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叔母様の結婚祝いの賦与

後日譚は、この回で終わります。

次の日の朝は、わたくしの方が先に目覚めた。

マリウス様は、疲れてまだ眠っているだろう。


わたくしは半身を起こして、マリウス様の寝顔を覗き込む。

髪が少し寝乱れて、いつもの隙無くキリッとしているマリウス様ではなく、少年のように若々しい。


マリウス様と結婚して以来、わたくしはどんどんマリウス様を好きになっている。

子供の頃から一緒に育って来たので、マリウス様の事は良く知っていると思っていたけれど、知らなかった面も多かったのだと思わされる毎日だ。


マリウス様は、以前はわたくしを、少し距離を置いて見守ってくれていたけれど、今はわたくしに対する情熱を隠さない。

戸惑いもあるけれど、わたくしはそれも嬉しく感じるのだ。


昨日の朝は、マリウス様がわたくしの寝顔を覗き込んでいたけれど、わたくしが今、こうしてマリウス様の寝顔を見ているのと同じ気持ちだったのだろうか。


わたくしは、マリウス様の額に掛かった髪をそっと手で払って、マリウス様の額に触れるか触れないかのキスをする。


「エリザ......愛しているよ......」


寝ていると思っていたマリウス様は、ゆっくりと目を開く。


「わたくしも......マリウス様......」


マリウス様は、手を伸ばしてわたくしの顔を両手で挟むと、深いキスをする。

間近で見つめ合ったマリウス様の瞳が、黒く輝いている。


「今日は馬車で領地を巡って、隣の領地のお屋敷にご挨拶をするのでしたよね?」


「隣の屋敷へのご挨拶?

そんなものは馬にでも喰わせてしまえ......

エリザと『おはよう』の挨拶が先だ......」




『おはよう』の挨拶が長引いて、今朝の朝食は遅くなった。

ほとんど昼食と言って良いくらいだ。


午後からは、馬車に乗って隣の領地のお屋敷にご挨拶に行く。

マリウス様は、領地を相続した時に挨拶は済ませていたので、わたくしの紹介が目的のようだ。


馬車に乗って、領地を一回りして、モンカド伯爵家の屋敷に到着する。

モンカド伯爵は、太って血色の良い40歳台の男性だ。

同じような年頃で、胸も腰も豊かな伯爵夫人は、陽気そうに笑って挨拶をする。


マリウス様がわたくしを伯爵夫妻に紹介すると、上機嫌の伯爵様は、わたくしの手を取ってキスしただけでなく、わたくしを抱きしめて、両方の頬に音高くキスまでした。


「これは全く、美しい奥様ですな!

青い瞳が、深い海を思わせる色だ......

その海の中で溺れてみたら、さぞ良いでしょうな

私があと五歳も若かったら、黙っていないのだが......」


マリウス様は、わたくしをサッと引き寄せて、わたくしの腰に手を回す。


「まぁ、あなたったら、いつも若い方をからかって......

