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新聞の社交欄

夕食を終えてサロンに移ると、マリウス様は新聞を抱えて入ってくる。


「昨日から長旅で、今朝も新聞を読めなかったから、今、ちょっと新聞を読んでも良いかな?」


「ええ、勿論ですわ。何か気になる記事がありますか?」


「そうだね......社交欄に、私達の結婚の記事が載っているぐらいかな」


「あら!......わたくしにもちょっと読んで下さいませ」


「今月の結婚欄に出ているのだ

『ウルム公国のマリウス・ミシュー・クラーギン伯爵は、エリザベト・ド・レトワール男爵令嬢と華燭の典を挙げた。今後ご夫妻はウルム公国で暮らす予定である』

まあ、こんな所だ」


「自分の結婚が新聞に載るのは、何だか変な感じですね」


「そう? 貴族は必ず載るだろう?

 ヴィクトルも載っているよ

『オリビエ・ド・レトワール男爵の子息、騎馬連隊の騎士ヴィクトル・ド・レトワール氏は、ミレイユ・モンテマール子爵令嬢と華燭の典を挙げた』

ごく普通の記事だね」


新聞の社交欄に載る、こういう冠婚葬祭の記事が大好きなのはお母様だ。

そういえば、よくお父様に新聞の社交欄を読んでもらっていたのだ。


「おや、ウルム公国の公子殿下の婚約が、大きく載っている

お相手は、レオンティーヌ・ド・ラ・ローシュ公爵令嬢だそうだ」


「レオンティーヌ様ですって!」


リュシアン様の妹のレオンティーヌ様が、このウルム公国の次期妃殿下になられるのだ。

ウルム公国の公女だったヴェーラ様が、王弟殿下に嫁がれたので、政略結婚でレオンティーヌ様がウルム公国の公子殿下に嫁がれるのだろう。


以前王弟殿下と一緒に、リュシアン様がウルム公国に行かれたのは、もしかして、レオンティーヌ様の婚約にも関係していたのかもしれない。


「公子殿下は、どのような方なのでしょうか?」


「私も直接お目に掛かった事はまだ無いが、ギュスターヴ三世殿下は、とても美男で、情熱的な方らしい」


「レオンティーヌ様は、天使のように美しいお嬢様なので、きっと気に入られるでしょうね」


レオンティーヌ様は、ドレスに『真実の愛』の賦与を望まれたのだ。

高い位の貴族は政略結婚が当たり前だけれど、レオンティーヌ様がウルム公国で真実の愛を得られる様にと願わずにいられない。


自分が今、とても幸せだからこそ、自分が賦与を掛けたドレスを着る人にも幸せになって欲しいのだ。

わたくしは、レオンティーヌ様の幸せを心から祈る。


「エリザは、リュシアン様を今でも忘れられない?」


マリウス様が、わたくしをじっと見ている。


「え?リュシアン様ですか?

わたくしは今、レオンティーヌ様の幸せを祈っていたのです」


「エリザは、リュシアン様が好きだったのだろう?」


「いいえ、普通の令嬢がリュシアン様に憧れるようなものですわ」


まさか、ボンボンショコラのお土産の威力が凄かった、とは言えない。


「エリザも、リュシアン様に憧れていたのか......」


マリウス様は、子供のように拗ねているのではないか。


「マリウス様だって、レオンティーヌ様とか、ヴェーラ妃殿下のような素晴らしい美女には憧れるでしょう?」


「いや、私は、エリザしか目に入らなかったからね」


「あら、連隊長のお嬢様、ルイーズ・ボージール子爵令嬢とは何度もダンスを踊られたじゃありませんか」


「ダンスを踊ったのも、ルイーズ様を家まで送ったのも、連隊長に頼まれたからだ」


連隊長様は、マリウス様がルイーズ様と結婚するのを望んでいたのだろう。


「もういいよ、私は早く寝ることにする」


マリウス様は話を打ち切って、サロンを出て行く。

わたくしが、マリウス様を怒らせてしまったようだ。

ウルム公国に来て最初の日だというのに、喧嘩をしてしまった。


わたくしも、化粧室に行って着替えをしてから髪を解く。

解いた髪は、ブラシを掛けた後で緩くまとめてリボンで縛る。

わたくしの寝支度は、小間使いのエンマがしてくれるのだ。


主寝室の扉を開けると、マリウス様は既にベッドで寝ている。

わたくしはベッドに近付いて、マリウス様に声を掛ける。


「もう眠ってしまいましたか?」


マリウス様の返事は無い。

わたくしは高いベッドに登って、マリウス様の邪魔にならないように端の方の布団に潜り込む。


「気を悪くしたならごめんなさい

でもわたくしは、マリウス様が一番大好きなのです」


わたくしは、聞こえないくらいの小さな声で呟く。

そのまま少し顔を上げて、マリウス様の寝顔を覗く。

黒くて長い睫毛が頬に影を落としているけれど、睫毛が震えているのではないか?


マリウス様がぱちっと目を開けて、わたくしと目が合ったと思う間もなく、わたくしはマリウス様に抱きしめられる。


「そんな嬉しい言葉を聞けるなら、寝た振りをするのも悪くないね」


マリウス様は笑っている。


「わたくしに、怒っていたのではなくて?」


「怒っていたのではないよ、エリザを早く抱きしめたくなっただけだ」


マリウス様は、わたくしに口づける。

わたくしの髪を撫でて、髪のリボンを解く。


「この寝間着は、エリザが作ったの?」


「はい、そうですが?」


「ボタンが多過ぎるね」


マリウス様は、手を伸ばして、枕元に置いてあった明かりを消した。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後のセリフが最高に好きです。
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