ウェディングドレスのデザインが決まりました
マリウス様が王都に出発した二日後に、わたくし達も領地を離れた。
わたくしとお兄様が同時に結婚するので、両親も王都で慌ただしく結婚準備をしなければならないのだ。
わたくしは、王都に着いた翌日、朝から叔母様のクチュリエールに急ぐ。
「あら、エリザも領地から帰ってきたのね。久しぶりの領地で、少しはゆっくりできたのかしら?」
「それが、叔母様、ウェディングドレスを二着、三ヶ月以内に作って頂けるでしょうか?」
「それは随分と忙しいのね。
領地の近くで、どなたかご結婚なさるの?
ブレヴィル公爵令嬢のマルグリット様のウェディングドレスもあるから、お針子を増やさなければならないわ」
「実は、お兄様が、隣の領地のモンテマール子爵令嬢のミレイユ様と結婚する事になったのです」
「まぁ! 本当? 驚いたわ! ヴィクトルが結婚?」
「ええ、ミレイユ様も詩に興味がおありで、お兄様と趣味が合ったのですって」
「えっ、知らなかったわ。ヴィクトルは詩に興味があったの?」
「ええ、そうらしいです」
「何が結婚の切っ掛けになるか、分からないものね」
「ミレイユ様はお兄様と同い年なのですが、修道院に長く居られて、この夏に領地に戻られたばかりだったのです」
それを聞いただけで、叔母様は事情を察したらしい。
「あぁ、そうなのね。
それでモンテマール子爵家では、お嬢様の結婚を急がれているのかしら?」
「三ヶ月後になった訳は、もう一つあるのです。
わたくしも、実は、マリウス様と結婚して、ウルム公国に行く事になりました」
「何ですって! エリザも結婚するの? あと三ヶ月で?」
「はい、そうなってしまいました。
マリウス様のお父様は、ウルム公国の伯爵だったのですが、マリウス様以外の相続人が、全員亡くなってしまったのだそうです」
「それじゃ、マリウス様はウルム公国の伯爵になられるのね?」
「そうなのです。
今は、色々な手続きの為に、マリウス様はウルム公国に行っているのです」
「エリザとマリウス様が、お互いに好意を持っているのは、わたくしは前から分かっていたわ。
マリウス様は貴族になれるので、エリザに求婚できたのね」
「貴族かどうかは、結婚に関係ないと思いますが?」
「エリザのように、ドレス作りが大好きで、生き甲斐になっているような娘に結婚を申し込むなら、ドレス作りが自由に出来る環境を揃えなければならないでしょう?」
「そういえば、マリウス様はこれから住む屋敷に、ドレスを作る作業部屋を作ってくださるのです」
「マリウス様はエリザを愛しているから、エリザの希望を叶えようとしているのね」
「マリウス様は、わたくしを愛しているのでしょうか?」
わたくしは、マリウス様がウルム公国に出掛ける時に、わたくしをきつく抱きしめてキスをした事を思い出す。
ウルム公国の『情熱の血』だと、マリウス様は言った。
「ほら、エリザも赤くなっているじゃないの。
自分でも、愛されている事は分かっているのでしょう?」
「マリウス様は、わたくしを妹のように可愛がっているのだと、思っていたのです」
「ヴィクトルの態度と、マリウス様とでは、だいぶ違っていたでしょう」
「それはもう、全然違っていましたとも!」
兄は、あのヘッポコ兄は、わたくしを貶すことが親しさを表すとでも思っていたのだろう。
どうか、同じ過ちをミレイユ様にしませんように!
「それで、エリザは三ヶ月で結婚式をして、マリウス様とウルム公国に行くのね」
「はい、お兄様が結婚するミレイユ様は、長く修道院にいたせいか、結婚式も簡素にしたいと言われたのです。でも、モンテマール子爵夫人が、せめてウェディングドレスをミレイユ様に着せたいと思われて、わたくしが作る事になったのです。
結婚式の招待客も、内輪の人だけにしたいとミレイユ様は言うし、披露宴も控えめにというので、わたくしの結婚披露宴と同時に行うことになりました」
「あら、そうなのね。
考えてみたら、マリウス様にはご親戚がいないし、騎馬連隊の騎士様達を披露宴に招待するのも一緒の方が都合が良さそうね」
「はい。モンテマール子爵家にも賛成して頂きました。
結婚式は、王都の教会で同じ日に時間をずらして行って、その後で結婚披露の夜会を合同で開く予定です」
「短い間に、すっかり結婚のあれこれが決まってしまったのね。
結婚式までに本当に時間がないから、エリザはしっかりと仕事をしなければならないわ」
「ええ、わたくしは、真っ白なウェディングドレスを自分で作って、それを結婚式で着るのが夢なのですもの。
そのためには、徹夜だってしますわ」
「徹夜はお肌に悪いから、しては駄目よ。
花嫁は美しくなければね。
ドレスのデザインは、何か考えているの?」
「ええ、総レースのドレスはどうでしょうか?
領地にいる時に、手持ちのレースを綴り合わせてみたのです」
わたくしは、自分で作ったレース布を叔母様にお見せする。
「まぁ、丁寧に綴り合わせたのね!
様々なレースで、絵のようになっているわ!」
「ええ、組み合わせると、綺麗な絵になりそうだと思ったのです」
「これをドレスにしてしまうのは、かえって勿体ない気がするから、このレースは長いベールにしたらどうかしら?」
「ベールにしたら、柄も浮き立ちそうですね」
「総レースのドレスにレースのベールを重ねると、ゴチャゴチャとしてしまうから、ドレスはシンプルで上質な、白い絹の生地にした方が良いと思うの」
わたくしの頭の中に、完成したドレスの形が浮かび上がる。
このドレスを着て、教会の中を歩くのだ。
わたくしが綴り合わせた、絵のようなレースのベールを着けて歩く姿を思い浮かべた。
その時、わたくしは、肝心な事に気付く。
わたくし自身は、その完璧な後ろ姿を見ることが出来ないのだ!




