デビューのドレスのデザインが決まりました
叔母様のクチュリエールに戻り、遅い昼食を食べた後で、わたくしのドレスの細かい部分のデザインを叔母様と話し合う。
色々なデザインが描かれたモードブックがあって、それも参考にしてドレスのデザインを決める。
わたくしの希望でフリルとレースを上着の袖口と胸回りに使い、胸布とスカートは濃い藍色の布地に細かく刺繍をしたオーガンジーを重ねる。
スカートの上には前の部分が開いているオーバースカートを着けるが、これと上着の色は薄い藍色だ。
オーバースカートには濃い藍色のリボンを散らし、袖口のレースや胸回りにも濃い藍色のリボンをポイントに付けるのだ。
叔母様が決まったデザインをサッと紙に書いてくれると、実際のドレスのイメージが固まる。
ドレスのデザインブックをあれこれ見ているだけでも楽しい。
デザインが決まると、叔母様の客間兼居間の奥に作られた着替え室に入る。
ここで服を脱いで、下着とコルセットを付けた姿で採寸をする。
「コルセットはギリギリまで締めて作った方が良い?」
「いいえ、叔母様、わたくしに注目する人もいないでしょうし、わたくしは舞踏会でダンスを踊るよりは他のお嬢様のドレスを見て回りたいので、コルセットは緩めでお願いします」
「エリザはいつもそう言うけれど、ちゃんとしたドレスを着て、髪も綺麗にセットしたら、振り返られるくらいの美人になれるのよ」
叔母様は、生まれた子供が息子ばかりなので、わたくしを実の娘のように可愛がってくれる。
だからいつもわたくしを贔屓目で見るのだ。
「ドレスの賦与はわたくしが付けるけれど、エリザは賦与は何を付けたいの?」
『美しさ』や『豊満』、『富』などは元々わたくしが持っていないものだし、わたくしの持っている特色で強化できそうな点は何だろう。
『手先が器用』『集中力』『美麗なものが見たい』といった所だろうか。
わたくしが幾つか候補を挙げると、叔母様はわたくしをじっと見ながら考える。
「そうね、それじゃあ『綺麗なものがたくさん見られる』にしましょうか」
その賦与はとても嬉しい。
デビューの日は、さぞかし美しいレースや刺繍が施されたドレスが沢山見られるだろう。
今日は採寸をすればそれで作業はお終いになる。
この後は叔母様がドレスの型紙を作り、それを元に下着に使うような麻布でドレスを作る。
そして仮縫いをして身体にピッタリと合えば、仮縫いのドレスを解き、それを型紙にして本来の生地を裁つ。
裁った生地に刺繍をしたり、レースを付けたりしてから縫い合わせるのだ。
このように叔母様のクチュリエールでは、高級な生地に更に手間隙かけてドレスを作っている。
普通のドレスでも、何人ものお針子で仕事をして優に一ヶ月はかかるので、その間何度も仮縫いやサイズの調整で、貴族や富裕な商人のお客様の元に訪れる事になる。
下着姿のお嬢様達の腕や胸に触れてあれこれと調整のためにお話するし、お嬢様達の賦与のご希望をお聞きしたりするので、ドレスが出来上がる頃にはお嬢様の性格も分かって来て、悩みや望みなどのお話をされることも多い。
勿論、そこで聞いた話は誰にも話せないけれど、叔母様とわたくしの間では愚痴や仄めかしでしゃべってしまう事はたまにあるのだ。
わたくしの採寸も終わった頃に、生地問屋から買い求めた生地が届けられた。
改めて見ても、とても綺麗な薄い藍色のシルクタフタで、ドレスに出来上がったらさぞ美しいだろうとうっとりと生地を撫でる。
濃い藍色の生地には、今刺繍をしているオーガンジーの布を合わせると、刺繍が浮き立ってとても素敵だ。
この刺繍もどんどん進めて行かなければならないと、わたくしは逸る気が満ちて来る。
そして濃い藍色の生地を見て、マリウス様のリボンを思い出した。
この色は、マリウス様の制服のカフスに使われている生地と同じ色なので、この布でリボンが作れる。
ただ、そうなると、わたくしのドレスとお揃いになってしまう。
でも髪油で汚れやすい髪のリボンはハンカチーフや下着と同じで消耗品だから、二ヶ月以上先のデビューの時にはもう使われていないはずだ。
流行り物は使われる時期も短いので、取り敢えず一枚作ってマリウス様にお渡しすれば良いだろう。
わたくしは叔母様に断って、濃い藍色の生地から百五十エレ(約一メートル)ぐらいの細長い生地を切り取る。
この布の縁かがりをした後でマリウス様のお名前を銀糸で刺繍するのだ。
勿論『女除け』の強力な賦与も忘れてはならない。
細い同色の絹糸で細かく縁をかがり、固いクッションのような刺繍台の上にリボンをピンで留め付けてから、銀糸を刺繍して行く。
少し黒ずんでしまった銀糸が、かえっていぶし銀のようにリボンに映える。
リボンの片方の端に『マリウス』と装飾的な筆記体で描き、反対の端には頭文字のMを飾り文字で刺繍した。
こんなリボンはわたくしも見たことがないので、なかなかお洒落なリボンになったと思う。
勿論、刺繍している間ずっと『女除け』の強力な賦与を掛け続けていたので、そちらの絶大な効果も期待したい。
結局二日掛けて、わたくしの満足の行くリボンが出来上がった。
叔母様はわたくしが作ったリボンを手に取って、裏もひっくり返してしげしげと見た。
「名前を刺繍したリボンは見た事が無かったけれど、面白いデザインね。刺繍も綺麗にできているわ」
わたくしは叔母様に褒められて、それだけでとても嬉しかった。