奥様が困っていらっしゃるでしょう」


「いや、若いというのは本当に素晴らしいね

あなた方も、今を充分に楽しむが良いよ」


マリウス様は、挨拶の訪問を短く切り上げる。

帰りの挨拶の時には、伯爵からわたくしを遠ざけた。


屋敷に帰る馬車の中で、マリウス様は機嫌が悪い。


「私が挨拶に行った時とは、伯爵の態度が違いすぎる。

親戚でもないのに、エリザにキスするなんて......エリザも逃げれば良かったのだ」


「まさか、いきなりキスするなんて思わなかったのですもの

ウルム公国の男性は情熱的、と言うのは、こんな所なのでしょうか?」


「いや......そう思いたくはないが、エリザを夜会に出す時は、側に付いていなければならないようだ」





領地での挨拶が終わると、マリウス様とわたくしは首都のコルドン市に移動する。

領地からコルドン市までは、馬車で二時間余りで到着する。

マリウス様のコルドン市の屋敷は、市街の中心部からは少し離れた場所にあるが、立派な屋敷だった。


これは領地の前の支配人が、不正に横領したお金で建てた屋敷だ。

以前のクラーギン伯爵家の相続人は、領地の経営に関心がなく、支配人の不正を見抜けなかったのだ。


マリウス様が相続後に不正に気づき、この屋敷も取り戻せた。

この屋敷からデュボア商会の支店までは、馬車に乗れば直ぐに着く距離で、とても便利だ。



マリウス様とデュボア商会に行くと、ガブリエール叔母様の次男のピエール様と奥様に、恭しく迎えられる。


「ようこそ、おいで下さいました、クラーギン伯爵様」


「お待ちいたしておりました、クラーギン伯爵夫人」


クラーギン伯爵夫人と呼ばれても、わたくしは自分の事と思えない。


「エリザベトと呼んで下さいませ。

わたくし達がウルム公国に来るに当たって、色々なお手伝いを頂きありがとうございました」


「わたくし達にお手伝い出来る事があれば、どうぞお申し付け下さい

このデュボア商会の二階には、クチュリエールの部屋を整えました

裕福な商人の奥様方からドレスの注文も入ったので、お針子も集めて、仕事を始めております」


ピエール様も説明する。


「このウルム公国は小さい国ですが、南方や東方からの物資の中継点になっていて、貿易がとても盛んで有望な産業です

今、東方からの珍しい綿布や香辛料、お茶なども入って来ているので、大きな利益が望めるのです」


「そう言えば、ギュスターヴ三世公子殿下とローシュ公爵のお嬢様との婚約が発表されましたが、エリザベト様はご存知でしょうか?」


「ええ、レオンティーヌ公爵令嬢は、叔母様のクチュリエールのお客様でした

わたくしも、レオンティーヌ様にお会いして、賦与のご希望をお聞きしたりしました」


「まぁ、それは素晴らしいですわ!

それではいずれ、エリザベト様がウルム公国の妃殿下のドレスをお作りするようになりますね」


もしそうなったら、高位の貴族からの注文は自然と入るだろうし、自分で流行を作り出す事もできるだろう。

この国には賦与を掛けられる人もいないそうだから、わたくしにドレスを注文したい人も多いのではないか。


「エリザは、ウルム公国でもドレス作りに忙殺されそうだね

私の事も忘れずにいて欲しいのだが」


マリウス様は、ちょっと心配そうだ。


わたくしは、ウルム公国の夜会やお茶会に出席できるように、まず自分のドレスを何枚か作るつもりだ。

ただし、自分で自分のドレスには賦与を掛けられないので、わたくしのこれから作る自分のドレスは賦与無しだ。


でも今は、わたくしの好きな仕事もあり、愛するマリウス様もいらっしゃるので、自分のための賦与が無くても気にならない。


そういえば、わたくしが自分用の寝間着を何枚も作っていた時、叔母様が側に来て、賦与をどうするか、聞かれたのだった。


わたくしは必要ないと言ったのだけど、叔母様は小さな刺繍を寝間着の胸元にしてくれた。


「可愛い刺繍ですね

叔母様は、何か賦与を掛けられたのですか?」


「そうね、わたくしからの結婚祝いよ......うふふ......二人がいつまでも仲良くいられるようにね

賦与の言葉は秘密にしておくわ」


わたくしは思い当たる。

もしかして、叔母様はとんでもない賦与を掛けたのではないか。


そして、賦与はその人の特色を強める魔法だ。

だとすれば、わたくしの中にその特色が色濃くあるという事なのだろうか?




       [おわり]


皆様のお陰で、後日譚まで書くことが出来ました。

本当にありがとうございました。


5月29日から、新連載『千年の封印を解けと魔王様がキスをせがむのですが』を始めました。

少し雰囲気は変わりますが、気になった方は是非!読んでみて下さい。


感想や評価を頂ければ、更に嬉しいです!

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