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ウルム公国の領地の屋敷

結婚披露の夜会が終わると、ミレイユ様はモンテマール子爵家に帰る。


本来ならば、今日からこの屋敷で兄夫婦の新婚生活が始まるはずだったけれど、兄夫婦の部屋がまだ用意できていないのだ。

結婚の予定を三ヶ月早めたので、この屋敷の改装が間に合わない。


この屋敷の二階には、書斎と化粧室が付いた主寝室が一つと、兄とわたくしの狭い個室が二つ、客間が一つあるだけだ。


両親が領地の屋敷に引っ越し、わたくしがウルム公国に移った後で、改装をして兄夫婦が主寝室を使う予定になっている。


わたくしとマリウス様も、実質的な新婚生活が始まるのは、ウルム公国に行ってからになる。


お兄様は、ぶつぶつと文句を言う。


「結婚をしたのに、ミレイユ様と一緒に住めないのは寂しすぎる

マリウスは、いつウルム公国に行くのだ?」


「私も、出来るだけ早くウルム公国に行きたいのだ

結婚証明書とウルム公国への出国許可証が出たら、直ぐに移動するつもりだ」


「私がミレイユ様と一緒に住めないのに、エリザがマリウスと同じ屋敷に住んでいるのは不公平じゃないか?」


お兄様は何を言っているのだ。


「そう言われても、マリウス様は騎士連隊をお辞めになったのですもの

連隊の宿舎には、もう泊まれないじゃないですか!」


「ノックもろくにしないで、いきなり部屋に入ってくるヴィクトルがいる屋敷では、私も安心してエリザと一緒の部屋には居られないからね」


わたくしは、マリウス様の言葉に現実を突きつけられてうろたえる。

そうか、結婚したら、マリウス様と同じ部屋で眠ることになるのだ。


わたくしは、急に恥ずかしくなって自分の部屋に逃げ帰ろうとした。

マリウス様が、わたくしの後を追いかけて来る。


「待って、エリザ、未だおやすみを言っていないだろう?」


マリウス様は、わたくしを引き止めると、ぎゅっと抱きしめる。


「今日のエリザは、とても美しくて、眩しいくらいだ

......エリザはどんどん綺麗になるね......私のエリザ......」


マリウス様は、わたくしに何度も口づける。


「......マリ......ウス......様......」


「可愛いエリザ......いい夢を......おやすみ......」


「おやすみなさい......マリウス様......」


「エリザ、本当は......」


マリウス様は、その後の言葉をわたくしの耳にそっと吹き込む。

わたくしの耳は、マリウス様の吐息で熱くなる。

きっとわたくしの顔も、真っ赤になっているに違いない。


「あぁぁ、ゴホン、ゴホン、こんな所が私は不公平だと思うのだ」


遅れて二階に上がってきたのはお兄様だ。


「もう結婚したのだから、私が妻を抱き締めるのに、何も支障は無いだろう?」


マリウス様は、わたくしを初めて『妻』と呼んだ。

マリウス様の言う『妻』と言う言葉には、何と甘い響きを含んでいるのだろう。


「そういう所だぞ、マリウス......とにかく早く、二人ともウルム公国に行ってしまえ」





お兄様に急かされるまでもなく、十日ほどして出入国の書類が揃うと、マリウス様はわたくしを馬車に乗せてウルム公国に出発する。


わたくし達は、朝早く屋敷を出て大きな街道を南に走り、国境を越えて夕方遅くにマリウス様の領地のお屋敷に着く。


お屋敷では、玄関の車寄せの前に、使用人がずらりと並んで出迎える。

マリウス様は、わたくしに領地の新しい支配人のシモンと、執事のベルトランを紹介する。


わたくしの新しい小間使いは、エンマという実直そうな娘だ。

その他にも使用人は何人もいる。


使用人の人選は、ガブリエール叔母様の次男のピエール様夫妻に大層お世話になっている。

初めて来た国で、頼りになる人達がいるのはとても心強い。


わたくしは、自分の化粧室に入って着替えをする。

部屋の左の壁にある扉は、主寝室に繋がる扉のようだ。


マリウス様とわたくしは、食堂のテーブルの端と端に向かい合って座って夕食を摂る。

コックの腕が良いのか、食事はとてもおいしい。


「朝からずっと馬車に乗っていたから、エリザは疲れただろう」


「ええ、そうですね

でも、家の領地に行くよりも道は良かったし、周りの風景も珍しかったので、退屈はしませんでした」


マリウス様は、馬車の中で移り行く風景の説明もしてくれた。


「明日になったら、一緒に屋敷の中を見回って、庭に出て散歩もしよう

エリザの仕事部屋も、ちゃんと用意してあるから」


「あら、嬉しい! わたくしの仕事部屋が、もう出来上がっているのですね?」


「エリザは、仕事部屋に入ったら出て来なくなりそうだね

明日は、領地を馬車で一回りもしたいと思っている

ウルム公国には、エリザが初めて見るような花も多いのだよ」


「わたくしも、一緒に行ってみたいです

とても楽しみですわ」


食事が終わってサロンに移った頃には、わたくしは眠くて堪らなくなってしまう。

わたくしが欠伸を噛み殺していると、マリウス様に見られてしまう。


「エリザは、疲れてもう限界かな?

今日はもう休もう」


わたくしは化粧室に戻ると、小間使いのエンマに手伝ってもらってドレスを脱いで寝間着に着替える。

家に居た時は、下着で眠ったのだけれど、新しい生活のために白いシルクの寝間着を作ったのだ。

ゆったりとした前開きで、ボタンを開けるとガウンの様にも着られるようになっている。


わたくしは、左の壁の扉をそっと開けて、主寝室の中を覗く。

中には誰も居ない。

部屋の中央に、大きな天蓋の付いたベッドが見える。


ベッドは、家族全員で眠れるくらいの大きさだ。

しかもベッドの床面が高くて、小さな足台を使って登る高さだ。


ベッドはふわふわと柔らかく、凭れると身体が沈んでしまう。

こんな柔らかいベッドは初めてだったので、すべすべした手触りを楽しんでいると、いつしかわたくしは眠ってしまった。


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