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賦与に掛ける様々な願い

「さぁ、そうと決まったら、これから大忙しよ。

わたくしは、ウルム公国に新しいクチュリエールを立ち上げる準備も始めるわ」


叔母様は、忙しければ忙しいほど闘志が湧いて来るようだ。


「それではわたくしは、ミレイユ様と自分のドレスを作ります。

叔母様が買って来られた生地を見せていただけますか?」


わたくしは、叔母様の生地棚に行って、たくさんの生地を見せてもらう。

今回叔母様が買い込んで来た生地は、本当に素晴らしい生地が多い。


ミレイユ様にも確認は取るけれど、叔母様が言うように刺繍をした白生地をクリーム色に染め上げたら、シンプルでも素敵なウェディングドレスになるに違いない。


「ブレヴィル公爵家のウェディングドレスに合わせて、小物に使えそうな造花やレースもたくさん仕入れて来たのよ」


わたくしは、新しい生地に囲まれて、うっとりする。

叔母様が厳選して買ってきた生地は、さすがに逸品揃いだ。


その中で、とても手触りの良い絹地に目が止まる。

柔らかくて、持ち上げるとさらさらと流れるようだ。


「叔母様、この生地はどうでしょうか?」


「エリザはそれに気付いたのね。

中々の選択よ。

これでドレスを作ったら、生地で見るよりも、仕立て上がりが素晴らしくなるわ」


無地の絹地なので、刺繍されている生地よりもお値段もお手頃だ。

わたくしは、お兄様と同時に結婚するのだから、両親の結婚費用の負担も考えているのだ。


ドレスの生地が決れば、後はひたすら縫って行くだけになる。

綴り合わせていたレースも、ベール用に端の始末をする。

波形のレースを加えると、自分でも惚れ惚れするようなレースのベールになった。



わたくしは叔母様と一緒に、マルグリット様のウェディングドレスの仮縫いでブレヴィル公爵家にお伺いする。

マルグリット様の婚約から結婚までは六ヶ月以上あるので、ウェディングドレスはゆっくりと吟味して作っている。


「リュシアン様も、婚約して少し時間が経って落ち着かれたのか、人前でわたくしを抱き寄せたりしなくなったのです。

でも、落ち着いた愛情が感じられるので、わたくしは前以上にリュシアン様を愛するようになりましたの」


マルグリット様は、とてもにこやかに話す。

以前よりもふっくらとして、愛されている自信に満ちあふれて、別人のように美しい。


「今回のウェディングドレスには『心からの愛』の賦与も掛けております。

リュシアン様も、マルグリット様の愛情を深く感じられるでございましょう」


リュシアン様は、マルグリット様を妹のように愛しているとわたくしに言ったけれど、そういう気持ちから愛情に変わることもあるのだ。


マルグリット様が、幸せな結婚生活を送れるようにと、わたくしは心から願って賦与を掛けたのだ。



ミレイユ様の仮縫いも、順調に進む。

わたくしはミレイユ様に、どんな賦与を掛けたいのかをお聞きする。


「『神への愛』でしょうか......いいえ、それは不敬でしょうね......『詩的な心』......『質素』......『慎み』......どれも捨て難いですが、そうですね『平穏』はどうでしょうか?」


「『平穏』......分かりました。『平穏』の賦与をお掛けします」


兄と結婚して、平穏な気持ちがいつまで続くか分からないけれど、せめて、ミレイユ様には平穏でいてほしいと、わたくしは切に願う。



自分のドレスには、叔母様に賦与をお願いする。

色々と悩んだ結果『ドレス作りの上達』に決めた。


ウェディングドレスに掛ける賦与としては相応しくないかもしれないけれど、これからウルム公国に行ってクチュリエールを始めるわたくしには、ぴったりの賦与だと思うのだ。



毎日ドレス作りに明け暮れていると、一ヶ月はあっという間に過ぎてしまう。

マリウス様が、そろそろウルム公国から戻って来る頃かと思っていた時に、手紙が届いた。


執事のジョセフが、マリウス様の手紙を叔母様の居間に届けてくれる。

ちょうどその時、お兄様がミレイユ様の伝言を持って、クチュリエールに来ている。

叔母様も一緒に、お茶を飲んでいた所だ。


「えっ、マリウスからの手紙かい?

どうしたのだろう、ちょっと見せてくれ」


「わたくし宛ての手紙ですから、お兄様にはお見せしません」


「何かあったのか、私だって気になるだろう。

すぐ封を切って読んで、何があったのか教えてくれ」


わたくしも気にはなるので、封を切って目で読みはじめる。

お兄様は焦れる。


「マリウスは、何と言っているのだ?

ちょっと、声に出して読んでくれ」


お兄様はわたくしに迫る。

待ってほしい、マリウス様の手紙には、声に出して読めない部分だってあるのだ。


「領地の帳簿を調べたら、支配人の酷い横領が発覚したのだそうです。

それで、支配人を追放して、新しい支配人を探したり、領地の改革を始めていると書いてあります。

思った以上に複雑で、もう一ヶ月ぐらい帰るのが遅くなるのですって」


「そうか、マリウスは領地の経営を始めているのか。

私も負けられないな」


「あら、ヴィクトルもやる気が出てきたのね」


「それから、支配人が不正に取得していた屋敷が見つかったそうです。

その屋敷はコルドン市にあって、その改修もこれから始めるそうですよ」


「コルドン市と言ったら、ピエールのデュボア商会のある所よ!」


叔母様は喜びの声を挙げる。


「これで益々、エリザがクチュリエールを始めやすくなるわ!」


叔母様もお兄様も、マリウス様の便りを聞いて意気込んでいる。

でもわたくしは、マリウス様にもうしばらく会えないと分かって、想像していた以上に寂しくなってしまったのだった。



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