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ウルム公国からのお土産(その二)

マリウス様は、わたくしの屋敷に一晩だけ泊まって、明日の朝早くウルム公国に戻らなければならないと言う。

本当に手紙とお土産を届けに来たようだった。


わたくしは、マリウス様と一緒に馬車に乗って家まで帰る。


マリウス様は、わたくしの家にもお土産を用意してくれていた。

叔母様と同じ蘭の大きな鉢植えと、果物の詰め合わせ籠、そして、珍しいお酒を半ダース贈ってくれたのだ。


夕食までには、知らせを聞いたお兄様も屋敷に戻って来る。

和やかな会話が弾んだ夕食の後で、サロンに集まると、お兄様はわたくしとマリウス様が座る長椅子の前に陣取る。


「それで、マリウス、ウルム公国での領地経営について、もっと詳しく教えてくれないか」


マリウス様は、明らかに迷惑そうな顔をする。


「それは、夕食の時に大体話しただろう?

私は明日ウルム公国に戻らなければならないから、エリザと新しい屋敷の改修について話しておきたいのだ」


「ああ、分かったよ。

私は黙って聞いているから、エリザと相談すれば良いよ」


「......ヴィクトルは、ミレイユ様と結婚したら、この屋敷に住むのだろう?」


「そう。だから私もこの屋敷に少し手を入れようと思っている。

あと少し経ったら、天使のようなミレイユ様と二人でここに住むのだ」


お兄様は、でれでれと顔が崩れる。

マリウス様は、わたくしの手を握って、すかさず言う。


「私も、可愛いエリザを連れて、コルドン市の屋敷に行くのが待ちきれないよ

エリザの深い藍色の瞳は、ウルム公国で熱狂を引き起こすに違いないね。

それでも、エリザは私だけを見てくれるかな?」


わたくしは、それを聞いて、さすがに顔が赤くなる。


「あぁ、馬鹿馬鹿しい、マリウスの戯言(たわごと)には付き合いきれないよ」


お兄様は立って、お父様のところに行く。


「ベタベタと甘い言葉は聞いていられませんよ。

全く、マリウスはどうかしている」


「ようやく、私達の気持ちが分かったかな?」


お父様は辛辣(しんらつ)だ。

お母様は気を利かせたのか、わたくし達の言葉が聞こえない部屋の端に椅子を移す。



「コルドン市の屋敷にも、エリザの仕事部屋を作ったからね。

どちらの屋敷でも、好きなドレスを作れるよ」


マリウス様は、二つの屋敷にわたくしの仕事部屋を作ったらしい。


「本当に色々と考えていただいて、嬉しいです。

何とお礼を言ったら良いのでしょうか?」


「お礼を言うなら、私に又手紙を書いて送ってほしいね。

エリザの手紙は私の心に強く響きすぎて、どうにかなってしまいそうだった。

どうしてもエリザに会いたくなって、こうして来てしまったのだから」


「あら、だったら、手紙を書かない方が良いのじゃないかしら?

マリウス様は、お忙しい時に、わざわざ帰国する事になってしまったのですもの」


マリウス様は、ちょっと恨めしそうな目でわたくしを見る。


「エリザは私に会いたくなかったの?」


わたくしは、『マリウス様のお顔が見られなくて寂しい』と、手紙に書いてしまったのだ。


「......いいえ......」


わたくしの声は、聞こえないくらい小さい。


「聞こえないよ、エリザ、はっきりと言ってくれないと」


「マリウス様に......お会いできて......嬉しいです......」


わたくしを見つめるマリウス様の瞳が、黒々と輝く。


「私も、エリザに会うために、馬車を飛ばして来たのだ。

明日の朝、ウルム公国に戻る時に、エリザを一緒に連れて行きたい程だよ」


マリウス様の声は、一段と低くなる。


「本当は、今夜、このままエリザをさらってしまいたい」


わたくしは、マリウス様の情熱に(おのの)く。

マリウス様は、わたくしを誘拐するつもりだろうか。


「そんな恐ろしい事は、おっしゃらないで下さい」


マリウス様は、ふっと笑う。


「心配しなくても大丈夫、私はエリザを困らせる事はしないから」


それからは、マリウス様は不穏な事を言わなかったのだけれど、この時のマリウス様の低い声と深い瞳を、わたくしはいつまでも思い出していた。




次の日の朝早く、マリウス様はウルム公国に帰って行った。


わたくしは、またいつものドレス作りに戻る。

叔母様のクチュリエールの仕事部屋に入ると、それまで賑やかに話していたお針子達が、一斉に黙り込む。


「エリザベト様の婚約者のマリウス様は、随分と情熱的な方なのですね」


お調子者のお針子がクスクスと笑いながら話すと、お針子達は次々と話し出す。


「以前は厳しい騎士様だと思っていましたが、今はウルム公国の伯爵様ですもの!」


「女性の噂も無かったのは、エリザベト様を愛していらっしゃったからなのですね」


「だから、あんな風に口づけを......」


キャーっと挙がった嬌声(きょうせい)を押さえて、叔母様は仕事部屋に入って来る。


「さぁ、さぁ、今日も忙しいのよ!

おしゃべりはそれぐらいにして、手を動かして頂戴!」


それからしばらくの間、お針子達は、わたくしの顔を見ると微妙な笑い顔になって、慌てて下を向く。

もう、決して、マリウス様に人前で口づけしないように厳しく言わなければならない。



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