う、環境。魂だけになってでも、こうやって皆を見守る事が出来る事に安心しながら、眠る。



 夢を見た。生きている時は何度も見ていたのに、この姿になってからは全く見なくなったのに、久しぶりの夢だった。私が生きている時を夢で見た。貴方はくすりと笑いながら、私を抱きしめ、額にキスを落とす。とても居心地のいい夢、夢なのに妙に現実味を帯びていて、本当に夢なのかと疑った。

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